「Youはニッポンの鉄道、どう思う?」
日本で働く外国人デザイナーたちの視点【第2弾】


前回の座談会「Youはどうしてニッポンのインハウスデザイナーに?」に引き続き、日本で働く外国人インハウスデザイナーの皆さんに集まっていただき、独自の発展を遂げてきた日本の鉄道とそれを取り巻く環境について、忌憚のない意見や感想を語ってもらった。そこで浮かび上がってきたのは、日本人には見えていても意識したことのない、日本の鉄道の魅力や改善点だった。




日本の路線や駅にはロマンと驚きが詰まっている

— 今回、新たに参加いただいたおふたりに自己紹介をお願いします。

陳 文慧(チェン・ウェンフエイ) 東芝のデザインセンターでUI/UXのデザインをしています。台湾出身で、母校の成功大学と関係の深いオランダのデルフト工科大学大学院でプロダクトデザインを学び、7年前に東芝に入社しました。家電製品や防災無線個別受信機の担当から始め、今はIoTやAIのUXを担当しています。エレベーターの運行管理システムのUI/UXの構築やワークショップなども行っています。

アレキザンダー・ハーフォード 私はイギリス出身で、マンチェスター・ポリテクニック(現マンチェスター・メトロポリタン大学)で素材系デザインやプロダクトデザインを学び、1991年に来日しました。大阪のデザイン事務所に勤務後、オカムラには96年に入社しました。現在プレイングマネージャーとしてオフィス家具をメインにデザインしていますが、鉄道関係では京成スカイライナーのシートを手がけました。

▲陳 文慧(東芝)©西田香織/Kaori Nishida

▲アレキザンダー・ハーフォード(オカムラ)©西田香織/Kaori Nishida

— 日本の鉄道で特に好きな路線や鉄道があれば、お話しください。

ジェンティル・ティボー(三菱電機) 私は路線では新幹線ですね。新幹線ならばどの路線も好きです。

ブライアン・ブリガム(オムロン) 新幹線は、自分も小さな子どものように興奮します。駅では、近江鉄道に沿って点在する駅がいいですね。それぞれの駅舎にキャラクターというかヒストリーを感じます。

ジェンティル(三菱電機) 私は、JR日光駅が明治時代風でいいと思います。山手線の原宿駅とともに、キャラクターが感じられるところが好きです。近代的な駅では、京都駅のステーションビルでしょうか。

Nikko Station ekisha

▲JR日光駅の現在の駅舎は大正元年に建てられた2代目だが、明治の木造駅舎の面影をよく残しているとされる。©Saigen Jiro [CC0], via Wikimedia Commons

アレキザンダー(オカムラ) 私も京都駅が好きです。あそこまで巨大なアトリウムを持つ駅は、ヨーロッパの主要駅では割と普通ですが、日本の駅としては珍しいですね。あのスペースがあることで建築の持つパワーを感じますし、伝統的な京都の街並みと良いコントラストをなすと言えるでしょう。

増田ブルーノ(竹中) 自分はロマンが感じられる駅が好みで、ふたつあります。ひとつは鎌倉駅ですが、駅とともに、そこで江ノ電を待っている人々の風情がいいんですよ。みんな笑顔で穏やかな雰囲気です。もうひとつは、北鎌倉駅です。家のような形で、周囲には古いお寺やハイキングコースがあり、「千と千尋の神隠し」の世界に入っていくかのようです。

アレキザンダー(オカムラ) ガーラ湯沢スキー場に向かう上越新幹線には長いトンネルがあって、そこを抜けるとまさに小説「雪国」のような別世界です。ドアが開くと外は凍るような寒さなのに、駅には温泉まであり、日本流の驚くようなサービスが待っています。

陳(東芝) 私の場合、通勤で使っている路線なのですが、東急線が好きなんです。内部のカラーリングが心地よく、アットホームな感じがします。きれいにデザインされたBunkamuraの催しのポスターが、いつも貼られていることも好きな理由のひとつです。

ジェンティル(三菱電機) 東京メトロの銀座線は、車両がカラフルで、インテリアも素晴らしく、他の路線ほど混んでいないのが気に入っています。日本で最初につくられた銀座線は、いくつかの駅の構内の壁がタイル張りで、パリの地下鉄を思わせてくれます。

