バーチャルイベントの体験をデザインする際に
気をつけるべき5つのポイント

この連載は、世界最大規模のデザインファーム「frog(フロッグ)」が運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通BX・クリエーティブセンター 岡田憲明氏の監修でお届けしています。

今回は、昨今注目を集めているバーチャル空間でのイベントやウェビナーをデザインするために気をつけておくべきポイントについて、frogニューヨークのシドニー・モリソンとイオニ・グリアティがレポートします。


新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によりソーシャルディスタンスへの意識が定着する中、対面型のイベントやコミュニケーションに代わる手段として、バーチャル(仮想)空間でのイベントやウェビナー、会議が組織には欠かせなくなっています。

感染拡大が始まった2020年初頭、イベント&エンターテインメント業界は全体的に動きを止め、甚大な 経済的打撃を受けました。デザイン業界に生きる私たちは、この大きな転換期こそ「対面型イベントでしか味わえない体験とは何か」を問い直すチャンスととらえました。そこで、バーチャルイベントのデザイン再構築に着手したのです。

目指したのは、対面型イベントのあらゆる要素を楽しめる革新的なオンライン体験です。そこには、参加者が刺激的な体験を共有でき、ネットワークを構築できるバーチャル空間や、参加者同士の有意義なコミュニケーションを促すリモートツールなどを用意します。その過程で私たちは、frogのリモートテクノロジーストラテジーカスタマーエクスペリエンスに関するスキルを活用することで、参加者の心を揺さぶる独自のバーチャル体験をデザイン・構築できる可能性が大いにあることに気づきました。

バーチャルイベント空間でインパクトを与えるには

私たちはある大手メディア企業から、参加者にインパクトを与え続けられるバーチャルイベント戦略を立ててほしいとの依頼を受けました。

デザイナーとしての力量が試されるこの機会に、私たちはfrogが行っている「人を起点とするデザイン」の視点を取り入れました。イベントは、当然すべてリモートで行いますが、そこに単純に「対面型」の感覚を再現しようとするのではありません。

一般的な動画ストリーミングサービスに簡単に組み込めるデジタル製品を開発し、機能に適したコンセプトを構築するため、クライアントが求めるイベントの目的を深く掘り下げました。クライアントの主な目標の一つは、画面疲れをできるだけ少なくし、バーチャル環境でのエンゲージメントを高めることでした。そのためには、AI(人工知能)チャットボットや、AR(拡張現実)用ヘッドセット、バーチャル会議ステージなどの活用が考えられます。

バーチャルイベントの分野には、すでに優れたイノベーションの実例があります。オンラインゲームの「Fortnite(フォートナイト)」は、ユーザーにとても魅力的なバーチャル体験を提供しています。参加者がアバターの姿で世界中から集まり、人気ラッパーのトラビス・スコットと一緒に新しいタイプの音楽の旅を楽しむゲームですが、スコットはこのゲームの中で、最新アルバムを世界で初披露するバーチャルコンサートを行いました。

プロスポーツの世界では、全米バスケットボールリーグNBAがいち早くバーチャルでの「試合再開」に乗り出しました。Microsoft Teamsの「Together Mode」など、新しい技術を取り入れ、AIを使った画面の分割や統合を駆使して、観客がバーチャルスタンドに座っているかのように映したのです。ファンはスマートフォンのNBAアプリを使い、「デジタル応援」や「拍手」を送ることで試合に参加できるようになりました。こうした実験的な手法によってバーチャル体験の質が高まっています。

世界中でロックダウン(都市封鎖)が続いた数カ月の間、frogは複数のクライアントがリアルイベントをバーチャルイベントへ移行するための支援をしました。パンデミック前は、この分野はfrogの中核的な事業ではありませんでしたが、私たちは(frogのクライアントパートナーの多くと同じように)素早く転換を図ることができました。「人を起点とするデザイン」というアプローチが、記憶に残る有意義なバーチャルイベント体験を構築するための、またとないツールになったのです。この経験から得られた、バーチャルイベント企画運営のための特に重要なヒントを以下に紹介します。

バーチャル体験をデザインするための5つのヒント

1:適切なバーチャルプラットフォームを見極める

自社に社内ミーティング用の定番アプリがすでにあるからといって、社外向けのバーチャルイベントにも同じアプリが適しているとは限りません。バーチャルイベントを開催するのにふさわしいプラットフォームは、そのイベントに参加するユーザー層を考えて見極めましょう。対象となる業界や年齢層によく使われているバーチャルプラットフォームがあるか?ユーザーが期待しているのは受動的に情報を得ることか、もしくは積極的に参加して講師や他の参加者と交流することか?こういった問いの答えが見つかれば、イベントの運営側にとっても参加者にとっても最適なプラットフォームを選択できるはずです。

2:バーチャルイベント専用のチームを編成する

バーチャルイベントを企画するには対面型イベントの企画とは異なるスキル、ツール、専門知識が求められます。つまり、バーチャルイベントの企画運営に当たるメンバーも、対面型イベントと同じでは難しいということです。バーチャルイベントチームにはコンテンツ制作者やイベントプロデューサーのほかに、IT部門や技術部門の担当者も必ず加え、イベント前(あるいはイベント実施中)に問題を見つけ出し、解決できるようにしておきましょう。

3:イベント戦略の立案からデザイン視点をもって

バーチャルイベントの企画に当たっては、早い段階でイベントのコアバリュー、コンテンツ、目標を明確にする必要があります。これらの要素はイベントのプラットフォームから、実施される各セッション、アクティビティまで、企画内のあらゆる面に影響します。私たちの経験では、企画段階でデザインの原則や慣行(オンラインホワイトボード「Miro」などのコラボレーションソフトウェアの活用も含めて)を適用すると、イベントの戦略と枠組みの一貫性、インパクトの強さ、生産性が高まります。

4:参加者の関心を引きつける

近頃は「リモート疲れ」という言葉をよく耳にします。しかし幸いなことに、バーチャルイベントの参加度を上げ、記憶に残る魅力的なイベントにするためのツールは数多くあります。

例えば、テーマのあるセッション以外に“休憩室”のようなバーチャルルームを作り、参加者同士が個人的な話をしたり交流したりできるようにすれば、対面型イベントと同じように自然な出会いの場を生み出せます。一方、各イベント特有のフィルターやコラボレーション型オンラインゲームといった体験型コンテンツを工夫し、バーチャルならではの特徴を活用することも有効です。

5:想定外を予想しておく

コロナのパンデミック中にリモートワークをしていた方なら、リモートでの対話が、インターネット接続不良といったごく単純な技術的問題でうまく進まなくなることをご存じでしょう。しかし、バーチャルイベントの主催者はこうしたよくあるトラブルに加えて、これまでに経験したことのない問題にぶつかり、突然イベントがストップしてしまうケースも予想しておく必要があります。イベント企画チームは、事前に起こりうる問題とその対応策をできる限り想定し、もしものときにもイベントを続けられるプランを確実に用意しておきましょう。

2020年は私たちの日常生活やツール、今後の展望など多くのことが変わりました。frogでも皆さんと同じように変わりゆく状況への適応を迫られましたが、経験豊富なデザイナーたちが持つ多様なスキルと専門知識のおかげで、リモートが当たり前になった「新しい日常」のためのユニークなバーチャル体験を生み出すことができました。それは革新的でユーザーの記憶に残る体験です。ワンランク上のバーチャルイベントを開催したいとお考えなら、ぜひfrogにお手伝いさせてください(笑)End