創造性ある組織の構築——イノベーションへの道をつくる

イノベーション志向が強まる今、企業は従業員から仕事環境までを視野に入れて、まず組織全体でクリエイティビティーを養う方法を学ぶ必要があります。

急速な技術の進歩とそれに伴う顧客の期待に対応すべく、あらゆる業界が革新的なソリューションの提供を目指し急いでいます。

例えば、一夜にして市場に改革をもたらしたり、新しい市場を生み出したりするスタートアップ企業と連携する、あるいは、顧客が今まさに求めている商品や経験の開発に注力するなど、企業は内と外から前進の道を模索しています。

企業が革新的な製品やサービスを市場に投入し、顧客とのエンゲージメントを維持していくためには、全産業を通じて新しい働き方を見いだすことが不可欠です。

事業に革新性をもたらすために、企業はチーフクリエイティブオフィサーやイノベーション担当役員といった役職を設けたり、社内にイノベーションを担当する新しいチームやグループをつくりその役目を担当させるなど、さまざまなアプローチを取っています。

なかでも、最も人気のある方法は、社外にイノベーションセンターを設けることです。多くの企業が設立しており、革命的なアイデアが生まれることを期待します。しかし、その多くは失敗に終わっています。イノベーションへの道を開拓するために多額の投資をしている企業にとって、決定的な変化をもたらすためには大胆に視点を変えることが大切です。

イノベーションではなく、まずクリエイティビティーに集中すべき

複数の研究によると、変化に即応する革新的なビジネスを生み出すには「組織の幸福」が必要不可欠な要素であるとしています。その幸福の根本とは、個人と組織におけるクリエイティビティーであり、これこそがイノベーションに向けた目的達成型の文化を生むための基本となります。

クリエイティビティーは人間固有のものであり、表現の基礎です。クリエイティビティーが目的と結び付くことで、私たちは自分の思いを形にし、ビジネスの障害物を乗り越え、新たな視点や方法、そして結果を導いていくのです。

クリエイティビティーを解き放つための土台をつくるには、まず、「許容する」「権限を与える」「思い入れ」「共感する」という、人間が必要とする基本的な4要素に焦点を当てる必要があります。

・許容する:社員やチームが一番働きやすい方法で仕事をさせること。
・権限を与える:タスクをこなすために必要な決断を下す自由を社員に与え、必要な場所や時間で働かせること。
・思い入れ:社員の働く意義や幸福を大事にし、仕事に対する思い入れを養う。これにより社員のやる気が向上し、生産性も上がる。
・共感する:多様性や包括性、共感性を大切にする。失敗を恐れず、たとえ失敗しても守る文化を育て、未知の領域へ踏み出させ、自分の声を見つけて人間性を発揮できる環境をつくること。

共感することや権限を与えることなどのコンセプトは、生産性を優先するときには考慮されないものですが、創造性を育み、健全で革新的な文化を生み出すことがビジネス目標に直結するのです。人の心に響く新商品やサービスをより早く効率的に提供するには、企業は次のことを実行する必要があります。

1.継続的な知的・感情的成長に専念する学習組織を構築する。
2.社員が目標に向けて適切な体験ができる機会を設け、組織の幸福を中心に据える。
3.急速に変化する状況やビジネスに組織と社員が対応するため、機敏で臨機応変な考え方を養う。
4.有能な人材を引きつける。創造性を中心に据えている組織は、有能な人材を採用・キープできる。なぜなら、そのような企業は新採用者の抱く期待度を超えることができ、継続的な社員の成長をサポートできるからだ。

組織活性化の中心に、クリエイティビティーがある

クリエイティブな組織を構築・育成するには、体系的なアプローチが必要です。企業はさまざまな要素が絡み合い、互いに依存しているものなので、個別ではなく、全体をひとつのシステムとして考えることが必須です。もう何年も、組織や企業は狭い視野の中で、各自がばらばらな試みでイノベーションにアプローチしてきました。それらは不一致で統一性のない、継続不能な、要するに“調子外れ”な結果しか生み出さなかったのです。

永続的な変化をもたらすには、システム全体を理解し、全体を設計し、そして全体に影響を与えるべきです。

「イノベーションセンター」は新たな方法やツール、そして仕事の場を試す場所として設立されます。しかし同時に、社員の目的意識、創造性の表現、そして組織的クリエイティビティーを発揮する場所としてデザインされるべきです。変化をもたらす触媒となるように企業の進む道を調整し、これらの取り組みを組織の資産として確立することを目指します。 しかし、そのためには構造の再定義が必要であり、思考の変化と人へのフォーカスが求められます。