ハリー・フェアムーレン(キヤノン) 京都駅のデザインは私も好きですし、高架下や周辺にさまざまなショップがある御徒町駅もいいですね。それから、山手線などで使われている駅ごとの発車メロディは、インフォメーションデザインの観点から興味深いと思います。「上を向いて歩こう」とか「ハリーポッター」(※1)とか。実は初めて東京に来たときに、日本のさまざまな側面を知るためのスタディトリップを行って、駅ごとの発車メロディがあることを知ったのも、そのときでした。ビジュアルだけでなくオーディオやミュージックも使って情報を伝えようとする、マルチモーダルなデザインに深い興味を持っています。

ブライアン(オムロン) 到着列車の方向によって男声と女声の構内アナウンスを使い分けている駅もあるようですね。

— 大阪市営地下鉄などで、そのような使い分けが行われ、視覚障がい者などから好評を得ていると聞いたことがあります。

※1 前者は川崎駅のもの。後者は映画プロモーションの一環として、期間限定ながら東急線の大井町駅と二子玉川駅で使われた。

Kyoto Kyoto Station Innen 11

▲京都駅中央コンコースのアトリウム©Zairon [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

日本と自国の鉄道の違いは?

— 母国の鉄道は、日本とどのような違いがありますか?

ブライアン(オムロン) コロラド州からシカゴに移って地下鉄を利用していましたが、うるさくて汚い1930年代の乗り物という感じで、結局、カーシェアリングやアプリに対応したバスを使うようになりました。

ハリー(キヤノン) ヨーロッパの電車は対面シートが多く、座り合わせた見知らぬ人同士で会話が始まることも普通です。東京の電車のようなベンチシートでは離れて座るのが一般的で、知らない人に話しかけたら、怖がられるでしょう。それからオランダと比べると、日本の鉄道は運賃が安いです。車内に広告がたくさんあるのは、そのためかもしれません。会話がないので、広告とか見て過ごせるのは助かるのかも……(笑)。

ジェンティル(三菱電機) 車内広告といえば、ヨーロッパの街中では、景観を守るためにビジュアルの規制があって、人々も一定以上の広告や看板が目につくことに耐えられないという傾向が見られます。それが、日本に比べて車両内の広告が少ない理由かもしれません。運賃の話が出ましたが、私は日本の鉄道は特に学生には高すぎると感じています。ヨーロッパでは、学生はタダとか半額という都市も多いです。日本には通学定期などもありますが、これは自宅近くの駅から学校近くの駅までというように範囲を指定して申請するので、ある範囲ですべての路線が安くなるヨーロッパとは違いますね。

ハリー(キヤノン) それは税金とも関係しているでしょう。例えば、オランダは日本と比べて消費税率も所得税率もはるかに高く、そこから学生運賃が補填されているはずです。運行時間が正確なのも日本らしいところです。日本で電車が30秒遅れたら駅員さんが謝りますが、オランダでは「30分しか遅れなかった」と皆喜びますよ(笑)。停車位置も適当なので、目の前にドアが来たらラッキーという感じです。

ブライアン(オムロン) 日本に来て初めて、母国の鉄道のひどさがわかるということだね(笑)。

▲ジェンティル・ティボー(三菱電機)©西田香織/Kaori Nishida

増田(竹中) バルセロナの地下鉄は時間の正確さでは日本並みですが、駅の表示が到着時刻ではなくて、あと何分何秒で着くという残り時間になっているところが違います。公共交通機関を利用する通勤者は全体の30%に過ぎず、そのうちの50%がバス、残りの50%が地下鉄です。これに対して日本の都会ではほとんどの人が電車移動なので、家でも施設でも、ともかく駅からの所要時間が書かれているんだと思います。日本だと「駅前」かどうかが重要ですが、スペインでは意味がありません。日本の街は駅中心に考えられ、スペインの街は教会や広場とそこにつながるストリートが中心ですね。

陳(東芝) 台北のMRT(地下鉄)も運行時間は正確ですが、ラッシュ時の人の振る舞いが大きく異なります。台湾の暮らしは日本よりリラックスしているためでしょうか、台湾人は、目の前の電車が満員なら次の電車を待ちますよ。

