400年前の先人からの教訓をコロナ
対策に活かす。フィレンツェに
残る「ワインの窓」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

イタリア フィレンツェで、レストランなどが400年前に使われていた「ワインの窓」(Buchette del Vino)を復活させました。カプチーノやアイスクリーム、食前酒などを社会的距離を保ちながら提供することができ、安全対策のひとつとして役立っています。

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フィレンツェを含むトスカーナ州には歩道から高さ1mほどの場所に20センチほどの小さな窓が残っている建物があります。これは「ワインの窓」と呼ばれ、保存団体Associazione Buchette del Vino(2015年設立)によると、現在フィレンツェには173箇所のワインの窓が確認できるとのことです。

この窓は、17世紀に起こった不景気をきっかけに、かつて貴族の収入源であったワインを、生産者が中間業者や関連税なしで市民や旅人に直接販売するためにつくられました。300年以上もの間ワインは、この窓から消費者に販売されていたのです。

さらに遡ると、14世紀には黒死病のパンデミックで多くのヨーロッパ人が命を落としました。1348年にはペストがトスカーナ州を襲い、最初の1年間で人口の45~75%を失いました。その後、1630年にも再度ペストの流行に見舞われています。「ワインの窓」は、こういった伝染病の歴史から教訓を得て安全にワインを提供するための仕組みでもありました。

窓での代金のやりとりは金属製のパレットを介して行われ、売り手は酢を使って消毒してから回収したと、書籍「Relazione Del Contagio Stato In Firenze L’anno 1630 E 1633……」 (Francesco Rondinelli著)に報告されています。2020年現在行われている感染対策とほとんど変わらないことに驚きます。

また、この窓は、食べることにも困窮している人々への慈善として飲み物や食べ物、コインを渡すためにも活用されていたという記述もありました。20年前、学生時代にフィレンツェでホームステイを1カ月間経験しましたが、地元の人々に何度も助けてもらいました。助け合いの精神が強いと感じていましたが、400年前から引き継がれているんだとこのリサーチを通じて感じました。

「Associazione Buchette del Vino」が地道なリサーチ活動を行なっていたこともとても大きいですが、今回の「ワインの窓」の復活によって忘れられつつあった文化遺産や教訓を世界中の人が知ることにもつながりました。「ワインの窓」は、新しい取り組みではありませんが、以前あったものを再び活用し始めたことは、過去から未来へ知恵のバトンを渡す重要な事例と言えるでしょう。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。