【ミラノサローネ2018】
マテリアルドリブンで展開するプロジェクト
「Really」と「Waste No More」

環境問題が世界規模の課題となる今、さまざまなメーカーが素材への新たな取り組みを始めている。ミラノデザインウィークでも新作の発表と同様に、独創的なアプローチを披露する展示に注目が集まる。なかでも、クヴァドラが共同開発する「Really」と、アイリーン・フィッシャー自らの発案による「Waste No More」は、テキスタイル素材に特化した新しい価値観を提示していた。

「Really」

▲パルプ状になったテキスタイル。

「Really(リアリィー)」は廃棄物ゼロを掲げ2013年にスタートしたプロジェクト。デンマークのテキスタイルメーカー、クヴァドラとの共同開発により、耐用年数を超えたテキスタイルを回収し、硬質繊維ボードと吸音性フェルトに再生させる試みを遂行してきた。2017年には初めてミラノデザインウィークへ参加し、デザイナーのマックス・ラムが素材の可能性を多様な方向から検証した展示が静かな反響を呼んだ。

リアリィーが開発した硬質繊維ボードと吸音性フェルトはどちらも、回収したテキスタイルを粉砕し、パルプ状にしてから固めて製造される。染料や水、有害な化学物資を一切使用せず、再びリサイクル可能な廃棄物しか発生させない仕組みだ。この素材を家具やインテリアに取り入れることで、循環型経済の普及を目指すという。今回は、7組のデザイナーが同素材の汎用性を探求しながら生み出した作品を初披露した。

▲長坂常「Colour Studies」
硬質繊維ボードの表面に、カラーリング、サンディング、ブラッシング、ブリーチングといった加工を施した4枚を用いて制作したチェア。

「Colour Studies」と名付けたチェアを発表した建築家の長坂常は、すでに世の中に多くある素材のなかから、リアリィーが再生した素材を選ぶ決定的な理由を見出すためのプロジェクトになったと話した。

「布を再生してできた硬質繊維ボードなので柔らかい印象を想像させますが、実際には硬くて重い素材です。建材のプラスターボードとしてはコスト面からも今はまだ現実的ではないと考えましたし、加工方法のスタディーを理解してもらうために家具として、椅子という形に仕上げました」と話す長坂。四角い面だけで構成された「Colour Studies」からは、ボード状の素材感がそのまま伝わってくる。外側の面だけが加工してあり、内側はあえてリサイクルされたままの状態に残してあるため、その差が一目でわかりやすい。

他のデザイナーも各々のコンセプトでこの新素材にアプローチしており、テキスタイル資源の持続可能性を再認識させる好機となっていた。

▲クラーソン・コイヴィスト・ルーネ「Bibliothèque」
硬質繊維ボードを幾何学的にレイアウトした自立型ブックシェルフ。

▲クリスチャン・メンデルツマ「Acoustic Fur」
大きさの異なる吸音性フェルトを壁に貼り付けて密度吸音効果を調整できる吸音性プロダクト。

▲ジョナサン・オリヴァレス「Solid Textile Screen」
ジッパーでボードを連結させた空間パーテーション。

▲ローエッジ・デザインスタジオ「Fine Cut」
ホワイトコットンの芯をデニムのインディゴコットンで挟んだ硬質繊維ボードを重ね合わせ、彫り込んで層をあらわにしたテーブルとウォールコンソール。

▲ベンジャミン・フーバート「LAYER – Shift」
閉じた状態では吸音パネル、開くとシェウフやストレージへと展開できるディスプレイ兼収納システム。

▲フロント「Textile Cupboard」
硬質繊維ボードを波状に成形し、布が持つ柔らかさを再表現したカップボード。

日本ではクヴァドラジャパンが窓口になり、素材に対して興味を示す企業やデザイナーがいれば積極的に協力する姿勢を示している。循環型経済に向けた取り組みを含め、さらなる展開は続きそうだ。

「Eileen Fisher」

ミラノ中央駅高架下にある倉庫を会場にした「Waste No More」は、ファッションブランドのアイリーン・フィッシャーとキュレーターのリドウィッジ・エデルコートによる、リサイクルプロジェクトの特別展だった。ファッションデザイナーのフィッシャー自身が、手頃な価格でさえ売れ残ったり、一時的な流行で着られなくなったりする洋服をゴミとして処分するしかない状況を改善するために、企業ヴィジョン(Vision2020)として2015年から取り組んでいる「DesignWork」プロジェクトの一環である。ニューヨークで毎年9月に開催されるファッションウィーク以外で、一般に公開するのは今回が初となった。

Photo by Ruy Teixeira

会場の入り口に構えられた巨大な「ゴミのアーチ」は、廃棄された衣類およそ3トンでできていた。色とりどりのさまざまな素材からなるこのアーチは、世界の廃棄物におけるほんの一部分にすぎない。同社の統計によれば、1年間に100人のアメリカ人が処分する量、あるいは、300人のイギリス人が毎春の衣替えで処分する量に等しいという。

アイリーン・フィッシャーではこれまでも、自社が生産した衣類はどんな状態であれ回収し、問題のない服は再販し、場合によっては染め直しなどのリメイクを施して別の服として販売してきた。「DesignWork」プロジェクトは、このアプローチをさらに深化させている。リセールもリメイクもできない場合でさえ、廃棄せずに新たなテキスタイルとして再生させるのだ。

回収した衣類をウール、コットン、デニムなどの種類と大まかな色で分類してから、ハギレの状態をプレス加工する。ウールは厚手のフェルト状の、デニムなら幾層にも重なったパッチワーク状の、大きな1枚の新しい布として生まれ変わらせる仕組みだ。

Photo by BlackBone Denim City 2017 design by Carolina Bedoya 720×610

Photo by BlackBone Sibling Series Sister Red I 2017 design by Sigi Ahl 602×720

完成したテキスタイルは新鮮な美しさを放ち、大量生産された洋服から構成されているとは信じがたいほどユニークで、実際に同じ布は1枚もない。会場では、壁面を飾った大きな布のほかに、コートやジャケット、クッションカバーも展示された。素材によっては異なる繊維の生地を組み合わせて、仕上がりを安定させるように工夫されているので、加工もしやすくなるのだという。

こうした手法は、フィッシャーと長年コラボレートしてきたアーティストのシギ・アルとともに見出された。すでにビジネスモデルとして定着しはじめており、ミラノデザインウィークに限らず、デザインマイアミやダッチデザインウィークといった、ファッション以外の場でもアピールしていくという。

家具やインテリア小物よりも消費サイクルが早いファッションでは、産業廃棄物への対策は急務だ。労働力と賃金格差の問題まで広げれば、改善すべき問題は山積している。

その一方で、テキスタイルにおけるこうした前向きな挑戦を目の当たりにする体験は、まだ未着手の解決策があることや可能性の広がりを実感させるものになったはずだ。華々しく披露される新作と同様に、素材と加工技術への新たな試みが高い関心を集めるのも、世界的規模を誇るデザインイベントの重要な役割だろう。