映像ディレクター 石田雄介さん
ストーリーを見せるためのフォント選び

Photos by Kaori Nishida

日本のみならず世界中で大ヒットした映画「シン・ゴジラ」(2016年、東宝)でC班監督を務め、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのアトラクション「ゴジラ・ザ・リアル 4-D」(2017年)では監督を、映画「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」(2015年、東宝)では前後編の編集を担当するなど、数々の作品で活躍している映像ディレクターの石田雄介さん。WOWOWオリジナルドラマ「アフロ田中」(2019年)では、全10話の監督を単独で務め、脚本も手がけた。ギャグ漫画を原作とした本作のテロップに使われたのは、なんとAXISフォント! テロップに秘められたフォントへのこだわりとは?

撮影した素材をいかに“料理”するか

——幅広く映像関係のプロジェクトを手がけておられます。

僕は、映像制作会社「オフィスクレッシェンド」に所属しているディレクターです。映画やテレビドラマなどで、監督や編集に携わっています。ほかには、アーティストのミュージック・ビデオやライブの総合的な演出も手がけていますが、基本的には映像ディレクターとして、映像に関する仕事を幅広く行なっています。

——「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」(2015年、東宝)や同後編では、編集をご担当されました。編集とはどんなお仕事ですか。

撮影した素材を“料理”すること。これが編集の仕事だと思っています。たとえ良いものが撮れても、編集次第で作品の印象は大きく変わります。これまで僕が手がけたミュージック・ビデオやアイドルのDVDなどは、自分で演出・撮影して、編集まで行うことがほとんどでしたから、編集は監督の仕事だと考えています。ただ、大作の映画では監督と編集の仕事は分業で、クレジットもわかれていることが多いですね。

石田雄介/神奈川県出身。映画監督、演出家、映像ディレクター。映画やテレビドラマ、ミュージックビデオの演出を手がける一方で、近年は「4D」「プロジェクションマッピング」「リアルタイム・モーションキャプチャ」といった最先端テクノロジーを駆使し、アトラクションや音楽ライブの演出も務めるなど、多岐にわたる活動を展開している。映画『モテキ』で第35回日本アカデミー賞優秀編集賞を受賞。

——多摩美術大学の情報デザイン学科を卒業されていますが、学生時代から映像を学ばれていたのですか?

もともとは、映像よりもグラフィックデザインに興味がありました。僕が大学で学んでいた1999年頃は、「Power Macintosh G3」や初代「iMac」が登場したころ。adobeの「photoshop」や「illustrator」「Flash」「Dreamweaver」など、さまざまなソフトウェアを独学で学びました。一方で映像の世界では、ノンリニア編集(※)ができる環境が整った時代でもあります。映像の編集に大きな変革が起きたこの時代から映像にも興味を持ち始め、編集も学び始めました。
 後にディレクターを目指すにあたり、編集もできることが僕の武器になりました。映像作品を制作するときには、カットのつなぎ方や各シーンの構図を決める「カット割り」を事前につくりますが、これはいわば、撮影計画を組むための「設計図」。編集のことを理解しているからこそできることなんです。ビルを建てる際に、建物の完成図から逆算して不足がないように部品をつくる作業と似ていると思っています。

※ノンリニア編集……それまでテープを使って行われていた映像編集(リニア編集)に取って代わり、デジタルで記録されたデータをコンピューター上で編集できるようになった。

▲「アフロ田中」(WOWOW、2019)では、エンドクレジットや劇中のテロップなどでAXISフォントが使われている。

ギャグ漫画「アフロ田中」を連続ドラマ化。
監督としては、“笑ってられない”撮影に。

——近作の「アフロ田中」(WOWOW、2019)では、全10話をひとりで監督されました。

ひとりで連続ドラマを監督することはとても珍しいことだと思います。一般的には、現場や編集、ロケハンなどを同時進行するために、3、4人の監督がいることがほとんど。今回はひとりですから、撮影が夜中に終わってそのままロケハンに出かけることもあって、なかなかタイトなスケジュールでした(笑)。
 ただ一方で、演出の面からみれば、ストーリーや登場人物の演出が破綻せず、一話から最終話まで通して担当できたことが大きなメリットだったと感じています。

——2002年から長期連載している原作「アフロ田中シリーズ」(のりつけ雅春 著)はすでにご存知でしたか?

