無印良品の製品と僕の彫刻は、考え方が似ている。
冨井大裕
「コンポジション -モノが持つルール-」展

▲「コンポジション -モノが持つルール-」展の会場風景(以下、会場写真はすべて展覧会提供)

無印良品 有楽町の2階にあるATELIER MUJI(アトリエ ムジ)で、美術家の冨井大裕による展覧会「コンポジション -モノが持つルール-」展が6月24日まで開かれている。鉛筆、画びょう、ハンマー、スーパーボールといった身近な既製品の色や形、人間の創意工夫に着目し、それらを彫刻としてとらえ直した作品だ。冨井は、無印良品の製品を使った彫刻の制作を試みた。美術館ではなく、店舗内のスペースという環境も相まって、大量生産品とアート作品の境界があいまいになり、ものの見え方が変わってくるようだ。日ごろ数多くの既製品を扱っているが、「無印良品の製品をほとんど使うことはない」と語る冨井に、本展の狙いや作品について尋ねた。

冨井大裕(とみい・もとひろ)/既製品に最小限の手を加えることで、それらを固定された意味から解放し、色や形を備えた造形要素として、「彫刻」のあらたな可能性を模索する。Twitterに毎日発表される「今日の彫刻」などとあわせ、既存の展示空間や制度を批評的に考察する活動でも注目を集めている。

きっかけは無印良品のバインダー

ATELIER MUJIから冨井さんに声がかかった経緯を教えてください。

発端は一冊の本なんです。RONDADE(ロンダード)という出版レーベルから出た作品集「関係する/Interact」では、初期から2015年までの、僕の主に既製品を使った作品をまとめています。まとめると言っても、年代はバラバラだし、キャプションやテキストもなくて、あるのはフォトクレジットくらい、という過激なまとめ方なんです。この作品集をつくるにあたり、既製品を扱う僕の仕事をさらに既製品でバインドするということで、無印良品のバインダーを提供してもらったのがきっかけです。

▲作品集「関係する/Interact」(発行:RONDADE) Photo by Masato Ono

無印良品のバインダーを採用した理由は?

無印良品の半透明のバインダーは、内容をそれほど“侵食”しないでバインドしてくれるし、「ファイルと言えば無印」というイメージもあるので。ただ、僕自身の作品では、無印良品の製品はほとんど使っていないんですよね。

それはなぜですか。

よくできすぎているんですよ。とても手強い。作品に使ったのは、このゴミ箱くらいかな。僕は既製品を積んだり並べたりして作品をつくることが多いのですが、そもそも無印良品の製品は積んだり並べたりを前提につくられているので、逆にそういった制作手段が使いづらいのです。

▲waste basket and waste paper(aluminum)2012
アルミニウム製ゴミ箱、紙、29×22×22㎝
Photo by Masaru Yanagiba ©Motohiro Tomii, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

アーティストとしては「やりづらい」と。

はい。バグを見つけられない。で、敬遠していました。もうひとつ理由があって、以前から、僕が彫刻で考えていることと、無印良品の製品で考えられていることは近いかなと思っていたんです。でも、似たもの同士というのはなかなかうまくいかないもので。意識はしていたんだけれど、平行線上のまま近づかないという感じがありました。

指示書があれば誰でも美術作品をつくることができる

ATELIER MUJIで展示をすることが決まったときには、どのように考えていったのですか。

当初、作品集のなかから作品を選んで展示するという案もあったのですが、何かこの環境でしかできないことをやってみたいと思いました。でも、単に無印良品の製品を使って作品展をするのは芸がない。無印良品はモノよりもコト、すなわち行為を重視しているように思うので、「モノがベースとなってコトが起きている」ような状況を考えました。

▲「コンポジション -モノが持つルール-」展の会場は、さまざまな展示やイベントを行うスペース。現代美術の展覧会は初めてだ

▲composition for MUJI #4 “歪みと直線”
ポリプロピレン スタンドファイルボックス ワイド・A4・ホワイトグレー 木材(ラジアタ丸棒)

▲指示書。ファイルボックスの重ね方や丸棒を差し込む角度などを詳細に説明。「グッ」「グッ」と力を入れてファイルボックスを押し込むことがポイントのようだ

それぞれの作品には手書きの指示書が添えられています。

僕は普段、作品をつくるときに指示書をつくるんです。というのも、作品を展示し終わって片づけると、ただのモノに戻っちゃうので。作品として成り立たせるための芯となる構造、取扱説明書、すなわち指示書が必要なのです。

▲composition for MUJI #17 “おしゃべりな棚”
スチールユニット シェルフ・スチール棚セット・中・グレーと、同じシリーズのサイドパネルやバックパネルを使用。2台でひとつの作品