アレキザンダー(オカムラ) 私は音に敏感なのですが、日本の静かな車内に慣れてしまったので、イギリスの高速鉄道に乗るとうるさく感じるようになりました。何しろ、ある男が母親に電話しはじめて、2時間もの間、知りたくもないその男の半生を全部聞かされたりするんですよ(笑)。あとは、労組の力が強く、運転手のティーブレイクのために平気で発車を30分遅らせるとか、利用客はないがしろにされています。ただし、日本人は協調性に富むというけど、通勤時間だけは別だよ(笑)。

陳(東芝) 私も、日本は時間帯によって利用客の性格が変わるように感じます。朝の通勤時は他の人のことは考えず、午後は互いのことを気遣い、夜は酔っ払いが騒いでいたり……。

ジェンティル(三菱電機) ただ、夜中過ぎの電車がなかったり、本数が少ないのは困りますね。

増田(竹中) 24時間営業にすると、「終電に間に合わなくなる」という言い訳が使えなくなるかもしれません(笑)。

▲ブライアン・ブリガム(オムロン ヘルスケア)©西田香織/Kaori Nishida

情報過多な車両内と駅ナカの表示

— 日本の駅や車両の情報表示はわかりやすいですか?

増田(竹中) 世界に先んじてチャレンジすることが必要だと思います。そのためには、海外での売り方やアピールの仕方が重要でフレキシブルに考えるべきですが、同時に品質は守りたいですね。

ジェンティル(三菱電機) 鉄道の表示は、目的地や降りるべき駅が一目でわかることが重要です。しかし、日本では車内のデジタルサイネージにニュースが流れていて、ようやく駅名が出たときに「降りるのは、この駅じゃないか!」なんて焦ることもあります。

アレキザンダー(オカムラ) 駅の情報表示はここ数年でずいぶん改善されて、特にブラックカラーや色のコントラストを使って色弱の人にもわかりやすくしたり、駅名のコード化などのユニバーサルデザイン化が進んできました。それでも、駅ナカの広告が多すぎるうえに色使いが色弱の人には混乱を招きやすく、改善の余地があると感じます。

ハリー(キヤノン) 駅の表示自体は、UI的にとても優れているのに、駅でも車両でも余計なものが目に入りすぎて、肝心の情報が隠れてしまうことが問題です。オランダのデザインフィロソフィはシンプル・イズ・ザ・ベストですが、日本は、こと鉄道の情報デザインに関してはそうは言えません。一方で、日本には禅のように静かで美しいデザインもあるので、まるでふたつの世界が存在しているかのようです。

陳(東芝) 私はいつもいろいろなデザインの駅のサインやポスターを見るのを楽しんでいますよ。例えばマンガの交通安全ポスターとか。一方で日本では、情報欠如への恐れがあるように感じます。何かが足りないと責任を問われるかもしれず、何もかも入れないと気が済まないのではないでしょうか。

ブライアン(オムロン) そこが日本のデザインに対するいちばんの不満です。コンロにもユニットバスにも緊急時の連絡先が書いてあり、そのことに反対しているわけではないのですが、情報表示の方法に問題を感じます。

▲増田ブルーノ(竹中工務店)©西田香織/Kaori Nishida

鉄道の魅力はデザインやスピードだけではない

— 日本には「乗り鉄」「撮り鉄」などいろいろな鉄道マニアがいますが、あなたの国ではどうでしょう?

ハリー(キヤノン) オランダにはいません。たぶん、鉄道そのものが大したことないからでしょう(笑)。日本では、例えば同じ関西の阪神と近鉄でも、車両のつくりから乗客の服装まで違っていて面白いです。だから、日本には鉄道に興味を持つ人が多くなったとも考えられますね。

増田(竹中) ヨーロッパでは車両の種類も多くないですし、鉄道以外の交通手段を選ぶ人も多いので、興味を持ちにくい面はありそうです。

陳(東芝) 台湾では日本文化の影響が大きく、鉄道システムも日本が整備したので、同じような鉄道マニアが存在します。私の義理の兄弟もそうで、音を聞いただけで車両の違いがわかるそうです(笑)。

