「シロ・クロ」
色味のないものが持つ世界観とは?

最近では「デジタル疲れ」や「スマホ依存」などといったワードを耳にする機会が増えました。特にスマートフォンは生活の一部になっており、私たちの生活にさまざまな影響を及ぼしています。運転中のながらスマホが厳罰化された例は記憶に新しい出来事です。一瞬にして人々を没入させる魅力のあるスマートフォンですが、使いすぎを抑制するため、モノクロにして視覚的に楽しさを奪ってしまうといった動きもあるようです。一体どんな感触なのか知りたくなり、私もグレースケールを試してみることにました。初めのうちは見慣れない画面に違和感を覚えましたが、だんだんと華美ではないシンプルな世界に心地よさを感じるようになっていきました。今回は、「シロ・クロ」が織りなすシンプルな魅力に注目してみたいと思います。

▲上段左から、アタックゼロ(花王)、BARTH(重炭酸入浴剤)、プライドポテト(湖池屋)、麹だけでつくったあまさけ(八海醸造)、OIKOS(ダノンジャパン)。下段左から、マツモトキヨシオリジナルブランド、MONO消しゴム(トンボ鉛筆)、8 THE THALASSO(ステラシード)。

パッケージデザインで「シロ・クロ」を効果的に活用しているモノを集めてみると、洗剤やキッチン用品・食品・文房具といった日常的によく使うものが多く見られました。それはなぜなのか?と考えてみると、「シロ・クロ」といった無彩色には、周りの環境に馴染んだり、逆に目立ったりと、存在感を自在に操れるという魅力があることに気がつきました。

最近、話題の「見せる収納」でも、「シロ・クロ」の商品は、空間を邪魔することなくまわりの雰囲気に溶け込んでいます。

洗剤売り場では、カラフルなデザインが多いなかで、「シロ・クロ」のシンプルなパッケージは逆に際立ち、自然と手に取らせる訴求力があるように感じます。

自動車においても、「シロ・クロ」を含む無彩色の割合は高く、1975年ごろから増え始め、ピーク時には全体の90%近くを占めています。

▲日本の自動車カラーシェアの変遷。

「シロ」の割合は80年代が最も高く、「クロ」の割合は90年代が高いという動向が見て取れます。80年代に「シロ」が増えた背景には、技術的進歩が大きな要因ですが、消費者の価値観に変化が見られたのもこの頃でした。それまでは「消費は美徳」とされ、きらびやかな色や彩度の高い色が人気でしたが、オイルショックなどを経て「節約は美徳」へと考え方が大きく変化しました。飽きがこない色という観点からも「シロ」の人気に火がついたと考えられます。

一方、「クロ」は、「シロ」と比べるとトレンドの影響を受けやすいという特徴があります。1988年ごろから急速に「クロ」の割合が伸びていますが、その背景は、少し前にファッションで流行した「黒の時代」(カラス族)の影響を受けたものだといわれています。このことから無彩色の中でも特に「クロ」は、個性的な色としての一面もあり、トレンドの影響を受けやすい色だと考えています。

デジタルデトックスで注目されつつある「シロ・クロ」の世界観。消費者の価値観の変化が、どのように自動車の色に影響を及ぼしていくのか「シロ・クロ」を意識しながら、今後の動向に注目していこうと思います。End