台湾のデザイナーズホテル事情。
細部まで手を抜かない
「アンバ台北中山」

前2回では台南の「ザ・プレイス」を紹介したが、今回は台北に場所を移し、中心部の中山区にある「アンバ台北中山(タイペイ・ゾンシャン)」を取り上げる。このホテルは、台北の5つ星シティーホテルであるアンバサダーホテル(国賓大飯店)の新規事業として誕生した、よりカジュアルな位置付けの宿泊施設である。

アートとエコをテーマとするこのホテルは、現地のタクシードライバーの間でもまだ周知されていないらしく、筆者は隣接するアンバサダーホテルのほうに案内され、フロントで確認してようやくたどり着くことができた。とはいえ、実際には大通りに面したわかりやすいロケーションにあり、新光三越デパートなどの商業施設がひしめく中山区の中心部にもほど近い立地の良さを誇っている。

客室は、こちらも狭小住宅さながらのレイアウトと設えで、モノトーンを基調に、アクセント的に木の調度類が配されている。また、入り口からシャワールームの横を通って洗面スペースへと回り込み、その奥のベッドエリアへとつながるコの字型の動線が廊下のような役割を果たし、感覚的に広さを演出する工夫がなされていた。

洗面台は、イケアのローコストキッチンを思わせるフレームむき出しのシンプルなもので、その棚に冷蔵庫やコーヒーメーカーが収納されていて無駄がない。

ベッドサイドのテーブルには、ワイヤレススピーカーが置かれ、宿泊客は自分のスマートフォンのプレイリストなどを再生することができる。実は、この製品は「ステレ」というオーディオブランドのスマートピラースピーカーで、アマゾンのAIアシスタントであるアレクサ対応なのだが、残念なことにその設定はなされていなかった。プライバシー問題を危惧する向きもあるかもしれないが、近い将来には、一般的なホテルでもスマートスピーカーに話しかけてアラームをセットしたり、照明やテレビをコントロールするようになっても不思議ではないだろう。

ウェルカムカードは、マンガのようなグラフィックスとフキダシで構成され、滞在中の体験談を旅行情報共有サイトのトリップアドバイザーへ簡単に投稿できるように、QRコードでリンクが張られている。これは、優れた体験を提供できるという自信があるからこその仕掛けであり、他のホテルでも見習うべき試みだ。

施設案内も、回覧板のようにクリップボードに挟まれた紙束のような気取らないもので、コルクの表紙もなかなか洒落ている。細部まで手を抜かない演出は、「ザ・プレイス」と同様だ。

些細な点だが、デザイン的に面白く実用的でもあるディテールとしては、シャワールームのフックが挙げられる。着替えやタオルを引っ掛けて置くためのものだが、固定ではなく吸着式となっており、ガラス製の扉の好きな位置にセットできるのである。デザイナーがこうしたホテルの部屋の使い勝手をゼロから考え直さなければ、このような発想は生まれなかったと思われ、目からウロコが落ちたように感じた。

さらに、有料レンタルとなるが、必要があればアップルTVやグーグルのTVコンテンツストリーミングデバイスであるクロームキャスト、ポケットプロジェクター、Xboxなども借りることができ、デジタルネイティブ世代にとって至れり尽くせりのサービスが提供されている。

最後に、「ザ・プレイス」でも室内履きのスリッパに特徴があったが、こちらのホテルは何とビーチサンダルが用意され、中国語で探検や探索を意味する漢字がグラフィックデザインとしてあしらわれている。台北の散策に使ってもよし、土産として持ち帰ることもできるこのビーチサンダルも含めて、「アンバ台北中山」は、新しい宿泊体験をつくり上げようとする意欲に満ちたホテルなのであった。End