暮らしの風景が変わるような家具やインテリアを。
デザイナーの西尾健史の提案

▲「Takeshi」FIEL(2018)Photo by Kei Yamada

店舗の内装や什器のデザイン、展示会やポップアップショップの会場構成、家具や日用品のデザインといった多彩な活動を展開する西尾健史。2020年には、「時を生ける」「高台」「BALLOON TRAY」「BD」など、多くの新作プロダクトを発表した。今春には、自身の代表作のひとつ「Takeshi」が含まれる福岡県大川のオフィス家具ブランドFIEL(フィール)より、パーソナルデスクのリリースを控えている。これらの新作を例に西尾のプロダクトデザインに対する考えを聞いた。

▲「S_Hanger」日本コパック(2019)既存の木製ハンガーにS字フックをデザイン。ジャケットと一緒に帽子やリュックをかけることができる。

建築とスペースデザインを学ぶ

西尾は、1983年に長崎で生まれた。高校生のときに「すべての造形活動の最終目標は建築にある」というバウハウスの思想を知って建築に興味を抱き、山口の大学の建築学部に入学した。卒業後には、人が暮らす空間やデザインへの視野を広げたいと考え、桑沢デザイン研究所でスペースデザインを学び、在学中に石上純也とassistant(松原慈+有山宙)の事務所でインターンを経験した。

その後、「多くの人がいいと思う空間」を知ろうとハウスメーカーで3年間働き、暮らしに対する考え方は千差万別であると身をもって体験した。そして、2013年に自らの事務所「DAYS.」を開いた。

▲「Tray Rack/Shelf」(2017)ハンガーラックとして、あるいはトレイを置いて棚としても使用できる。Photos by gottingham _

暮らしの風景を変える家具

事務所の開設後は、店舗の内装や什器のデザイン、リノベーション、ポップアップショップといったインテリアを中心に手がけてきた。また、2011年の震災後、各地でデザインは何ができるかといった議論が起こり、人の手によるものづくりに注目が集まった。西尾は、この時期、街のコミュニティに関わるプロジェクトや、DIYの家具のワークショップを開催した。

最初の家具は、2015年にタオルブランド「little bodco」のためにデザインした什器で、それをさらに発展させて2017年に手がけたのが可動式の家具「Tray Rack/Shelf」と「Wal」だ。DIYの要素を取り入れ、アイデア次第で多彩な楽しみ方ができる。「使う人が主体性をもって、自分自身で暮らしの風景を変えるきっかけを与えるようなものを考えました」と西尾は語る。

▲「Wal」(2017)壁に取り付けられ、閉じた状態ではタオルハンガーとして、開くと鏡台として使用できる。Photos by gottingham _

この「Tray Rack/Shelf」と「Wal」のプロトタイプを、2017年にIFFT/インテリア ライフスタイル リビングに出展。ヤング・デザイナー・アワードを受賞し、2018年にドイツのアンビエンテに招待された。

「使う人が楽しめる余白を残し、主体性をもって暮らすきっかけを与える」というこれらの家具の考えは、その後の西尾のプロダクトのベースになった。2017年にスタートしたオフィス家具ブランドFIELのプロジェクトにも、その考えが取り入れられている。FIELとのきっかけは、以前より親交のあった同ブランドのディレクター、Acht(アハト)の田中敏憲を通じて、オフィスデスクの脚のデザインを依頼されたことだ。FIELからは「デスクはいい脚と天板があれば良い」という明確なビジョンを伝えられた。

▲「Takeshi」FIEL(2018)Photos by Kei Yamada

多彩な使い方が可能なスチールレッグ

西尾は、オフィスデスクの脚を、より自由な働き方を促すアイテムとして考えた。「複数のデスクがつながって、ひとつの大きなテーブルに見えるようなオフィス空間を想像し、デスクを拡張していくための脚を考えました」。それがスチールレッグ「Takeshi」である。

素材やフォルムは、西尾の最初のアイデアがほぼそのままのかたちで完成した。1/1モデルをつくったときには横に倒したり、天地を逆にしたり、ころころと転がしてみたりした。すると、単体ならばワゴンや棚にもなるといった魅力に気づき、カラー展開を加えるなどして、製品化は進んだ。

▲「BUMP」FIEL(2019)ローテーブルやサイドテーブル、マガジンラック、スツールなど、多様な用途に使用できる。Photo by Kei Yamada

プロダクトの角度を変えることで多彩な使い方ができ、いろいろな表情を見せてくれる。その愛らしいフォルムに、プロジェクトメンバーからキャラクター性のある製品名にしたいという意見が出て、西尾の名前「Takeshi」が付けられた。

その後に発表した「BUMP」と「Mini Takeshi」では、スチールと木を組み合わせた。「BUMP」は、オフィス空間に遊び心をもたらす大きな組木をイメージし、アート作品のような佇まいに。「Mini Takeshi」は、好きな場所に気軽に移動できるようにワゴンにキャスターを付け、背もたれと袖をデザインして、子どもが腰かけられる椅子の機能ももたせた。

