ヘラ絞り加工から生まれた照明「ALED」
唯一無二の技術が世界ブランドをつくる

▲テーブルランプとペンダントで構成される「ALED」。「持ち運べる安らぎ空間」をコンセプトとした新製品は充電式のコードレスタイプ。 Photo by Akio Tomari

「照明は空間の主役になれる」。その可能性を目指し、ブランド「NEEL(ニール)」は産声をあげた。第一弾となるシリーズ「ALED(アレッド)」は、昨年の発表以来、
国内外の注目を集めている。その開発について、盛光SCMの代表である草場寛子氏とデザインを担当した喜多俊之氏に話を伺った。

次なる一歩を踏み出すきっかけ

簡潔で無駄がなく、強いインパクトを与える「ALED」。アルミニウムのAとLED から付けたシリーズ名である。無機質な素材を用いながらも安らぎを感じさせる温かさがあり、どんな空間にもフィットする懐の深さがある。イタリアのギフト・インテリアの見本市「HOMI(ホーミ)」に出品すると、そのユニークなデザインとLED 照明としての機能性やアルミ加工技術との融合が来場者の視線をさらい、現地メディアに数多く取り上げられ、好評を得た。

盛光SCMは東大阪で1963年に創業したメーカーで、現代表の草場寛子氏は3代目にあたる。創業者はヘラ絞り加工を得意とする職人だったという。東大阪は工場密度が全国一位というものづくりのまち。事業所数は今も6,000を超えるが、大手企業にパーツを提供してきた工場が多く、時代の変化への対応が急務となっている。

▲盛光SCM代表の草場寛子氏。 Photo by Aki Kaibuchi

次なる一歩を踏み出さなければと考えていた盛光SCMの草場氏は、2015年、視察としてミラノサローネの照明展を訪れた。照明の世界の可能性に心躍らせたその会場でデザイナーの喜多俊之氏と初めて出会う。その際、「次は見る側ではなく出展する側で来てくださいよ」と言われ、その発想に驚いたという。そして「多くのブランドメーカーが小さな工場から出発している。オーナーができると思えば実現する」という喜多氏の言葉に勇気づけられ、夢が芽生えた。

デザインは成功しないと意味がない

草場氏はそれまでスポットライトなどのテクニカル照明分野のデザイナーとは接点があったものの、コンシューマ向け製品でデザイナーとどのように協業すべきか迷っていた。意を決して訪ねたのが、ミラノで言葉をかけてくれた喜多氏の事務所だった。そこで尋ねた「デザインは何で決まるんですか」という問いに対する喜多氏の言葉で一気にスイッチが入った。「デザインとは使う人への思いやりと、つくる人への気配り」と言い切る喜多氏と自分のものづくりへの指針が重なったのだ。

もともと草場氏の頭には、最初の製品はヘラ絞り職人を主役にしたいというアイデアがあった。これまでもたびたび、日用品のデザインでヘラ絞りの技術を活用してきた喜多氏にとっても身近な技術で、また、その企業が「いちばん自慢にしているもの」が主役という氏のモットーにも合致していた。

▲ デザイナー 喜多俊之氏。 Photo by Aki Kaibuchi

喜多氏は、ヘラ絞りで漏斗状にしたアルミをふたつ重ねるというシンプルなデザインをその場で描き、さらにディテールをより軽やかに仕上げていった。形だけでなく、テクスチャーや色にもこだわった。とりわけ色彩は付加価値になり得て、ブランドの印象を左右する大きな選択であると吟味し、シャンパンゴールドを採用。その選択が、世界市場に通用する、ハイエンドな製品となる決め手のひとつとなった。こうして、1年で商品ラインナップは揃い、HOMIへの出展が実現した。「デザインは、成功しないと意味がない」と喜多氏。「日本の中小企業は、世界に羽ばたくべき。そのためにはイノベーションを実現しなければならない。日本だからこそできるものを世界の人に使ってもらうのです。そして、そのためにはスピードも重要です」。

町工場を活気づける日本の技術

ALEDのもうひとつの主役は盛光SCMの出発点でもある「ヘラ絞り」だ。金属板を回転させながらヘラを押し当てて変形させる手業で、ALEDの脚部のように、アルミを細く長く変形させるのには熟練の技術が不可欠。ものづくりの東大阪を象徴する技術と言える。

ヘラ絞りを担うのは、この道60年という古賀光夫氏(古賀製作所)だ。厚さ1ミリの円盤状のアルミニウムを回転させ、摩擦力と回転スピードの加減でアルミを自在に変形させていく。ヘラ絞りが魅力ある製品となったことで、「技術が再び注目され後継者が育てば」と古賀氏は期待を寄せる。

▲古賀光夫氏(古賀製作所)。 Photo by Aki Kaibuchi

▲合理化のために工場には自動機が導入され、手絞りヘラ加工ができる職人はいまや日本でも少ない。希少な技術が、ほかではできない照明器具を生んだ。 Photo by Aki Kaibuchi

草場氏も「東大阪の職人の技術で、日本の町工場を活性化したい」と意気込みを見せる。ALEDは脚部を中央でつなぎ合わせているが、微細なズレも生じないよう、職人はあえて断面を斜めにして組み合わせた。職人自らこだわった一手間である。「数字を優先するあまり、日本の町工場から従来のものづくりの楽しさが失われました。でも職人は技術に誇りをもって仕事をしています」。草場氏の想いは着実に製品に宿っている。

「照明器具はもっと進化できる。NEELらしいオリジナルな開発を現在も進行中」と今後の展望を語る草場氏。自社の領域にとらわれず、既成概念を超え新たな提案をしていくNEELから、今後も目が離せない。

▲草場寛子氏(左)と喜多俊之氏。草場氏は、ミラノサローネで「照明は空間の主役になれる」と心打たれ、以後、ものづくりの最前線に立ち続けている。「デザインは経営者の意思がつくる。デザイナーは経営者とたくさんコミュニケーションを取ることが大切。最初に会ったときから、この人だったらやり遂げると思っていました」と喜多氏。 Photo by Aki Kaibuchi

(文/石黒知子 写真/泊 昭雄、貝淵亜季)

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https://www.seiko-scm.co.jp/neel_contact/

※この記事はAXIS193号に掲載された株式会社盛光SCMとAXISの企画記事の転載です。