誰がイノベーションを進めるのか?

frogのオースティンスタジオのデザイン&ストラテジーチームに、次の二つの疑問が投げかけられました。ひとつは「イノベーションを主導する場で、女性はいったいどのような立場にあるのでしょうか」というものであり、もう一つは「どうすればより多くの女性がその場に参加できるでしょうか」というものです。

目を閉じて想像してみてください。未来を描き、イノベーションを実現する人たちのことを。あるいは、今後何年にもわたり組織を動かし、成長させ、変える責任を担うイノベーション担当役員やリーダーのことを。いったい誰を思い浮かべましたか。その職に就いているのは誰だったでしょうか。

データで見てみましょう。役員のうち、女性の割合は5人に1人にすぎません。さらにいえば、白人以外の女性は30人に1人もいません。あなたの想像どおりでしょうか。イノベーション・コンサルティングを行っている女性の目で見ると、未来をつくる仕事を担うリーダーの集まりは、どの業界でもひと昔前の50年ほど前とほとんど同じ光景であることに気がつきます。しかしデザイナーとして考えると、さまざまな視点や背景、文脈をその場に取り込まなければ、最高レベルのイノベーションを実現できないことは明白です。

イノベーションの系譜

大昔はこうではありませんでした。実は、人類初のコンピュータ・プログラマーは、1840年に高度な解析装置に可能性を見いだし、現代の汎用コンピュータにつながるアルゴリズムを最初に公開したエイダ・ラブレスという女性だというのが通説です。いったい何が変わってしまったのでしょうか。

その答えを見つけるために、私たちは、イノベーションを先導する、ビジネス、デザイン、科学、技術部門の経営幹部で先駆的な女性たちに、どのようにして現在の地位まで上りつめたのか、直面した課題、そしてここに至るまでに何を学んだかをインタビューしました。彼女たちの話は、行動を起こし、男女が平等の機会を得られるよう変化を起こさなければと思わせるものでした。

女性が高い地位を得るためのふたつの警告と四つの助言

インタビューした25人の女性イノベーション・リーダーは、業種や経験、人種や民族、出身地や年齢など異なるバックグラウンドを持っていますが、共通する特性があります。それは、強さ、根気、意欲、自覚、そして勇気であり、ひと言で表せば「スーパーウーマン」だということです。彼女たちが語った、高い地位を得るためのふたつの警告と四つの助言を皆さんにお伝えします。

警告1 思い込みは避けられない
ふたつの博士号を持つカリン・ラクミ博士は、生命科学分野に特化した検索エンジンを提供するBiozの創立者かつ科学部門の責任者です。かつて、スタンフォード大学で研究を行っていましたが、優れた実績にもかかわらず、彼女がメール送信先リストの中でたった1人の女性であったために、会議予定を管理する役員秘書だと思われたこともあったそうです。このような偏見に満ちた環境では思うような研究ができないと、彼女は、世界初の生命科学実験用AIサーチエンジンの基礎を築くために、スタンフォード大学の恵まれた地位を退きました。

故意かどうかにかかわらず、こうした思い込みから生まれる偏見にどう向き合えばよいのでしょうか。

警告2 疲れがたまると、バランスを取ることで頭がいっぱいになる
frog designでクリエイティブ・ディレクターを務めるルーシー・スウィザンビーは、ビジネス上の課題を解決するために、自身のデザインスキルをよく活用しています。多くの課題に対応する中で、ほとんどの女性が「自分の弱さを見せないために疲労を隠そうとしている」ことに気づきました。注意を払うべきあらゆる分野のバランスを取るには、どれだけの労力が必要なことか。

スーパーウーマンでいるのは大変です。彼女たちにとって最も重要な活力を維持するには、どのように手助けすればよいのでしょうか。

助言1 リスクを恐れるな
AIVITA Biomedicalで臨床開発と薬事規制の責任者を務めるキャンダス・シーエは、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を座右の銘にしています。自社の女性社員を指導するときには、「何かを求めても得られないかもしれません。しかし、求めなければ未来永劫決して得られないのです」と助言しています。

