トヨタ・モビリティ基金のチャレンジより。
筑波大学チームによる新発想の電動車椅子

自動車だけでなくさまざまなモビリティの可能性を追求しているトヨタ自動車は、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金を設立して、2017年から下肢麻痺者向けの補装具開発のヒントとなるような意見やアイデアを世界中から募集するモビリティ・アンリミテッド・チャレンジを主宰してきた。そして、3年の歳月をかけたコンテンストの締めくくりとして、この12月に発表予定の優勝者には補装具の完成と市場化支援のために約1億円の資金が提供される予定だ。

そのファイナリスト5グループのなかに、日本から参加した筑波大学システム情報系・サイバニクス研究センター(人工知能研究室)および医学医療系・附属病院リハビリテーション科からなるチームがおり、同チームの応募作である新発想の電動車椅子「コロ」が、簡便に座位・立位の遷移を可能とし、かつ、どちらの姿勢でも移動が可能とする他に類を見ない構造を実現しているので紹介したい。

コロ(Qolo)とは”Quality of Life with Locomotion”の略で、身体を動かして生活の質の向上を目指すことを意味している。現時点で第3世代のコロ3.0まで試作され、実際に下肢麻痺者による使用テストが進行中だ。

脊髄損傷者にとって立位姿勢を週に3回以上、毎回30~60分間行えば、健康長寿に有意な効果があることがわかっているが、現実に車椅子生活を送っている下肢麻痺者がそれを実践するのはなかなか難しい。そこで、コロは、簡単な操作によって座位と立位の遷移ができ、立位のままでの移動や作業が可能な電動車椅子として企画された。

過去にも同様の試みはあり、実際に販売されている製品も存在するが、それらは座位・立位の遷移も電動で行うために、構造が複雑、遷移に時間がかかる、価格が高価などの問題があった。これに対してコロは、ガス・スプリングとリンク機構を利用した巧妙な特許構造を開発。モーターを使わずに利用者の上体の重心移動によって座位・立位の遷移が可能であり、操作の簡便性とともに小型・軽量・価格優位性などのメリットを実現している。

また、人工知能研究室が、なぜ人力による操作で座位・立位の遷移を行う装置を開発したのかについて、チームリーダーの鈴木健嗣教授は「人工知能の実現には人の知能を理解することが必要不可欠だが、それは人を支援するために人を理解することにも通じる」と語る。遷移を電動化すれば、その分、移動のためのバッテリー容量が減るため、この意味でもコロの仕組みは理にかなっている。

先端的な製品は、ともすればコンピュータや電子技術に頼りがちだが、目的によっては物理的なメカニズムによるアプローチが有効であることをコロは示しているといえるだろう。End