自動運転シャトルバスGACHA(ガチャ)——
センシブル4と無印良品の共作に乗る

▲GACHA(ガチャ)。スカンジナビアの人々の平均身長に比べると小さ過ぎる気がする、全長4.5m、全幅2.4m、全高2.8mというサイズ。親しみやすく小回りが効く。

ハイテクのメトロポリスと言われるフィンランドの首都ヘルシンキは、小さな都心にさまざまな交通機関を目にすることができる、活きたジオラマのような場所でもある。ここにもうひとつ、新たなモビリティが加わろうとしている。ロボティクスの会社センシブル4が開発し、日本の無印良品がデザインした自動運転のシャトルバス「GACHA(ガチャ)」である。

世界で初めてMaaSを実現した、ヘルシンキの都市交通

ヘルシンキの街の中心には、エリエル・サーリネンの設計で有名なヘルシンキ中央駅がある。ここからフィンランド国鉄が誇る鮮やかなグリーンの巨大な2階建て列車が音もなく出て行く。翌朝モスクワに着くというグレーと赤の車体のロシア寝台列車「トルストイ」が夕方5時過ぎに入線し、同じ色のユニフォームを着た乗務員がパスポートコントロールを始める。 

▲さまざまな交通機関が淀みなく動くヘルシンキ中心部。

地上には深緑のトラムが縦横に走り、それを縫うようにバス停の電光掲示の時刻通りに市バスが運行している。地下には、世界最北の地下鉄、ヘルシンキ地下鉄が、個性あふれるデザインのプラットフォームを郊外まで伸ばしている。それだけではない。やはり街の中心近くから出航するフェリーは、遊覧のためだけではなく、コミューターのために、近距離の島々、またはストックホルムやサンクトペテルブルクまでを結ぶ足として機能している。

そして、これだけ公共交通が発達しているのに、道を歩く人、自転車に乗る人も多い。思い思いの色形をした自転車のほか、最近は日本の都市でもよく見かける黄色いシェア自転車が整備されている。シェア電動キックボード「LIME」も街中至るところに乗り捨てられている(それはそれで問題ではあるが)。ここにタクシー、ウーバーも加わりMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という考えを世界でいちばん初めに取り入れた都市ならではの、モビリティの多様さを凝縮して見ることができる。

GACHA はなぜ生まれたのか?

「事の始まりは悪天候でした」とSensible 4 の設立者のひとりであるハッリ・サンタマッラは話し始めた。「フィンランドには四季ではなく八季があると言われています。つまりめまぐるしく季節が変わるという意味です。6、7、8月の夏のシーズンは本当に素晴らしい。しかしその他の季節が……。雪、氷、そして雨、風。こういった悪天候の日の、駅から家までの最後の1マイルが問題なんです」。確かに9月の初めという季節の変わり目であったにせよ、撮影の日だけでも雨が降ったりやんだり、晴れ間が差したり、フィンランドは天気が一定していない。また気温の変化も激しい。

▲ハッリ・サンタマッラ/センシブル4のCEOでミスター「ロボバス」。アアルト大学で、2006年に自動車工学で学士、10年に機械設計で修士の学位を所得。センシブル4創立以前から、エレクトロモビリティ(化石燃料を使わず炭素ガスを減らすように企画された乗り物)の開発のみならずフィンランドでのEVの実用化に取り組んできた。17年センシブル4設立。

「私たちは自動車産業界でクルマをつくって成功したり、できたクルマを輸出したいということからこの会社を始めたのではありません。悪天候でも快適に移動できないかと、ロボットをつくっていたメンバーが頭を寄せ集め、できあがったモビリティがGACHAです」。
彼らは、実現可能な方法を探った。デザイン/ビジネスパートナーに無印良品を選び、実際に量産化ということになれば、近い将来車体をつくっているカーメーカーとも手を組みたいとも言う。


▲オフィスに置かれていたGACHAをつくる前の試作車。既存のルノーの車体にセンサーを付けて実験を繰り返した。

このおもちゃのようなバスができたことに関して驚くべきことは、実現までのスピードの速さがある。ハッリたち4人のエンジニアたちがSensible 4を設立したのが2017年2月、その年の7月にはもうaiGO と名付けられたGACHAの開発が始まる。18年初めに無印良品がパートナーに。そして19年6月には試運転、この11月末にはヘルシンキで大きなスタートアップイベントが行われ、21年の量産化を目指している。

センシブル4が目指す自動運転

撮影のために実際に自動運転でGACHAを動かしてもらったのは5Gの開発に取り組むノキア本社ビルに近い公道だった。動き出しにキユウンという小さな音がするが、その後は無音。誰もステアリングを握らず、乗客は同じ向きではなく対面した状態で移動する。そんな空間に慣れていないせいか、多少の気恥ずかさと、今どこを走っているかを確かめたい思いから、各自後ろを向いて大きなガラスの窓から外を眺めているとGACHAは動き始めた。


▲GACHAという名前の由来は日本のカプセルトイ、ガチャガチャから。車体全体が人を包み込むカプセルというコンセプトだ。座席10名、立って6名の定員16人。

窓が大きいために外の景色がよく見える。試運転のため平均時速は15kmほど。その速度と構造から、バスに乗っているというより、もっと地面に足が近く軽い乗り物という感じがする。しかし、そんなかわいい外観でありながら自動運転で最高時速40km、マニュアル運転では80kmまでスピードを上げることができるという。

「われわれは野心を持つと同時に現実主義者です。それとフィンランド人のエンジニアは謙虚でもあります(笑)。それなので実現できる自動運転のレベル4の4という数字を社名に付けたのです」とハッリは社名の4の理由のひとつを明かした。

アメリカSAE(自動車技術者協会)の定義ではクルマの自動化のレベルは0から5までであり、操作運転の必要がない完全自動化をレベル5としている。そのなかで彼らがやろうとしているのはレベル4だという。

▲左右線対称のインテリア。後部座席も前部座席も同じ形。試運転の今は、車内に運転をコントロールするモニターと人を置いているが、複数のGACHAを走らすようになれば、その動きを監視・コントロールするフリートコントロール室を設置する予定だという。これも21年の完成を目指している。

「私たちは完全な無人運転を目指しているわけではありません。安全性も考えるとレベル4が現実的だと考えたのです。安全性を確保するためには監視する人間は必要。しかし100%安全な乗り物はありません。例えば飛行機も事故を起こしますが、飛行機と同程度の安全性を確保することは可能でしょう。自動運転にいちばん必要なことは redundancy(重複性)だと思っています」。

▲GACHAはCSS Type2 という標準的なバッテリーチャージャーで充電する。近い将来には、ワイヤレスのチャージャーを実現させる予定だという。黒い部分がLiDAR。GACHAではルーフとフロント、リアの4カ所にある。LiDARが増えるとより正確に障害物をよけることができるが、数が多いとデータの分析に時間がかかるのでそのバランスに試作を繰り返した。LiDARはSICKとRobosenseを使っている。GPS機能はルーフトップにある。

GACHAは、自動車産業界が次のクルマを開発しようと描いた絵ではない。完全無人運転でなければ、空を飛ぶこともない。クルマというよりは、居間の延長のままに快適に移動したいという願望を果たす地道な取り組みだ。悪い天気の日に、人々の足になりたいというシンプルな想いから生まれた小さなバスが、都市公共交通の世界という大海に一石を投じようとしている。End
文/編集部・辻村亮子 写真:ヴィッレ・ヴァップラ/Photo by Ville Vappula

本記事はデザイン誌「AXIS」202号「クルマ2030」(2019年12月号)からの転載です。