▲指示書。基本的な組み立ては付属の説明書に従ったうえで、脚の高さを一段分ずらしたり、サイドパネルで全面を覆うことが指示されている

普段は指示書を展示していませんよね。

そうですね。美術館ではフィジカルな立体のほうが作品として際立ちますので。以前に、指示書と、材料の既製品を箱にしまった状態で見せたことはあったんですが、実際の立体と一緒に置くことはこれまで難しいと感じていました。今回初めて両方を展示しています。これは店舗という環境だからこそできる。「作品のオリジナル性はどこにあるのか?」という問いかけが、店舗内で展覧会が開催されることによって効いてくるというか。実はフライヤーもただの宣伝チラシではなくて、作品に使った製品が店舗内のどこに置かれているかが示されているマップになっています。

▲本展のフライヤー。グラフィックデザインはten piecesの川村格夫

指示書はどんなことを意識して書くのですか。

他者に読まれることを意識しています。普段の制作ではごく一般的な、アノニマスなもの、例えば鉛筆を素材にする場合、「これが鉛筆だ」と誰もが定義できるサイズや形の鉛筆を選ぶので、特定の製品でなくてもいい。指示書さえあれば、最初に選んだ製品が廃番になっても作品はできる。そして、指示書さえあれば、別に僕が組み立てる必要はありません。人に見られたときにわかりやすいもの、再現できるものを心がけています。

鑑賞者はその気になれば、この指示書を見て、製品を買って、実際に冨井さんと同じ美術作品をつくることができる。まさに「つくるコトをつくっている」というわけです。それは無印良品のDIYの精神にも通じるように思います。

▲composition for MUJI #16 “波”
再生紙 ダブルリングメモ・A7・ベージュ、ポリプロピレン カバー ダブルリングメモ A7

▲composition for MUJI #8 “上面を見よ”
ポリプロピレン バインダー A4・30穴

無印はアノニマスだから、本当は僕の名前がないほうがいい

ところで、タイトルにもある「コンポジション(構成、構図)」について教えてください。

「構成」というと、組み合わせ方を変えることによって違う価値や見方が生まれてくるような意味合いがあると思いますが、作曲という意味から考えると、先ほどの指示書に近くなる。僕は「コンポジション」という言葉をよく使うのですが、組み立て、構成という意味と同じく、作曲、振り付けという意味合いを意識しています。

音楽は、楽譜があって、演奏する人によって変わるわけですよね。僕の指示書も、それを読む人の印象によって作品の形が変わるかもしれない。もっとラフにつくる人もいるかもしれない。でもこの指示書を基につくられたものであれば、見え方が違ってもいいと思っているんです。

また、人の手だけを使った作品があるのですが、これは指示書だけがあれば成り立ちます。ダンスの振り付けのようなものです。人によって形は結構変わってきます。つくりづらいものもあるかもしれません。つくることで自分の手を知ったり、手という概念を知ったりする。実際のモノを扱うことでわかることがあるのです。

▲hand work 2010
指示書にしたがい、観客は自分の手を素材に作品をつくることができる
Photo by Masaru Yanagiba ©Motohiro Tomii, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

今回、作品に使う製品はどういう点を意識して選びましたか。

この展覧会は無印良品の製品に限定するという特別な機会ではあるのですが、なるべく無印良品が今後もつくり続けるだろうというものを選びました。バインダーとかスチールの仕切り板、シェルフなどですね。衣料品も入れたかったけれど、あまりうまくいきませんでした。

▲(左)composition for MUJI #6 “薄く、曲がり、繋がる、姿”、(右)composition for MUJI #7 “薄く、曲がり、繋がる、姿”
壁掛式CDプレーヤー用スタンド シルバー

▲(左)composition for MUJI #19 “引き出しの構成−2”、(右)composition for MUJI #19 “引き出しの構成−1”
ポリプロピレンケース 引出式・深型 ホワイトグレー

特に気に入っている作品はありますか。

スチール仕切り板の作品は好きかな。あくまで好みですけれど。

▲composition for MUJI #3 “展開する9枚の仕切板”
スチール仕切り板(大)

作品のシンプルな色や形に、背景のビビッドな壁紙が効果的です。

会場設計は、HIGURE17-15casというアートエンジニアグループが手がけています。

展覧会で会場の設営だけではなく、作品の展示位置や置き方など、ここまで他のクリエイターにお任せするのは初めてなんです。無印良品はアノニマスであるという姿勢を大事にする会社だと思うので、本当は僕の名前もないほうがいい。であれば、自分で全部やる必要もないし、いろいろな立場の人が関わることでうやむやにしたい。そもそも、僕の作品は既製品でできているので、ほかの誰かがほとんどつくったものを、僕がちょっといじっているにすぎません。だから自分の展示だと言いつつ、ほかの誰かがそこで何かをやっていても一向に構わないのです。End

ATELIER MUJI「コンポジション -モノが持つルール-」展

会期
2018年4月20日(金)〜6月24日(日)10:00〜21:00 *入場無料
会場
無印良品 有楽町 2F ATELIER MUJI
詳細
http://www.muji.com/jp/events/ateliermuji/
*トークイベントは現在キャンセル待ちを受付中