「イノベーションセンター」で重要なのは、「センター」の意味の再定義だ

イノベーションセンターと本部との関係性や、それぞれのポジションを定義することが、本当の変化をもたらす基盤となります。この定義の根本となるのが「センター」(中心)という言葉です。イノベーションセンターを「全てがそれを中心に回るもの」と見なすのは、本部との距離感や関係性において理想的ではありません。組織はセンターを中心に回らないのです。

イノベーションにおける取り組みでは、センターを「新しいおもちゃを手に仕入れたイケイケグループ」として位置づけるべきではないのです。一方で、「未来を切り開く場所」とするのも危険です。なぜなら、組織内にすでに存在する全体の創造性を無視してしまうからです。このような位置づけは、取り組みに勢いがつく前に全体の回路をショートさせてしまう可能性があります。

代わりに、イノベーションセンターを組織本体のすぐ外にある「集約の場」として考え直すことが大切です。密度の高いエネルギーと学習の場所を複数個所、企業全体に設けることにより「組織的鍼治療」として機能させ、組織全体にイノベーションを注入・活性化して、全体に巡らせるのです。

そのためには、実験や迅速な反復を促すという、イノベーションセンターの文化を構築しなければなりません。これは系統だってスタッフをひとつの有機体に融合するのに不可欠であり、同時に組織全体としてのアイデア、結果、意志を生み出します。スタッフとそれをサポートする環境がともに働き続けるうち、独自の働き方も自然と生まれます。組織体制が基礎だとすれば、思想は建物を巡る電力です。ともに個人のクリエイティビティーを点火させ、大きな組織内に眠っているポテンシャルを引き出す土台となるのです。

効率を最大化するためには、イノベーションを担当するチームが、組織という母船の外で前進する方法を自由に開拓できるようにするべきです。例えるなら海軍には海軍の、海賊には海賊の流儀があるように。創造性の集結へのコミットメントと体制は、チームとそのスポンサーを組織の外へと結び付け、チームが自由に模索、学習、方向転換を行えることで、真の意味で創造的イノベーションを巻き起こします。

しかし、本体とは分かれたチームであっても隔離されてはいけません。組織に永続的なインパクトを残し、顧客の求める商品やサービスを提供するには、チームに戦略的な立場を与えることが必須です。この立場こそが効果と未来の成功において最も重要となります。

イノベーション・ハブを玄関先に配置しても、敷地外に配置しても、孤立だけはさせてはいけません。これらの場所は生み出される仕事やエネルギーにワクワク感や好奇心をかき立たせ、そのワクワク感は組織内に変化をもたらします。イノベーションの場は組織全体の考え方を変える力があり、学んだことやアイデアを企業全体に浸透させ、変革を促します。

これらの取り組みの目的に直結するものとして、並行して行うべきなのは組織活性化です。この取り組みは、方法論、プロセス、および体系的な学習を組織にもたらし、創造的で革新的な文化を定着させ、成長を促し、継続的な影響をもたらします。取り組みを守り育て、先導するのに適したチームとリーダーシップが必要であり、活気を注入するプランによって組織の深部にまで学習効果を普及させることができます。

学習ラボのデザイン

frogの建築事例では、必要に応じて再構成が可能な適応力の高いシステムとして場がデザインされています。どんな職場でも、継続的な学習にとって測定は必須です。テクノロジーを駆使して、ツール、家具、そしてスペースの活用法の効果を判断し、最大限の効果をもたらすよう迅速に調整することができます。これには従来と異なる建築とデザインが求められています。最終版ではなく常に新たな発見をして、ウォルト・ディズニーの言葉にあるように「常に進化する状態」であるべきです。

常に変化している状態で成長していくというマインドは、今まで以上に重要です。継続的な進化の中では、人々は何でもできる安心感がなければ自由に動けません。失敗を許容する風土は、われわれの創造性を再発見するための燃料となります。

私たちは実験室、遊び場、教室や舞台でもある「集約の場」を構築しています。これらは継続的な開発と発明を促すものであり、好奇心や創造性をかき立て、主体となる組織の変化を促進します。

私たちとノルウェーの電力会社Equniorとの事例は、組織がどのように未来の仕事の形を実現する最初の一歩を踏み出したかといういい例です。Equniorの社内調査によると、同社は社員のやる気が40%も向上し、コミュニティー全体にさまざまなツールや方法の実現・導入され、早い結果を得ることができました。frogと共同で人の創造性を中心とした未来の組織へと導くシステムをデザインしたのです。

最も効果的な取り組みとは、企業独自の未来へのコミットメントと社員への信頼感が物理的・精神的に体現されているものです。これはとても大変な仕事であり、集団的創造性が開花するためにはそれに適した枠組みが必要です。今後この先に発生するであろう世界規模の課題を解決し、人類を次のステージに昇華させるのならば、創造性を解き放つ以外、道はありません。

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通CDCエクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修でお届けします。