ソーシャル・ディスタンシングに
配慮した迷路みたいな公園
「パーク・ド・ラ・ディスタンス」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウィルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探っています。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

オーストリアを拠点に活動する建築スタジオ、Prechtは、ソーシャル・ディスタンシングを維持しながら過ごせる、生垣で構成された迷路のような公園「パーク・ド・ラ・ディスタンス(距離の公園)」を提案しました。

SPREADはこう見る

このプランを見たとき、その発表の早さから欧州では公園がいかに生活に必要な存在であるかが伝わってきました。公園というと滑り台やブランコなどの遊具があり、子どもやその家族が集まる場所だと感じる人も多いかもしれません。欧州では、ベンチでくつろいだり、運動したり、立ち話をしたりと子どもに限らず大人たちが過ごす、屋外のリビング空間のような公共の憩いの場です。コロナ感染から市民を守るための新しい公園のあり方は、新しい日常の提案なのです。

ランドスケープデザイン界の第一人者ローレンス・ハルプリンを師とする上山良子氏のもとで、ランドスケープデザインおよびデザインの基礎を学んだSPREADの山田は、20年ほど前、上山氏に「良い公園とは?」と質問したことがあります。彼女の答えは「ひとりになれる場所」でした。

Prechtが提案するこの「パーク・ド・ラ・ディスタンス」では、ひとりもしくは家族単位で距離を保ちながら歩くことができます。歩いておよそ20分かかる小道の幅は、約90cm。その道に沿って高い生垣が植栽され、隣りあう道と仕切られています。入口では道の混雑具合がわかる仕組み。生垣によって、最適な社会的距離が確保されるそうです。他人と接することなく、まさに、ひとりになれる場所です。欧州では16世紀頃から庭園の中にラビリンス(一方通行の迷路)がつくられてきた歴史があります。この公園もその歴史に習ったデザインかと思いましたが、これは複数の小道を並べたものなのだそうです。

この道を歩くとどんな気持ちがするでしょうか。憩いの場としては少し窮屈そうに見えますが、実際は探検する楽しさがあるのかもしれません。公園を「ひとりになれる場所」として考えると見方も変わります。過去につくられたラビリンスを彷彿させながらも、これからの私たちの生活スタイルに合わせた結果、新たな機能を持つ提案が生まれました。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。

Precht
2013年北京でPenda(ペンダ)という建築スタジオを設立。その後2017年にオーストリアにスタジオを移し、Prechtに改名。異文化への取り組み、学びに対する欲求を大切にしている。