オスをほとんど産まないハチの謎が
明治学院大学教養教育センターの研究員が解明

▲メリトビア(Melittobia australica)のオス(右側の茶色い個体)とメス(左側の黒い個体)の成虫

ハチの仲間である「メリトビア」は、ほとんどオスを産まないという珍しい特徴をもっているという。しかし、オスを約2%しか産まないというその特徴は、これまで謎とされてきた。

そこで、明治学院大学教養教育センター付属研究所・安部淳研究員らの研究グループがそのメカニズムを解明したことを発表した。

これまでの研究では、生物が産むオスとメスの割合は必ずしも1対1ではなく、それぞれの状況に応じて母親にとってもっとも効率よく子孫を残せる値を調整することがわかっていた。

たとえば母親が単独で産むときは、息子どうしが配偶相手をめぐって無駄に競争しないようにオスを少なく産み、母親数が増えるにつれて、自身の息子が他人の息子と競争する状況に備えてオス率を増やすのだ。

しかし、メリトビアの場合は、こうした一緒に産卵する母親の数に関係なくオスを生む率が極端に低い。そこで今回の研究では、「メスの分散の仕方」によって異なる性比で産むことが新たに分かったそうだ。

▲一緒に育ったオスとメスが交配する場合に理論的に予測される性比(左図;橙色)と、先行研究で報告されていたメリトビアの性比(左図;黄緑)、および同研究により新たに自然環境下で測定されたメリトビアの性比(右図)

これによると、遠方の蛹に飛んで分散した場合には、一緒に産卵する母親数が増えるにつれオスの割合を高めて産み、メスが近隣の蛹に歩いて分散して産卵した場合は、一緒に産卵する母親の数に関係なくほとんどメスばかりを産むという。

母親どうしは血縁関係を直接認識できないが、自己の経験にもとづいて、近くに分散したときには「血縁者と遭遇しやすい」、遠くに分散したときには「血縁者と遭遇し難い」と、間接的に血縁関係を推定していると考えられるのだ。

▲メリトビアの分散様式の違いによる母親どうしの血縁関係と性比に関する概略図。寄生されるオオハキリバチは竹筒などの間隙に巣を作り、その蛹は連続して存在する。そのため、メリトビアのメスは歩いて同じ巣の中の別の蛹を探すか、飛翔して別の巣の蛹を探すかのいずれかの方法によって分散する。

つまり、近隣で分散する場合は、血縁関係のある息子どうしの競争を避けるため、母親どうしで協力的にオスを少ない割合で産んで、その分メスを増やすわけである。

こうした母親数と母親間の血縁関係による性比の調節は、世界で初めての例だそうだ。また、この発見は、生物がどのようなときに自己中心的に振る舞い、どのようなときに協力的に振る舞うのか、という社会行動全般の理解への応用が期待できるとしている。End