建物の記憶を後世へ継承
「旧都城市民会館」3Dデジタルアーカイブプロジェクト

宮崎県都城市の旧都城市民会館は、建築家・菊竹清訓が設計した1966年竣工の建築である。日本建築の礎を築いた菊竹が、建築も都市も自然や社会のように新陳代謝していくという「メタボリズム」の建築思想に基づいて設計し、世界的に高い評価を得た建物だ。

開館から約40年にわたり都城市の文化振興拠点として利用されてきたが、施設・設備の老朽化のため閉館し、2019年夏に解体が着工。

この建物の記憶を後世へ継承するため、建築や都市のデジタル化を推進する「gluon(グルーオン)」を中心に、レーザースキャナによるミリ単位で正確な測量データと、一眼レフカメラとドローンによって撮影した10,000枚以上の写真を組み合わせ、建物の形状だけでなく質感や空気感も記録する、3Dデジタルアーカイブプロジェクトが行われた。

制作された3DモデルのVR(仮想現実)では、VRゴーグルをつけて実際の建物を訪れたような体験ができ、360度あらゆる視点で、バーチャル空間になった旧市民会館の内部を見て周ることができる。

さらに、スマートフォンをかざすことで、旧市民会館が目の前の風景に現れるAR(拡張現実)も制作。3Dデータとして永続的に建物の姿が継承され、データを使った活用機会が追加されたことで、「物理的な存在を超えた新たな存在」へ建築の価値は広がったという。

これらの活動は、建築を記録するだけでなく、ARやVR、ゲーム空間など物質性を超えた存在へと新陳代謝させ、活用したことが評価され、第23回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門において、審査委員会推薦作品に選ばれた。

2020年9月27日(日)には同芸術祭受賞作品展において、VRの旧都城市民会館を体験できるワークショップイベントを開催。活動メンバーと参加者がオンライン上で全国から集結し、一緒に建物内を巡りながら、ディスカッションを通してアーカイブの意義や建築の新陳代謝と活用の未来を考えた。End