▲「Mini Takeshi」FIEL(2020)オフィスのペットのような存在として考えた。キャスターは取り外しが可能。

これらのプロダクトは、オフィスだけではなく、店舗や住宅といったさまざまな場に納められている。「決まった使い方はないので、自由に楽しんでいただきたいと思っています。例えば、『Takeshi』は、最初は子どもの玩具の収納棚として、小学生になったら天板を載せて机として、大人になったら違う天板に替えるなど、人の成長とともに長く使っていくアイテムになったら嬉しいですね」。

▲「時を生ける」マークスインターナショナル(2019)生けた植物は次第にドライフラワーになる。

▲「高台」マークスインターナショナル(2019)ブナ材を使用し、職人が旋盤機でひとつひとつ削り出してつくられている。

今までにないものを求めて

西尾は「今までにないものをつくりたい」と語る。2020年は、新しいアプローチで挑んだ数々のプロダクトを発表した。そのうち、マークスインターナショナルのライフスタイルブランド「70cmの景色」から3月にリリースされたのが、「時を生ける」と「高台」だ。70cmとは、床に座ったときの目線の高さ。古き良き日本の暮らしを見直し、現代の生活で70cmの目線から見えてくる豊かさを提案するプロダクトである。

「時を生ける」は、自分で選んだ植物を飾り、季節のうつろいを楽しむ花器。「高台」は床座で過ごすための器などを載せる台であり、いずれも人が手を加えて初めてプロダクトとして完成する。

▲「BD」DOOKS(2020)ページを飾って眺めるという新しい本の形。

10月に発表した「BD」は、アートブックレーベル「DOOKS」を展開するグラフィックデザイナーの相島大地と協働した新しい本の形態で、2017年頃から開発していたものだ。ZINEのような冊子は、表紙や中面がどんなに格好いいデザインでも、束(つか)が薄く、本棚で埋もれてしまいがちなのがもったいないと感じたことがきっかけだった。

「表紙を何か美しく見せる方法がないかと考え、BD(Binding=挟む)という行為によって、ひとつの構造で平置きにしたり、壁にかけられたりする大切な思い出を入れるフレームの形にたどり着きました。中に挟むものはZINEや紙だけでなく、旅先のチケットやお菓子のパッケージ、写真なども。このBDも含めて、僕がデザインするプロダクトには絵を描いたり、塗装したりしていいと思っていて、それによってその人だけのオリジナルのものになればと思っています。また、コロナの影響で皆、家にいる時間が増えているので、自分の好きなものを飾って少しでも心地良く過ごせる時間を提供できればと願っています」。

▲「baloon tray」日本コパック(2020)スタンドは真鍮製、オプションのキャッシュトレイを取り付けられる。Photo by TAKANORI URATA DESIGN

コロナ禍ゆえのプロダクトデザイン

2020年は、コロナ禍ゆえのプロダクトデザインにも挑戦した。そのひとつが「S_Hanger」と同じく、店舗什器メーカーの日本コパックから10月に発表した、飛沫防止のための受付やレジカウンター用の置き型パーティションだ。閉塞感や圧迫感を軽減させて人との関係性を和らげることを目指し、片脚の構造で顔の周りにシャボン玉が浮いているようなデザインを考えた。すでに販売されていて、店舗などで使用されているという。

▲「THINK THE BORDER」展の会場構成の模型。

コロナの影響により働く環境もさらに変化しているなか、4月16日から開催される「THINK THE BORDER」展では、FIELから「Takeshi」のパーソナルデスクを発表する。日本コパックやMUTEと共同企画し、多彩なメーカーが参加してホームとオフィスのさまざまなシーン、プロダクトを紹介しながら、新しいライフスタイルを提案する。ここでは、人の暮らしに寄り添い、使う人と物との関係性を真摯に考えてきた、西尾の新たなデザインのかたちを見ることができるだろう。End

「THINK THE BORDER」展
会期:2021年4月16日(金)〜4月23日(金)*18日(日)休館
会場:CPK GALLERY
*感染症対策も含めて、詳細についてはオフィシャルサイトでご確認ください。
instagram: https://www.instagram.com/thinktheborder


西尾健史(にしお・たけし)/空間・プロダクトデザイナー。1983年長崎県生まれ。桑沢デザイン研究所を卒業後、設計事務所勤務を経て、2013年に「DAYS.」を設立。空間デザインを中心に、家具、インテリア、会場構成などをデザインする。 IFFT/インテリア ライフスタイル リビング2017で「Young Designer Award」、「GOOD DESIGN AWARD」を受賞。近年の空間の仕事は、ADDA(2020)、出雲大社埼玉分院(2020)、TOKYO ART BOOK FAIR(2017、2019)の会場構成など。