アレキザンダー(オカムラ) イギリスにも鉄道マニアはいますが、どちらかと言えば歴史的な興味からです。私自身は好きな高速鉄道の車両があって、著名なデザイナーが手がけたディーゼル列車(※2)なのですが、日本の新幹線にはかないません。ただし、ベトナムの夜行列車での体験は素晴らしく、それぞれの国がその文化に根ざした鉄道を持っていることは確かでしょう。

ジェンティル(三菱電機) 私自身、寝台車マニアと言えます。寝台車の写真を撮りたいのではなく(笑)、旅は寝台車派という意味です。ヨーロッパには、まだ多くの長距離寝台列車があります。

アレキザンダー(オカムラ) 通勤電車などではスピードが重視されますが、鉄道の魅力はそれだけでなく、体験全体にあるということですね。

— 日本では市電と呼ばれたりするトラムも鉄道の一種ですが、かつて日本では廃止が相次ぎ、近年、その魅力が見直されたりしています。

アレキザンダー(オカムラ) ヨーロッパでも同じです。

※2 ペンタグラムのケネス・グランジがデザインしたインターシティ125のことを指す。

▲ハリー・フェアムーレン(キヤノン)©西田香織/Kaori Nishida

モビリティシステム全体の中で考えるべき鉄道の未来

— 最後に鉄道の未来についての展望や意見をお聞かせください。

ブライアン(オムロン) 今でも路線探索のアプリはありますが、主に日本人向けなので、もっと外国人にも使いやすくするとか、鉄道会社自体が協力しあってダイヤだけでなく路線探索もできる業界標準的なサービスを開発してもいいのではないかと思います。

アレキザンダー(オカムラ) 今後も都市部への人口集中は続くでしょうが、そのなかで鉄道のようにエコロジカルで効率的な大量輸送システムの重要度は増していくと思います。日本は海外に対して、そのノウハウをもっと売り込んでいってよいでしょう。それと鉄道のシートデザインをしていて感じるのは、日本の鉄道シートやインテリアは、もっとカラフルで自由なものになっていいのではということです。ファッションデザイナーの山本寛斎がプロデュースしたスカイライナーのシートをデザインしたときに要求されたのは、さまざまな要素が標準化された新幹線とは違う発想でつくってほしいということでした。日本ではJR九州の車両は別として、モノトーンで穏やかな色合いが多いので、静粛性や安全性以外にもデザインの可能性を追求していってほしいです。

ジェンティル(三菱電機) 鉄道も、モビリティ全般の視点から考えることが重要です。ドイツでは、鉄道会社がカーシェアリングを手がけたり、フランスのグルノーブルでは、郊外の駐車場と鉄道料金がセット化され、市内では同じチケットで鉄道もトラムもバスも乗れ、カーシェアリングまでつながっています。交通機関全体がシステム化され、自在に組み合わせて利用できる社会が未来です。

ハリー(キヤノン) 将来はAIなどを使ってリアルタイムに鉄道やバスの需要予測が行われ、すべての交通機関で最適なルートと組み合わせが瞬時にわかるサービスがデザインされて、よりフレキシブルな運行が実現するでしょう。

増田(竹中) 未来の鉄道は、現在のシステムに縛られることなく、大都市間のハイパーループ(※3)のようなものと、都市部での移動カプセルを組み合わせたようなものになるのではと考えています。

陳(東芝) 日本の鉄道は世界で最も進歩的ですが、同時に最も混雑してもいます。その解決方法に興味があります。鉄道のシステム改善だけでなく、それなりの政策や住む場所、ワークスタイルに関する改革も求められます。古い車両を動態保存することも意義があるので、そういう鉄道文化を世界にも広めていってほしいですね。

— 世界と日本の鉄道の違いや課題、未来へ展望が共有できた有意義な座談会でした。参加者の皆さん、改めてありがとうございました。End

※3 テスラCEOのイーロン・マスクが推進している真空チューブを用いた高速輸送システムで、カリフォルニアとロサンゼルス間を30分で結ぶとされる。




本記事はデザイン誌「AXIS」198号「鉄道みらい」からの転載です。