当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
アフガニスタンの首都カブールでNGO団体 Ebtakarが、ロックダウンによりフードの移動販売の仕事を失った女性たちのために、使っていたカートを手洗いと消毒ができるように改造。無料で市民に提供しています。
SPREADはこう見る
アフガニスタンでは、現在でも女性は男性より職に就くことが難しい状況です。この問題を解決するため、Ebtakarはコロナウイルスが流行する以前から経済的に自立できない女性たちにフードカートによる食品販売の仕事を手配していました。しかし、3月中旬から全国的なロックダウンが敷かれ、経済活動が制限されることで、これまでに築き上げてきた女性が働く場の減少を防ぐため、今回の活動を始めました。
Ebtakarの移動式消毒カートは、フードカートで使われていた太陽光発電で動くバイクを利用。女性たちが運転し各地を巡回します。手洗い、消毒液の提供の他に市内の貧しい地域を訪問し、公共空間の消毒を行なったり、マスクや手袋を無料配布しています。Ebtakarは国連とアフガニスタン政府から資金を確保。女性たちには日給AFN500(約680円)が支払われます。アフガニスタンの日給の平均は450円から1100円ほどです。この活動は、女性の尊厳に関わるもので、コロナ禍にも関わらず迅速で素晴らしい対応だと思います。仕事をつくることの大切さを改めて認識しました。「女性たちに仕事をつくる」ことは、モノをつくるだけではない、プロジェクトデザインと言えます。
一方で、災害など非常時における活動と同様、プロダクトやグラフィックのデザインが関われていないように見受けられます。近年「デザイン経営」という言葉もあるように、ビジネスの上流にデザインを取り入れることがありますが、こういった活動の上流にもデザインが関われると良いはずです。
自分ならどう関われるのか?今回の活動を例に考えてみました。
非常事態が発生した直後は生命維持が最優先なので、デザインの技能がすぐに機能することは少ないでしょう。しかし、少しでも事態が落ち着けば、すぐに出番はあるはずです。例えば、フードカートの幌のグラフィックデザイン、ディスペンサーやシンクなど消毒設備のプロダクトデザイン、カートの移動ルートや巡回時間を知らせるコミュニケーションデザインなどが考えられます。
このような活動にデザインが介入できていない事例は、本連載の他の記事にも時たま見られます。なぜデザインがうまく融合できないのか?この課題は新しいものではありませんが、なかなかできていないのが現実です。その原因を探り、少しでも社会のなかでデザインを機能させていく必要があると思います。
Ebtakar
アフガニスタンを拠点とするNGO。同国の貧困・飢餓問題を解決するため活動している。