仕事は属人化させたほうが面白い!
パナソニックのデザインディレクターが上海で気づいたこと

▲どんどん増える新しい人とのつながり。皆様のおかげで仕事ができることを日々実感します。Photo by Misa Nakata

「仕事を属人化させるな」とは、しばしば聞く話ですが、中国で働いていると、属人化したほうが新しい出会いを通じて面白い仕事が来る、というのを常々実感しています。

例えば、とある日系企業の方が弊社を訪問し、「私この秋から上海赴任なんです」と雑談していたら、「あの〜、相談があるんですけど。パナソニックさんの電動歯ブラシを当社の記念品としてロゴ付きでつくってもらえませんか? 津田さんにお話したらできるのかなと思って……」。

「いいですよ、マーケティングの責任者に相談してみますね」と、メールでちょこちょこやり取りし、「マーケティング責任者の了解を取れました。担当窓口を紹介しますので、直接進めていただいて大丈夫ですよ」。

わずか数日で、新しいビジネスのお話がひとつつながりました。

また別の日。あるデザイン提案の内容がとても好評だったため、マーケティング責任者から「このビジュアルイメージをそのまま、3カ月後の展示会で使いたいんだけど。津田さん、デザインセンター主導でポスターの撮影など進められるかな?」と耳打ちされました。「いいですよ、やったことないですが、面白そうなのでやってみましょう!」。

日本だと、デザイン、マーケティングと部門間の役割分担がハッキリしているため、ここから先は別部署がやる、と組織間でワークシェアリングが行われるのですが、人的資源が極端に少ない、うまく言えば少数精鋭で進めている中国の体制では、いちばんパフォーマンスを発揮できる部署や人が、その仕事をするのが早くて良いものができる、という思考になることがあります。

▲デザイン部門でつくった展示会用のポスター。さまざまな場で活用されています。

このときは、オフィシャルで使うポスターといった平面媒体の撮影など、デザインセンターでやったことがなかったものの、知り合いのインテリアデザイナー経由、カメラマン探し、撮影スタジオ探し、写真のレタッチャー探し、料理や小物のコーディネーター探しと、人と人のつながりをたどってプロフェッショナルが集うチームができ上がりました。それもまた無事滑り込みセーフで、展示会用のビジュアルが完成したのです。大きな企業でこうした柔軟な進め方はなかなかできないので、まるで七人の侍のような、ひとりひとりが専門性に富んだ人たちとの一体感ある業務で、とてもワクワクしたのを覚えています。

同じプロセスの繰り返しといったルーティンワークではない、さらに「Every day is Special day」であるばかりに前例活用が困難な仕事も多い。そうなればルールや組織で仕事が動くのではなく、その時々で最短かつ最適なフォーメーションを組むという発想方法となり、結果、名指しで仕事が来ることにつながっていくのだと思います。

たぶん、日本も昔の経済成長期には、ひとりひとりがセールスマンのような立ち回りで、自分の足で仕事を取ってくる、というベンチャービジネス的な要素が多分にあったのだと思います。経済が安定し会社が大きくなるにつれて、仕組みで動く、いや下手をすると動かされることに慣れてしまってはいないでしょうか。

常に自ら考え、自ら責任を取りながら暗中模索のなかから情報を集めてゴールを目指す、いわばアニマルスピリットが知らず知らずのうちに鈍ってしまったのではないかと、日本を離れて感じるのは、私だけでしょうか。End