大切な人と会うための個室空間。
英のデザインスタジオが考案した
「Social Contact Pod」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

英のデザインスタジオScott Brownriggは、介護施設やホスピス、リハビリセンターなどで過ごす重症化リスクの高い親族(高齢者)と安全に会うための室内空間「Social Contact Pod」を提案しました。

SPREADはこう見る

「Social Contact Pod」は、面会室のような個室です。一般的なトラックやトレーラーで運搬できるよう軽量に設計されています。そのため介護施設の入り口付近や住宅内の庭、駐車スペースに設置することも可能。室内は透明なパーテーションで完全に仕切られており、両端に2つある出入り口は、ドアノブがない押し戸式で手で触れずに入室できます。中央のパーテーションには小窓があり、おばあちゃんと孫が手を握るといったコミュニケーションが取れるようになっています。この空間は完全に独立した状態で機能するため、会話をするためのスピーカーや換気、照明に使う電力は太陽光発電でまかなわれます。

また、コロナが収束し不要になった際、比較的簡単にリサイクルできる材料を使っています。医師が患者を安全に診察するためのスペースとして利用することも視野に入れているそうです。

このような提案は、いますぐにでも必要とする人がいると思われますが、費用や建設期間が明確でなかったり、コロナ禍収束後の利用方法が想像できないと導入を決心するのは難しいかもしれません。しかし、ビデオ通話などコロナ禍で普及したオンラインのコミュニケーションに不慣れな人たちがいることを考えると、大切な人であればあるほど直接会って会話ができる解決策は待ち望まれているでしょう。

日本ではコロナウイルスの感染状況が確認できるアプリ「COCOA(COVID-19 Contact-Confirming Application)」が6月19日にリリースされました。国民の約6割に普及できれば大きな効果が期待できるとされています。ところが7月8日現在のダウンロード数は610万で人口比は5%弱。そもそもスマートフォンの国民の個人保有率は約65%(令和元年版情報通信白書より)ですが、そのなかに高齢者がどれだけいるのでしょうか。重症化リスクが高い人々をオンラインサービスでカバーできない分「Social Contact Pod」のような誰もが簡単に利用できるアナログな手法も必要とされているのかもしれません。End

Scott Brownrigg
ロンドンに本社を構え、ニューヨークやシンガポールなど世界各地に拠点を置く、国際的に活動するデザインオフィス。建築、マスタープラン、アーバニズム、インテリアデザインを専門にしている。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。