もちろん知っていました。男性ならではの“あるある感”がとても面白い漫画です。描かれるのは主人公・田中の日常。決してドラマチックなものではありませんが、だからこそ誰しもが共感できるのだと思います。

——ドラマでは、魅力的なキャラクターやストーリーに思わず笑ってしまうシーンが多くありました。視聴者を笑わたいという意識はありましたか。

笑いに関しては強いこだわりをもっています。ギャグ漫画である原作を読んだときに、ストーリーはコメディではあるけれど、それ以上に“人間ドラマ”だと感じたんです。主人公は、若者特有の普遍的な問題にぶつかって、真剣に悩んでもがき苦しんでいる。ギャグは作品のひとつの要素でしかないと思いました。ですから、制作にあたっては、「ギャグや顔芸で笑わせるのではなくて、視聴者が自分の過去を投影してしまうような“ほろ苦い笑い”を誘う」というねらいがありました。これは、主演の賀来賢人くんにも伝えたことです。

▲石田監督による「アフロ田中」の絵コンテ。

——漫画を映像化する難しさはどこにありますか?

いろいろあるのですが、単純に、難易度の高い撮影というものがありました。例えば、ドラマ第2話の海のシーン。水中撮影だったのでスタッフは尋常じゃないくらい大変でしたね(笑)。読者としてはただただ面白く笑って読んでいられますが、監督の立場からすれば「映像化するとき、ヤバいな……」って(笑)。
 本作は水中撮影に加えて、全話を通してVFX(視覚効果)を多く使ったこともあり、撮影の設計図が「カット割り」だけでは不十分でした。ですので、「絵コンテ」を描いたカットもあります。ドラマの監督が「絵コンテ」を描くのは珍しいのですが、編集や撮影、スケジュールまであらかじめ想定して描いておくと、あとはこの通りに撮影すればいいので、僕もスタッフも安心です。

文字情報は演出ではなく、ツール。
ニュートラルで読みやすいものを求めていた。

——連続ドラマ「アフロ田中」の作中では、AXISフォントを使っていただいています。

AXISフォントは美しいし読みやすい。それでいて、堅苦しくもなく砕け過ぎてもいない。これは、「アフロ田中」のストーリーにも共通することでした。作品によっては、フォントでコメディらしさを演出する場合もありますが、本作は“人間ドラマ”だという想いがあったので、フォントによって作品の印象を左右されたくないと思いました。一番大切なのはストーリーですから。

——エンドクレジットなどさまざまな場面でAXISフォントが使われていますが、特に場面転換での使われ方が特徴的でした。

テロップは、ポップな表現に落とし込もうと思って、画(え)の一部にしました。「数時間前」や「翌々日」など、時間経過の情報は視聴者に与えないといけない。けれど、文字自体には情報を持たせたくない。テロップは、あくまで視聴者がストーリーについてこられるようにするためのツールだと考えています。そこで必要なフォントは、ニュートラルで読みやすいことでした。

——AXISフォントはいつからご存知でしたか?

初めて使ったのは、僕がオープニングのタイトルバックとミュージカルシーンの演出・編集を担当したテレビドラマ「モテキ」(2010年、テレビ東京)です。テロップに適したフォントを探していて見つけました。ウエイトが豊富ですから選択肢が多いところも気に入っています。

——映像監督や編集に携わる皆さんは、一般的にフォントに気を使われるものでしょうか。

僕はうるさいほうだと思います(笑)。フォントをタイプすると、わずか数ピクセルですが数字が小さいですよね。ですからリサイズして周りの文字と大きさを合わせます。それで逆に不自然さを感じる場合には、肉眼で等間隔に見えるように、徹底的に調整します。それは、演出ではなくて“情報の整理”なのです。でも、スタッフはかわいそうかもしれませんね。時間のかかる作業ですから。

——ストーリーを観てもらうための舞台を、フォントでも整えているのですね。

そうですね。視聴者にストーリーをストレスなく観てもらうための調整です。もっといえば、僕は視認性を高めるためのこだわりが強いと思います。文字をパッと見たときに、1秒で読めるのか、3秒かからないと読めないかという差につながる。今のテレビは情報が多いので、とても大切な作業だと思っています。

——AXISフォントの新しい使い方を見せて頂きました。ありがとうございました。End

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