ピエール・ルイージ・ネルヴィへのオマージュ「アルカンターラ×ローマ国立21世紀芸術美術館(MAXXI)のコラボレーション」

▲©︎佐武辰之佑/Tatsunosuke Satake

 

イタリア・ローマにある国立21世紀美術館(MAXXI)とイタリアの高級素材メーカー「アルカンターラ」のコラボレーション作品が2019年3月15日~4月7日の間、展示されている。

MAXXIは10年に建てられたプリツカー賞受賞建築家ザハ・ハディッドの作品。長い歴史に埋没し新しいアートにはあまり興味がないと言われるローマ人だが、MAXXIは地元の人にも多く知られている別格の存在である。

この美術館はローマ市の北側に位置し、ピエール・ルイージ・ネルヴィ設計の体育館パラッツォ・デッロ・スポルト(Pallazo dello Sporto)やレンゾ・ピアノ設計の音楽ホールであるアウディトリウム・パルコ・デッラ・ムージカ(Auditorium Parco della Musica)などが徒歩圏内にあり、近代のローマの風を感じるのにはお勧めの界隈である。

▲MAXXIの入り口付近。吹き抜けになっており白い壁と黒い階段のコントラストが印象的。©︎佐武辰之佑/Tatsunosuke Satake

▲アルカンターラ会長兼CEOアンドレア・ボラーニョ氏。あん肝が好きという親日家。©︎佐武辰之佑/Tatsunosuke Satake

アルカンターラとMAXXIとのコラボレーションは11年から始まり今年で5回目を迎えた。アルカンターラ社がつくるアルカンターラ素材とは、ポリエステルとポリウレタンから生成された特殊なカバーリング素材である。手触りは本物の革のように非常に滑らかで、耐久性にも優れている。

1970年代に「東レ」と統合して創出されたアルカンターラ素材は、日本のテクノロジーとイタリアのクラフトマンシップにのっとったものだと会長のボラーニョ氏は語った。

「ライフスタイルブランドとして、素材とアートの結びつきはとても機能的な表現なんです。イタリアと日本との間には文化や歴史こそ大きく違いますが不思議な牽引力があります。例えば料理でいえば、中華やフレンチのように素材を痛めつける調理法ではなく、日本食やイタリアンは、素材をどのように活かすのかという共通した考え方が根底にあります。アルカンターラの素材を活かすというアイデアは、まさに日本で生まれ、イタリアで花開き、アートという土壌を通して表現されているのです」。

ローマ近郊ネラモントロにあるアルカンターラ生産工場では現在拡張工事を推進している。クルマの内装や家具、衣料品などに幅広く使用されるアルカンターラ素材だが、09年よりカーボンニュートラル産業(二酸化炭素総量の増減に影響を与えない産業)で初めて、サスティナビリティのアイデアを実行した。サスティナビリティはカーボンニュートラル産業でも浸透し始めてはいるが、世界中の企業ではまだ30%しか導入されていない。アルカンターラ社はサスティナビリティにさらに力を注ぐことにより、今後もブランド力の向上につなげてゆく方針だ。

今回の作品のテーマは「Studio Visit ― 進化するピエール・ルイージ・ネルヴィ(Pier Luigi Nervi)」。アルカンターラ素材を用いてオランダ在住のデザインスタジオ・フォルマファンタズマ(Formafantasma)が制作した。作品は、20世紀の建築家、ピエール・ルイジ・ネルヴィへのオマージュとして発表された。

「Studio Visit ― 進化するピエール・ルイージ・ネルヴィ」は、建築家ネルヴィの作品をアーカイブとしてアルカンターラの素材にプリントしている。展示の中心に置かれている鉄枠でできた骨組みの頭についた拡声器からは生徒に教える音声が流れる。ローマ大学で教授を務めたネルヴィの建築の授業がモチーフとなった作品だ。

▲ネルヴィのアーカイブ作品も展示された。©︎佐武辰之佑/Tatsunosuke Satake

ネルヴィはゴシック様式の影響を受けた建築家であるとともに、エンジニア、そしてセメントという素材の可能性を広げたイタリアの建築家である。今回の作品は、セメントの流動的な可能性とゴシックの表現力をアルカンターラ素材に置き換えたものだ。

建築家ネルヴィのアーカイブという歴史をまとい、ローマで教鞭を振るったネルヴィの革新的な魂を伝承している。アルカンターラ素材が、空間構造をもった作品となった。ゴシックの美しさがプリントされたアルカンターラ素材からはまるで精密な編み物のような新たな流動性が垣間見えた。

美的表現とテクノロジーの融合という意味合いにおいて、多角的な可能性を含んだアルカンターラ素材とアートの融合は今後ますます発展してゆくだろう。(文/佐武辰之佑)End

▲デザインスタジオ・フォルマファンタズマ。アンドレア・トリマルキ(Andrea Trimarchi・左)とシモーネ・ファレジン(Simone Farresin・右)。©︎佐武辰之佑/Tatsunosuke Satake