リスクを承知で挑む女性たちを勇気づけるため、私たちは何ができるでしょうか。

助言2 常識や慣習にとらわれない
Cognizant Technology SolutionsでIoTコンサルティング部門の責任者だったメアリー・マーフィー=ホイエは、意欲的なノルマを課してキャリアを積んできました。彼女は、1980~90年代のハイテク産業の女性たちは、孤立し、今とは違っていたと言います。彼女たちは、自分を強く信じ、「大丈夫。うまくいく」と自らを鼓舞する必要がありました。

『フューチャー・オブ・ワーク(The Future of Work)』の著者であり、彼女の協力者でもあるマサチューセッツ工科大学スローン経営学大学院のトーマス・マローン教授は、自分ならではの行動規範を決めるようメアリーに勧めたと言います。「彼は世の中の常識にまったくとらわれない人なんです。家を建てるのにどのぐらい時間がかかるでしょうね、と尋ねると、彼はこう答えました。『24時間もかからないでしょう。ゲームのルールや考え方をちょっと変えればいいんですよ』」

Googleのハードウエア製品デザインの責任者であるアイビー・ロスは、「この世界に飛び込んで、いつも自分らしくあろうとしてきただけです」と、現在の成功の源泉が、アーティストとしての若い頃の経験や、ありのままの自分であり続けようと努力してきたことにあると感じています。

仕事の暗黙のルールを理解し、それを打ち破るために、どのような支援ができるでしょうか。

助言3 チームを作る
スーパーヒーローには、必ず助けてくれる人がいます。だからこそ職場でも家庭でもチームを作ることが大切です。

Adobeのカスタマーエクスペリエンス部門のヴァイスプレジデント兼ゼネラル・マネージャーであるクリス・ホールは、「周囲の人の協力がなければリーダーとして結果を出せない」と確信しています。クリスは、自分の意志で積極的に行動するタイプではないという自覚がありますが、自分のチームを助け、巨大な組織をさらに成長させるためにできることは何か、常に自問しています。

性別については、柔軟な考えを持っています。これまでのキャリアの中で出会った相談相手のほとんどが男性でした。彼女は周りの人に目を配り、その人たちを引き込む環境を作っています。frog designのエグゼクティブ・ストラテジー・ディレクターであるリーザ・ジャクソンは、生活のあらゆる面でサポートしてくれるチームを作る必要がある、と付け加えました。「キャリアと子育てを両立させ、人生をうまく回すための相談相手は簡単には見つかりません」

BNY Mellonで企業マーケティングの世界的な責任者であるアニコ・デラニーは「友人や家族、専門家による、あなただけの”役員会”を作りましょう。あなたが最高の状態でいられるように助けてくれ、そして必要な場面で手助けしてくれるのは誰なのかを見極めるのです」と言っています。アニコは、働く女性には、信頼できる託児所、友人や専門家を含む、強力な社会的支援体制が必要だと確信しています。

どうすれば働く女性たちを、相談相手や支援者となる職場や家庭のサポートネットワークと円滑に結び付けることができるでしょうか。

助言4 先行投資をする
起業家でありソフトウェア開発や講演も行っているケシャ・ウィリアムズは、子供や女性、特に白人以外の女性の技術分野における地位向上に熱心に取り組む奉仕活動家兼メンターです。「私のキャリアの中で見聞きした経験から、技術分野における人の多様性を高めるために、子供、とりわけ少女たちを早くから技術に触れさせることに積極的に取り組んでいます」

frog designではかつて健康戦略に関する責任者を務め、現在はGenslerの地域医療&福祉部門を率いるリンゼイ・モズビーは、第一に自分らしくあること、そしてその次に女性のリーダーであることを望んでいます。「必ずしも正しい行いを求める運動に参加する必要はありませんが、その実現に向けて時間と労力を捧げている人たちに感謝すべきだと思います。多大な努力をしなければ現状を変えることはできません」

トップに上りつめた女性と、適切なサポートを受ければ将来トップに立てる女性をつなぐ循環を保ち続けるにはどうすればいいのでしょうか。

次なるステップ

これらの女性たちのおかげで、解決するべき課題や、変化の気運が高まっていること、そのために何ができるのかが明らかになりました。では、次のステップとは何でしょうか。私たちがデザインするのは変化です。未来の役員室の様相を、現実のコミュニティやグループ、そして国の姿に近づけ、性別や公私を問わず、幼い子供から高齢者まで、社会全体を活性化させるコンセプトをつくります。

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通CDCエクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修でお届けします。