REPORT | グラフィック
2018.09.20 10:51
バーやカフェの店頭で目にすることの増えたチョークペイントや手描き文字。その美しさにハッとした経験はないだろうか。ここメルボルンでは、手描き文字のライブペインティングで注目を浴びる4人組の女性アーティスト、レターレッツ(The Letterettes)が活躍の場を広げている。
美しい文字への情熱が、グループ結成につながった
今年4月に偶然、シティの大通りで目にした彼女たちによるメルボルン国際コメディフェスティバル会場でのライブペインティングは、黒板に描かれたインフォメーションボードといった趣の丁寧な作品で、時に見物客と笑顔で話しながら丁寧に作業する姿が印象に残った。
レターレッツのメンバー、Carla Hackett、Eliza Svikulis、Kate Pullen、Wanissa Somsuphangsriに4人が出会った経緯を聞くと、「CarlaとElizaはメルボルンのブランズウィックにあるクリエイターのためのコワーキングスペース『Little Gold Studio』で出会った仲間。KateとElizaはデザインの展示会で知り合い、ElizaとWanissaはアートを学んでいた学生時代の友人。それぞれ別の場所、別の時期に知り合ったのだけれど、4人とも美しい文字への情熱があって、すぐに意気投合したのです。レターレッツを結成したのは、それぞれに文字を書くことが大好きで、4人が集まったら、もっと魅力的でチャレンジングな新しいプロジェクトができるんじゃないかと確信したから」とのこと。
その言葉通り、2016年の1月にレターレッツを結成してからは、グリーティングカードへのレタリングに始まり、さまざまな既成のアイテムにイニシャルを書き込むカスタマイズペイントや企業が主催するイベントでのライブペインティングなど活躍の場は広がっていった。
人々の喜びに触れられるライブペイティング
彼女たちの活動で特徴的なのが、ワークショップへの積極的な取り組みだ。
「私たちは初心者から中級レベル向けのワークショップを随時開催しており、ペン先が筆のようになったブラシペンで、基本的な筆使いに始まり、まず小文字、そして大文字のアルファベットの書き方を教えます。また、文字だけでなく、レイアウトデザインや文字の強弱、大小などの構成、スタイルまで実践的な内容をできるだけ盛り込んでいるのがポイント」だと言う。
それぞれが個人でグラフィックデザインやアーティストとして活動してきたバックグラウンドを生かした内容が人気の秘訣のようだ。また、オーストラリアのゴールドコーストで例年開催されるレタリングアーティストらによるデザインカンファレンス「Typism」では、メンバーが講師として毎年招かれるなど、彼女たちの実力は評価されている。ライブペインティングやワークショップの場では失敗ができないし、当初は緊張もあったと言うが、「目の前で自分の描いた文字を喜んでもらえることがうれしい」と話す。
キーワードは、手描きとカスタマイズ
これまでに文字を描き込んできたアイテムは、携帯電話のケースやヘアブラシ、マグカップ、スニーカーなどさまざまだ。レターレッツはアートエージェンシーのThe Jacky Winter Groupに所属しており、エージェント経由の企業キャンペーンの仕事もあれば、イベント会場でのウォールアートまでと守備範囲は幅広い。クライアントは個人から有名なところではディズニーまで、顧客のハートをしっかりとつかんでいる。
最後に作品づくりの原動力を尋ねると、「とにかく文字を書くことが4人とも大好きなこと。それから、これは特別なことではないけれど、楽しみながら練習を重ねること。いろいろなものからインスピレーションを得て、それを自分の手でとにかく描いて表現し続ける。情熱をもってたくさん描くことで次のステージにいけると思う」と語ってくれた。
今後は、「これまで書いたことのない分野にも文字を書いていきたいし、自分たちの技術を高めていきたい。そして、手描きレタリングの楽しさをさらに広めていきたい」と言う。
メルボルンのアートシーンで、等身大のカジュアルなスタイルが注目を集める彼女たちの活動の核にあるのは、“手描き”と“カスタマイズ”というキーワードだ。揃いのウエアで活動する4人のキャラクターと高い手描きレタリングの技術、そして誰もがスマートフォンを片手に情報発信をする時代とが合致し、メルボルンを拠点に活躍の場を広げている。