Kamimura & Co.がアートディレクションを担当した
芸術の視点からスポーツの意味を問い直す「de-sport: 芸術によるスポーツの解体と再構築」展

石川県金沢市の金沢21世紀美術館では、2020年6月から9月にかけて、東京2020オリンピック・パラリンピックに合わせ、芸術の視点からスポーツの意味を問い直す展覧会「de-sport:芸術によるスポーツの解体と再構築」を開催した。

同展では、デザイナーの神村誠がクリエイティブディレクターを務めるデザインスタジオ Kamimura & Co.が美術館のキュレーションチームと協働し、展覧会のアートディレクションおよびデザインを担当した。

同展の主旨は、そのタイトル「de-sport」という造語に集約されているという。つまり、「楽しみ」を意味する中世フランス語の「desport(デスポール)」と「deconstructed sport(脱構築されたスポーツ)」という意味を持つこの主題から、展覧会のデザイン自体を脱構築し、新たな楽しみ方を作れないかと考えたのである。

そこで、今日における「正しいスポーツ」や「正しい展覧会」の在り方を逆説的に強調するために、可能な限り逆の方法をとる、すなわち正しくないことを行う、というアイデアを構想。そのために、ただ逆のことを行うのではなく、「正しい」とされることと「誤り」とされることの両方を取り入れ、その是非が判断できない状態=勝敗が定まらないゲームの最中を作り出すことを目指した。

そして、美術館における補佐役としてのデザインではなく、アートに屈服せず、ゲームを変えるだけのパフォーマンスをもつトリックスターとしてのデザインとした。

グラフィックデザインやタイポグラフィのセオリーに逆行し、「読みにくく難解、かつ、読みやすく平易」な展覧会を実現するため、通常は展示室内にあるはずの解説文をすべて通路に追い出した。これらの解説を読み進めるには、思考を巡らせるだけでなく、同時に体を動かすことが必要となるのだ。

また、会場全体に広がる肥大化した章題には、「One Minute Faces」と名づけられたタイプフェイスを採用。出展作家の一人であるエルヴィン・ヴルムの「One Minute Sculptures」シリーズから着想を得たもので、各文字を1分間で制作した。

半ば適当に作られたようにも見えるこの文字は、その混乱した運筆によって観客を高揚させ、シアンとシルバーという冷たい色彩により、祝祭的・熱狂的なムードに対する逆行が行われている。

興奮と鎮静を同時に促すという矛盾は、鑑賞者に耐え難いプレッシャーを与えるものだが、このようなプレッシャーは、勝敗を巡るスリリングな局面にはつきものであり、この緊張関係こそがスペクタクル、すなわち同展のデザインの成立には不可欠だとしている。End

「de-sport : 芸術によるスポーツの解体と再構築」展 (会期終了)

会期
2020年6月27日(土)~2020年9月27日(日)
会場
金沢21世紀美術館