メゾン・エ・オブジェ・パリに集った日本企業とその魅力

▲ 1月展の出展者数は約2,900ブランド、ビジターは約86,000人に上った。日本からのビジターは前年比約58%アップと注目の高さを伺わせた。©Francis Amiand

年2回開催されるデザインとライフスタイル分野の見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」。その9月展の概要が発表されたばかりだが、今年1月展のホール7「Now!」には多くの日本企業が出展し、注目を集めていた。その模様と各社の手応えを紹介する。

まず、メゾン・エ・オブジェ・パリのメッセージ展示「インスピレーション・スペース」の向かいにブースを構えた「MISOKA(ミソカ)」。株式会社夢職人による、ナノミネラルコーティングという独自技術によって、歯磨き粉不要、朝磨くと夕方まで歯の表面の滑らかさが保たれるという歯ブラシのブランドだ。透明なシャンデリアのように見えるオブジェは、実は大量の歯ブラシ。美しさと驚きを備えた展示に多くのビジターが足を止めていた。

▲ MISOKA(ミソカ)の名前の由来は、30日(みそか)に一度の交換を推奨していることに由来する。

また、maison koichiro kimuraによる「MIYAVIE(ミヤヴィエ)」もいつ行っても大勢のビジターに囲まれていた。漆器やテーブルウェアなど、伝統を踏まえつつ型を打ち破るようなデザインで知られる木村浩一郎がディレクターを務めるポリエチレン樹脂の新素材である。MIYAVIEでできたソファやテーブルといったプロダクトだけでなく、ブースの床も壁もMIYAVIEだけで構成。白一色の空間は、さまざまな出展者が集うなかで強烈なインパクトを放っていた。

▲ 機能性、衛生面、100%リサイクル可能といった点が高く評価された、MIYAVIE(ミヤヴィエ)。「ポリエチレンがアートになるということに世界の人が注目してくれています」と木村。©maison koichiro kimura

後日、いくつかの日本企業に話を聞くと、「来展者数が約5,000名、アテンド数約2,000名、商談者数360名」と具体の数字を挙げてくれたところがあり驚いたが、これは手応えと自信の現れだろう。また「自動車メーカー、メゾンブランド、ジュエリー、時計、スポーツといったさまざまな企業との取り引きが始まった。今後よりグローバルに展開していくと思う」という展望を得たところもある。


▲ 1月のデザイナー・オブ・ザ・イヤーに輝いたピエール・シャルパン、ホール7の自身の特別ステージにて。©Govin Sorel

メゾン・エ・オブジェ・パリでは毎回インスピレーション・テーマを設けて展示をするが、1月展はこれまでより社会性の強いメッセージ「サイレンス(静寂)」を掲げた。これは2002年に設立されたトレンド観測所が、新しい消費傾向や暮らしをリサーチし考察することで、今後のライフスタイルのキーワードを提案するものだ。「サイレンス(静寂)」とは、言葉やイメージの絶え間ない喧騒やせわしない時代に落ち着きをもたらそうという意図である。インスピレーション・スペースの空間デザインを手がけたエリザベス・ルリッシュは、「警鐘を鳴らすのではなくポジティブなメッセージ。静寂はバランスをとるための秘訣であり、調和や自分自身を取り戻し、幸せへと向かうもの」と説明した。

▲ エリザベス・ルリッシュによるインスピレーション・スペース「サイレンス(静寂)」。アーキタイプとしてのオブジェ。©Govin Sorel

余談ながら、そのルリッシュらが昨秋立ち上げたものにマレ地区の「アンプラント」がある。フランス工芸家組合の作家たちの製品を集めた、ギャラリーやミニシアター、カフェを併設したショップである。日本の伝統工芸品の多くがいまだ普通の人々の生活から遠い存在なのに対し、アンプラントの製品はどれも手の痕跡を残しながら現代的で価格も手頃。普段使いの工芸品というジャンルを生み出している点ですでに見逃せないショップとなっている。

▲ アンプラントのショーウィンドウとギャラリーでは「エクスポジション・クレージー」展を開催していた。

最後に最も印象に残った出展者のコメントを紹介したい。メゾン・エ・オブジェ・パリにはグローバル企業から、つくり手が売り手でもあるデザイナーメーカーまで、大小さまざまなブランドが集う。そのうちのひとりのデザイナーメーカーが、「初日の夜に同じエリアの出展者たちとシャンパンを開けて互いを称え合う。多くの人が顔なじみ。互いにこの半年、もしくは1年、一生懸命にクリエイションし、またこの場に戻ってくることができた喜びを分かち合う。そんな雰囲気はここにしかない」と語ったことだ。

クリエイションの紆余曲折を乗り越えてメゾン・エ・オブジェ・パリという舞台に立つことができる。その緊張感と高揚感が見本市を特別な場にしている。End

なお、次回のメゾン・エ・オブジェ・パリは、9月8日(金)〜12日(火)。詳細は、http://www.maison-objet.com/en をご覧ください。