伊藤維が京都の家具の街で設計した
グローバル・スタートアップ「mui Lab」の新オフィス

「テクノロジーの佇まい」を追究する京都発のグローバル・スタートアップ、「mui Lab」の新オフィスが完成した。

建築家 伊藤維が設計したのは、家具の街として知られる京都市中京区の夷川通沿い、京町家のあった土地に建つビルの細長いテナントで、既存からキッチン以外ほぼ手をつけず、長さ21mの格子棚と固定・可動の机、そして2つの引戸で空間を設えている。

mui Labのプロダクトは、タッチパネル・センサー・基盤などが木の素材とハイブリッドした、総体として「mui」としか形容できないユニークな質を持ち、これを開発する社内には、ひとりとして同じスキルセットを持ったメンバーがいないそうで、現代の異能職人集団のようなチームのあり方を、シンプルな介入で空間化しようとしたという。

野縁材による格子棚は910mmの均等ピッチで組まれ、不規則な既存柱型のリズムを町家的なモジュールに整える。格子はプライバシーの必要な場面に使われる引戸の枠でもある。レセプション・会議・ハード作業・プログラミング・昼食などの異なる行為に使われる机は、プロジェクトの状況に応じて付いたり離れたりする。

製作繁忙期はハード作業の机が大きくなったり、イベントの際にはレセプションの机が大きくなったりと、町家が公私の空間を建具開閉で伸縮したような柔軟性を、家具の設えに置き換えた。

同じ設えが、異なるアクティビティや異なる物々で占有され並ぶ風景。あるいは、同じ場所でも時によって異なる行為が立ち現れる空間。そんなシンプルかつ重層的な空間のあり方が、夷川通に脈々と残る職住・新旧の渾然とした風景と連続した経験につながれば、と考えた。 End

▲All Photo Courtesy of Masaharu Okuda / Togo Kashu