アアルト夫妻が手がけた伝説的なレストラン
「サヴォイ」。
大規模修繕を経て6月3日に再オープン

▲キッチンのすぐ横にあるサヴォイでいちばん人気のテーブル。フィンランドの英雄、軍人で大統領も務めたカール・グスタフ・マンネルヘイムもこの席がお気に入りだった。

アイノ&アルヴァ・アアルト夫妻が内装を手がけたヘルシンキの伝説的なレストラン「サヴォイ」が、大規模な修繕を終えて今年初めにリニューアルオープンしたが、コロナウイルスの影響を受けてクローズ。1937年の創業からきっかり83年を迎える6月3日に営業を再開し、新たな時代へ向けて再びスタートを切るという。

ヘルシンキの目抜き通り、エスプラナーディ通りに面した建物のトップフロアに位置し、テラス席からはヘルシンキ大聖堂や中心街を見渡せる「サヴォイ」。1937年のオープン以来フィンランドの歴史と文化を象徴する場所であり続け、建物ごとヘルシンキ市立博物館の保存対象となっている。

明るさを抑えた照明や白樺の壁と天井は、誰かの家に招かれたような落ち着きと温もりを感じさせるインテリア。アルヴァ・アアルトの「611 チェア」や「A330S ペンダント ゴールデンベル」、アイノの「クラブチェア」など家具はほとんどアルテックの製品だ。イッタラの「アアルト ベース」もここに置かれたことから「サヴォイ ベース」とも呼ばれ、デザイン好きにとっては聖地のひとつとして今も語り継がれている。

▲テラス席で使われていたのは、アアルトのロングセラー「611 チェア」。オリジナルのバーチ材とリネンテープのから、オーク材とレザーにアップグレードした「611 チェア サヴォイ」は、アルテック 東京ストアでも限定発売中だ(左)。昨年5月に就任したシェフ、ヘレナ・プオラッカによるメニューも、サヴォイの伝統を受け継ぎながらモダンでエレガントなタッチになっている。マンネルヘイム元帥の愛した伝統料理ヴォルマック(右)。

初リニューアルを手がけたのはイルゼ・クロフォード

しかし、80年を超える歩みのなかで小さな改修はたびたび行われ、アアルト夫妻が手がけた状態から変わってしまった部分もあったという。そこで、オリジナルを忠実に復元しながらも、サヴォイ始まって以来の大規模な修繕とリニューアルをすることになった。今回インテリアデザインを担当したのは、ロンドンを拠点に活躍するイルゼ・クロフォード率いるスタジオイルゼ。日本では、羽田空港にあるキャセイパシフィック航空のラウンジが彼女のインテリアデザインだ。

▲1937年(左)と今回イルゼ・クロフォードによってアップデートされたメインダイニングルーム(右)。中央のテーブルをはじめ家具はほぼ同じだが、張り地を変えたモダンな装いになっている。

「1937年当初のインテリアから手がかりを見つけて、できるだけオリジナルの状態に戻しつつ、今の時代にふさわしいものを目指しました。ゼロから考える必要はなく、ほんの少しの修繕と愛情をかけるだけで十分でした」とイルゼ・クロフォードは語っている。

レイアウトや建具はオリジナルを忠実に再現

すべての構造と建具はオリジナルを忠実に復元し、レイアウトもアアルト夫妻の描いた図面や古い写真から、オリジナルの比率を参考に再現されている。加えて、リニューアルではオリジナルの家具の張り地や素材の変更で、印象が大きく変わったところもある。メインダイニングルームの「クラブチェア」の張り地はネイビーからグレーに、ソファ席もネイビーからストライプに。テラスの「611 チェア」は、座面と背もたれのリネンのウェービングテープをブラックレザーにした特別仕様「611 チェア サヴォイ」だ。

▲メインダイニングルームのソファ席。ダイニングテーブルの多くは修復が難しい状態にあり、今回つくり直した。製作は自社工場をもつフィンランドの新進インテリアブランド、メイド・バイ・チョイスが担当した。

▲木の温もりとアットホームな雰囲気が漂うメインダイニングルームの一角。スタインウェイ&サンズのグランドピアノと生演奏も、サヴォイの日常風景の一部だ。バーキャビネットは、新たにイルゼ・クロフォードがデザインしている。

また、今回のリニューアルでは小さなワインセラーを新設、化粧室はデザインを一新した。さらに、スタジオイルゼが新たにデザインしたレセプションデスクやバーキャビネットもインストールされている。1937年当時から使われてきた家具と新しい家具が溶け合った新生サヴォイ。創業以来いつの時代も海外のアーティストから地元のファミリーまであらゆる世代を魅了してきたこの場所で、これからもヘルシンキの新たな伝統が生まれていくことだろう。End