年に2回パリで開催されるメゾン・エ・オブジェは、インテリアデザインとライフスタイルに関連した多彩なセクターが集う国際展示会として、バイヤーやプレスクリプターから常に注目を集めてきました。しかし、ホールや出展企業数の拡大によって見所が増える一方、近年新たな課題となっていたのが、東京ドーム3個分という巨大な会場を来場者がいかに効率よく見て回れるかというアクセシビリティの問題です。

主催者発表によればメゾン・エ・オブジェの平均滞在時間は約1日半。限られた時間で求めるものを効率よく見つけてもらうことは展示会の質に直結します。そのため主催者は外部のコンサルタントなどを招聘し、1年半近くにわたり時代やニーズに合わせた展示会のあり方について議論を重ねてきました。

▲「メゾン」と「オブジェ」のふたつに大別される会場構成。対象ごとに目的に容易にアプローチできるようセクターやスタイルの分類にも工夫を施す。

今年の1月展で告知されていた通り、こうした課題に対して主催者が出した解決策が展示ホールの再編です。動線をシンプルにすること、来場者と出展企業とのマッチングを高めることを目的に、会場を「メゾン」と「オブジェ」のふたつに大別。目的やカテゴリーに沿って効率よく会場を巡り、欲しいものに的確にリーチできるようにすることで、訪れた人たちの満足度を上げる狙いがあります。

▲会場正面から向かって右側、ホール5A〜8で展開されるのが主にプレスクリプターを対象とした「メゾン」ゾーン。インテリアデザインとライフスタイルに関する新たなアイデアやソリューションがスタイル別に紹介される。

「メゾン」のゾーンでは、「ユニーク&エクレクティック」「トゥディ」「フォーエバー」「クラフト」という4つのスタイルに分類した展示を通じ、刺激的なアイデアや新たなインスピレーションとの出会いを促します。同ゾーンの再編を主導したアン・ヌーベル・エアの創業者で、デザインコンサルタントのフランソワ・デルクローは、「インテリアデザイナーや建築家が重視するのは、インテリアにおけるスタイルであり、家具や装飾、クリエイティブで技術的なソリューションを通じたライフスタイルへのアプローチです」と話します。

プレスクリプターと呼ばれる層の購買意欲を引き出し、新たなインスピレーションを誘発する魅力的な空間演出やプレゼンテーションが展開される同ゾーンでは、個性的で優れた感性を持つプレミアムブランドを集積した「シグネチャー」と呼ばれるスペースや、空間デザインのための革新的な試みや解決策を提示するふたつの「プロジェクト&ソリューション」スペースも併設されます。

▲会場正面から向かって左側、ホール1〜5Bで展開されるのが百貨店や小売店のバイヤーを対象とした「オブジェ」ゾーン。空間やライフスタイルに彩りを与えるアイテムが製品カテゴリーごとに紹介される。

小売店のバイヤーを主対象にするのが「オブジェ」です。パリの人気セレクトショップ、メルシーの創設メンバーのひとりであるジャン・リュック・コロナ・ディストリアのもとで17年9月展より段階的に再編を実施。9月展では「クック&シェア」「スマートギフト」「ファッション・アクセサリー」「キッズ&ファミリー」「ホーム・アクセサリー」「ホーム・フレグランス」「ホーム・リネン」というプロダクトごとに展示整理され、新しい商材やアイデアにこれまで以上に容易にアプローチできる機会を提供します。

▲大胆なホール再編に踏み切ったメゾン・エ・オブジェを主催するSAFIのCEO、フィリップ・ブロカール。6月初旬に来日し、日本のプレスや出展者に向けて自らその意図を説明した。

今回のホール再編や9月展の見どころについて、先頃フランス大使館公邸で会見を行ったメゾン・エ・オブジェを主催するSAFIのCEO、フィリップ・ブロカールは次のように語りました。「9月のメゾン・エ・オブジェはこれまでにない特別なものになるでしょう。バイヤーの方々にはより効率的に会場を見てもらえるはずですし、若い才能に出会える機会も増やしてきます。また、会期中会場で行う講演会やワークショップは60を超えるでしょう」。

▲お決まりのルーティン（順路）に別れを告げ、新たなサプライズ（体験やインスピレーショ）と出会う場へ。メゾン・エ・オブジェの進化の全貌が9月展で明らかに。

インターネットの普及は情報へのアクセスを容易にし、それによって新たなビジネスや創造の機会は大きく向上しました。一方で、かつて新しい商品情報やトレンドを知ることができる重要な場であった見本市や展示会は、ネットの登場によって存在意義が問われているのも事実です。そんな声に対して「ホール再編」を核に、目的に対するアクセシビリティの向上と刺激的体験の醸成というふたつの軸で進化した展示会のあり方を示すメゾン・エ・オブジェの9月展。その動向に今から期待が高まります。