当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
スウェーデン中央西部のヴェルムランドという地域に住むカップル、シェフのラスムス・パーソンさん(Rasmus Persson)とリンダ・カールソンさん(Linda Karlsson)は、ひとりきりで自然と食事を満喫できるレストラン「Bord for En」(ひとり用テーブルの意)を開業しました。5月10日からオープンし、8月1日までの営業予定です。
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「Bord for En」は、パンデミック後のレストランのあり方のひとつを提案するために始められました。パーソンさんとカールソンさんは、コロナ禍で両親に安全に食事を届ける方法を模索しているときにこのレストランのアイデアを思いついたそうです。
牧草地の中心にひとり掛けの椅子とテーブルが置かれており、料理はキッチンの窓から張ったロープを伝ってバスケットで届けられます。料理の価格は決めておらず、各ゲストが払いたい金額を払う仕組み。お客は1日1名限定でコロナウイルスの流行が営業中に収束したとしても、変更はないそうです。
はじめにこのレストランを見た時、経営が成り立つのか?目新しいけど持続できるのか?雨の日は使えるのか?など疑問が浮かびました。ですが、この疑問を抱くこと自体が、パンデミック以前の経済活動重視の考え方に囚われているのではないかと気付きました。
人に一切接触しない、感染リスクが低いレストランという側面はこの活動の本質ではないはず。食べるという行為を介して、目の前に広がる世界や自分と向き合うことが目的なのではないでしょうか。天候の些細な移り変わり、虫や動物の気配や鳴き声、肌に感じる太陽の暖かさと空気の冷たさ、口内で咀嚼され胃に到達した食物と身体の反応、それらすべてを包括する時間の存在。考えただけでも豊かな時間です。
実際にその場に行けば「予想外に寒くて室内に入りたい」等の現実もあるとは思いますが、そのことすらも客観的に捉えて日々の日常の尊さやこれからの生き方を考える機会になるような気がします。「そんな体験は海や山を眺めればできるじゃないか」という声も想像できます。確かにその通りですが、頭で分かっていても実際にそんな体験をする人は少ないのではないでしょうか?今これからの生き方を考え直す状況にどうにかして身を置いてみること。それだけで大変価値があることだと私たちは思います。
ちなみに、残念ながら現在の予約は満席で、キャンセル待ちの状態です。公式HPで新たな「Bord for En」を開業したいシェフを地域を問わず募集しているようですので日本でチャレンジされてみてはいかがでしょうか。