ニューヨークの先端的狭小ホテル
「ポッド・ブルックリン」


先日、ニューヨークのマンハッタンで海外取材の仕事があり、数日ほど現地に滞在することになった。その際に選択したホテルが斬新なアイデアと巧みなデザインによって、宿泊料金を抑えながら快適な空間をつくり上げていたので、紹介しておきたい。

ご存知のように、マンハッタン周辺は土地代や物価の高さから、宿泊代も必然的に高めになる。リーズナブルと思えるホテルは中心部から離れており、クルマでの移動や駐車料金まで含めると、結局のところ、あまり差がなくなったりする。

しかし、そのホテル、「ポッド・ブルックリン」はマンハッタンから橋ひとつ隔てた対岸で、アップルストアと同じ区画にあるという好立地ながら、リーズナブルな料金を実現している。その秘密は、個室ながらカプセルホテル的な構造を採り入れて、空間の利用効率を高めることにあった。


特に筆者が泊まった安価な部屋は、一辺3mほどの立方体的な形状で、ベッドは2段式になっている。また、テレビとそのリモコンはそれぞれの段に用意されており、互いの音は聞こえるだろうが、同じ部屋に泊まるなら家族か親しい間柄であり、問題にはならないと思われる。

もちろん、もう少し高めのツインルームなどもあるが、予約サイトのコメント欄には、最初に2段ベッドの部屋に泊まり、途中でツインに移ったが、元の部屋のほうが楽しいので、結局、戻ることにしたカップルの書き込みも見られた。普段とは異なる、あるいは子ども時代の思い出が蘇える空間が、そう思わせるのかもしれない。


ベッドの足元にあるデスクも最小限の幅で片側を壁に固定し、背もたれ付きの椅子の代わりに棚付きの金属製スツールと組み合わされている。リゾートとは異なり、基本的に昼間は外出しているので、これで十分という考え方だ。

金庫は、ベッド脇につくり付けられているサイドテーブルに内蔵され、部屋の中にこれ以外に収納スペースはない。そのため、スーツケースはむき出しのまま置いておくか、このサイドテーブルの下に(半分ほどはみ出して)押し込んでおくことになるが、実用上、それで困ることはなかった。ちなみに、壁のフックも格納式で、不使用時には極力目立たないように配慮されている。

そして、空間利用効率を最大に高めている要素が、トイレと一体化されたシャワールームである。インドでは高級マンションでも見られる構造だが、あちらが広さは確保して単に床面を共有するものであるのに対し、こちらは完全に融合状態にあり、シャワーを浴びれば便器も完全に濡れてしまう。しかし、便座まで上げておけば、後でトイレを使う際にも支障はない。もちろん、客室清掃後に部屋に戻ると、水滴ひとつ残さずきれいにクリーニングされているので、慣れれば不自由は感じなかった。

アメニティも最小限だが、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュの容器を並べると”pod”になるラベルや、(シャワー時に濡れないように)洗面とトイレの間のパーティションを貫通するトイレットペーパーホルダーなど、細かなデザインの工夫が面白い。

確かに部屋は狭小だが窮屈ではなく、ルーフガーデンや隣接するレストランのテラス席を兼ねた中庭的なスペース、そしてフロントの吹き抜け部分を囲むように2階に設けられたコミュニティエリアなどを利用すれば、それなりの開放感も味わえる。


カプセルホテルと一般的なホテルの中間的な空間を割り切ってつくり出し、独自の快適性を実現したポッド・ブルックリンは、これからのシティホテルのひとつの方向性を示すものといってよいだろう。End