北海道 阿寒の森で展開される2つのデジタルアート
「ロストカムイ」と「カムイルミナ」に行ってきた

世界中の少数民族を撮影することで知られるフォトグラファー ヨシダナギによる印象的なビジュアルを目にしたことがある人は多いのではないだろうか。これは、阿寒ユーカラ「ロストカムイ」という演目のポスターである。

▲ロストカムイの広告写真は、ヨシダナギによる阿寒アイヌの方々を撮影した写真が使用されている。
Photo : ©︎nagi yoshida

これは、北海道・阿寒にて2019年3月から上演されている、北海道の先住民族による伝統的な古式舞踊を現代舞踊やデジタルアート、サウンドデザインなどと融合させた新しいパフォーマンスだ。

それと合わせ、本記事では、同じく阿寒で展開されている、カナダのMOMENT FACTORYが制作に携わったナイトウォーク「KAMUY LUMINA」の2つを合わせてレポートしたい。

多分野のクリエイターらが共演する演目「ロストカムイ」

まずは、東京・羽田空港から約1時間半、たんちょう釧路空港から北に車で約1時間の場所にある、北海道・阿寒湖アイヌコタンの中の阿寒湖アイヌシアター<イコㇿ>と呼ばれる施設で、2019年3月19日(火)より上演が開始されたデジタルアートとアイヌ古式舞踊が融合した演目「阿寒ユーカラ『ロストカムイ』」だ。

この施設では、もともと、アイヌの歴史や文化を紹介するのはもちろん、地域住民と観光客との交流の場として、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録される「アイヌ古式舞踊」などの演目が上演されている。このなかで、今年3月から古式舞踊などの演目の合間となる昼と夜の1日2回上演されているのが「ロストカムイ」なのだ。

本作は、当Webサイトでも紹介したが、JTBコミュニケーションデザインの坂本大輔がクリエイティブディレクターとして指揮を執り、先に紹介したプロモーション用のビジュアル撮影にヨシダナギをはじめ、映像制作にWOW、サウンドデザイナーのKuniyuki Takahashi、振り付けをUNO、舞台監督に地元阿寒在住で「イコㇿ」の舞台監督を務める床州生らによるさまざまなクリエイターらが共同で作り上げた作品だ。

時間にして約40分。ストーリーは、動植物はもちろん、水や火や風など、あらゆるものにカムイ(神)が存在すると信じるアイヌの人々とそのカムイの世界を再現したものだ。舞台は、計5台のプロジェクターや7.1chのサラウンドなど、デジタルアートの要素がふんだんに盛り込まれ、観るものを印象的なその世界へと引き込む。

デジタルアートのプロジェクションをバックに現代舞踊。それだけでまとまってしまいそうだと想像しがちだが、本作はアイヌの古式舞踊の要素もストーリー内には組み込まれており、現代性と伝統性を融合しようとした背景が見事に体現された演目になっている。

詳細は実際に目にして欲しいが、自然を神として敬ってきたアイヌの人々の心情を伺い知ることができるとともに、観る者にそれらの繋がりを改めて考えさせてくれる内容となっている。

▲Photos:Tomoaki Okuyama




阿寒の森ナイトウォーク「KAMUY LUMINA」

一方、「KAMUY LUMINA」の舞台となるのは、阿寒摩周国立公園の中の阿寒湖のほとりに位置するボッケの森だ。先に紹介した阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ」からは、歩いて15分ほどの場所に位置する。

▲ボッケの森:ボッケとはアイヌ語で「煮え立つ場所」という意味で地質現象の「泥火山」のこと。森の中は火山ガスが吹き出している場所もあり、エゾシカやエゾリスなどの野生動物が生息する自然豊かな場所だ。

この阿寒湖周辺は、国立公園が日本で初めて誕生した1934年に指定され、日本一酸素濃度が高いと言われるエリア。この一帯が美しき景観を守り続けているのには、阿寒の環境保全に務めた前田一歩園財団の三代目園主 前田光子が地元のアイヌ民族に土地を解放したことから端を発した。

この湖畔の森の全長1.2kmの道で展開される夜のアクティビティが「KAMUY LUMINA」。これは、2018年4月に日本の長崎県伊王島にオープンしたナイトウォーク「Island Lumina」でも話題になった、カナダのデジタルアート集団のMoment Factoryとコラボレーションから生まれたアトラクションだ。

▲「KAMUY LUMINA」の入り口。

ストーリーは阿寒ユーカラ最後の伝承者といわれる四宅ヤエ氏が語った「大飢餓から人々を救ったカケスの神の物語」がベースとなっており、夕暮れとともに始まるこの舞台で参加者は、道行く先を照らしてくれるスティックを片手に計8つのポイントを通過していくもの。参加者は、ナビゲーターとなるフクロウの助言を頼りに、その使者となる森一番の歌声を持つカケスをサポートしながら冒険に出る。

ゾーン内では、スティックから「フーンコ フンコ フーンコ」というメロディーが絶えず流れる。これは、ナビゲーターのモデルにもなっているシマフクロウの鳴き声を真似たもので、四宅氏が語ったとされるユーカラの音源を使用したものだそうだ。

▲森のポイントで登場するナビゲーターのフクロウ。

▲暗くて見えにくいが、ライトとナビゲーション(音声が出る!)の二つの機能を兼ねたスティックを手にして冒険は進む。

▲スティックを活用してカケスをサポート。様々なミッションをクリアしていく。

▲湖畔の道は、デジタルアートとの融合で昼間とは別の顔を見せる。参加者は本アトラクションならではの光のアートを体感できる。
Photos:Tomoaki Okuyama

美しい湖畔を舞台に、森とデジタルアートとアイヌの文化とが融合した”アトラクション”という形で、参加者が文化とその精神を”楽しんで”触れることができる革新的な取り組みとなっている。

また、本アトラクションの売上の一部は、自然環境保護活動やアイヌの文化振興に寄付され、森と湖の保全等に活用されるとのこと。目には見えない部分でも、工夫と挑戦が詰まったプロジェクトになっている。

美しい湖と森に囲まれた地、北海道・阿寒で展開される2つのプロジェクト。いずれも大人から子供まで楽しめる内容に仕上がっている。自然と文化と最新技術の融合を図り、新しい潮流を生み出そうとするその熱源を是非現地で感じ取ってみてほしい。End

阿寒ユーカラ「ロストカムイ」

会期
10月までは 毎日15時/21時15分の2公演
*10月以降はHPにて詳細を参照ください
会場
北海道・阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ」
詳細
https://www.akanainu.jp/lostkamuy/

阿寒の森ナイトウォーク「カムイルミナ」

会期
2019年11月10日(日)まで
会場
北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉1丁目5−20
詳細
http://www.kamuylumina.jp/