問屋が問屋を頼るとき
問屋の気づき(地場問屋・山一さん編)
【前編】

問屋という響きは、昨今、あまりいい印象を与えないようだ。問屋は“つくり手を搾取している”と取る人も多いようだが、その存在は“搾取”なのか、“必要”なのか。ネットの普及で、“関係性がショートカット”される世の中では、意義が問われる業種だ。

自分ではあえて「ひとり問屋」を名乗っているが、「ひとり」では普通ありえない「問屋」がくっつくことに人は反応するらしい。文章を書いたり、イベントや企画の協力もしていて100%の問屋ではないので、本業の問屋の方には申し訳ない気持ちと引け目、そして尊敬の念がある。

筆者が活動する生活道具の地場産業の世界では、大きく分けて、“地場問屋”と“消費地問屋”がある。地場問屋は、その土地に事務所を構えるからこそ得られる情報、人付き合い、物流の利点を生かす。消費地問屋は、消費地にいるからこその消費の動向をいち早くキャッチし、百貨店などとの架け橋となり、求められる商品は、プロとしてでき得る限り集めていく。

▲こんな風景も産地ならでは。

仕事をはじめた頃は、「直接つくり手に交渉し、直接取引きしてこそ問屋」と思っていたが、あるとき「その土地にいる人には叶わないこともある」と悟った。地場の地道なものづくりは、ネット販売のようにリストがあって、そのボタンをポンとひとつ押して、入金すれば物が届くのではない。どんなに好条件を挙げても、昔からの付き合いやその業種に長けた人同士の無駄のないやり取りを重んじられること、物流の煩わしさやお金のやりとりがネックになることはあるのだ。何度、現地に足を運んでも、踏み入れることのできない世界があることを知った。

物流の煩わしさに関して言うと、ある窯業産地の窯元には、そもそも発送用のダンボールがなかった。“サンテナ”という、プラスチックのリサイクルケースにでき上がった急須を入れて、車で地場問屋に納品するからだ。問屋は裸で納品されたものを、検品後、個別の箱に入れ、消費地に発送する。一般家庭でも、急に壊れ物を発送しようとすると梱包材に困るだろう。それと同じだ。

無駄のないやりとりには、例えば、木工産地で新しいモノをつくろうとしたとき、どんな木がそのモノに向いているか、この工房の技術でできることなのか(丸いお椀をつくるロクロの工房は回転体のものしかつくれないから、楕円のものを頼んでもでき上がらない)、そのモノをつくるにはどのくらいの納期が必要なのか……などについて問屋側が瞬時に判断できることを求められる。経験があれば、二手、三手先をみながら会話を進められるからだ。

▲山一さんの住所は長野県木曽郡の読書(よみかき)。この読書発電所は近代文化遺産として国の重要文化財に指定されている。大正時代につくられた水力発電所で、現在も現役。

地場問屋は強い味方になるとわかっていても、独特のアクの強さがあり、筆者自身は苦手意識を感じていた。あるとき、拙書「台所道具を一生モノにする手入れ術」を熟読してくださり、興味を持った、と、声をかけてきてくれたのが木曽の木工用品の地場問屋“山一”の柴原 孝社長だった。苦手を感じる隙を与えないほど、スマートな語り口だった。

地場問屋と言っても、地元の工場がつくっているものを集める問屋ではなく、オリジナル商品をつくる「企画問屋」だ。“ひとり問屋”を面白がってくれ、企画展にもたびたび、足を運んでくださり、言葉を交わすようになったが、普通の地場問屋とは一味違う雰囲気を感じさせる山一さんの仕事に興味を持ち、切望の末、今年5月に木曽訪問を実現させた。

柴原社長は実にアクティブ。片道300キロの東京〜木曽の往復を、月に4~5度はしている。今回も迎えに来ていただき、車での移動。恐縮する筆者に「道中、話ができていいでしょ」と声を掛けてくれるなど、実にスマートで無駄がない。

▲のどかな田んぼの脇に、看板も掲げず、黙々とものづくりをする工房があったりするのが、産地の面白いところ。

地場産業の不思議なところは、誰がどこで何をつくっているか、そこに住んでいてもわかりにくいといことだ。つくっていることが周知されなければ商売成りたたない、と思われるかもしれないが、数代にわたる付き合いの問屋からの注文だけでも、捌ききれないほどであれば、工房に看板を掲げる必要もない。

“産地”である以上、つくり手はたくさんいるはずなのに、どこに工房があるのか、まったく分からない、ということはよくある。山一さんのような地場問屋は、粘り強く地元を回ることで、独自のつくり手のネットワークを持っている。自分が苦労して見つけたつくり手は人には教えたくないものだが、今回山一さんに木曽の工房を案内してもらえるという。一見程度では邪魔はできないほど、つくり手と強い結びつきを持っている自信の表れだろう。

充実の工房巡りに関しては、また次回。

前回のおまけ》

「石川硝子工芸舎 吹業20周年」 出版記念展

石川硝子工藝舎 20周年を記念する豪華本の展示販売が、森岡書店で開催されます。

会期
2019年8月6日(火)ー8月18日(日)
※8月12日(月)はおやすみ
※石川昌浩さんは、8月6日(火)13時−19時と7日(水)17時−19時在店予定。
会場
森岡書店
(東京都中央区銀座1-28-15 鈴木ビル1階)
電話番号
03-3535-5020

トークイベント
石川昌浩×ハヤシモリ(小林和人・森岡督行)

日時
8月6日(火)19時より