デザイナー 高田 唯さん 
「その視線の先」

東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域の授業「インテリアデザイン特論」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーや建築家、クリエイターの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。

デザイナー 高田 唯さん 
「その視線の先」

グラフィックデザイナーやアートディレクター、大学教員として多方面で活躍している高田 唯さん。常識を疑いながら、“新しい美しさ”を追求し続けています。高田さんのデザインへの考え方、普段から大切していることなどについて聞きました。

自分のデザインに、自分でも驚きたい

ーー高田さんのグラフィックは特徴的な色使いが印象的ですが、どのようにそこに行き着いたのでしょうか。

グラフィックデザインで色に特化して闘っている人が少ないことに気づきました。ワンパターンになってしまうというか、好きな色って決まってしまうじゃないないですか。僕もそうなりがちだった。独立したての頃は、使う紙や色が自分の好みの範囲に限られていて、退屈に感じるようになりました。もう少し妙な色の組み合わせにできないものかと思っていたときに、プロではない人がつくった街中のグラフィックを見て、「なんだこの色の組み合わせは!」と驚いた。すごく面白かったんです。経験者がやらないことを簡単にやってしまう街のグラフィックから大きな影響を受けました。

▲2021年に上海で行われたアートフェスティバル「Picnic Art Festival」のメインビジュアル。

ーーデザインをアウトプットするときに意識していることはありますか

自分のデザインに対して自分でも驚きたいので、何か変なことが起きないかなとモニター上で試行錯誤しています。エラーがたまに発生するのも大歓迎です。先日も、手前に表出させたかったものが背後にいってしまうというエラーが起きたのですが、それがすごく良くてそのまま入稿しました。モニター上だと手作業のエラーとはまた違って、一瞬で変化してしまうもので、何でそうなってしまうのかすらわからないときがありますが、それがいい効果を生むこともあります。そういうハプニングが大好きです。

昔であれば、想像していたものと実際の印刷の仕上がりのイメージが違うなんてよくあることで、それを当時の人たちは楽しんでいたはずなんです。今はモニター上に仕上がりがほぼ見えているから、入稿後にエラーが起きることは良くも悪くもほとんどない。かつてを知っている僕からすると、少しつまらない。だからそういうエラーが降りてくるまで粘ることもあります。

▲中国のデザインコンペティション「Award360° 年度設計100」の作品募集用ポスター。

デザインに活きるもの

ーー高田さんが日常で大切にしていることや、こだわりがあれば教えてください。

ちょっとしたことに反応しています。なんかこの落ち葉いいな、見上げたらすごく綺麗だな、葉っぱがまだ残っているな、とか。それがデザインに活きているかと言われたらわからないけれど、大切なことだと思います。生活していくうえでそういうことに反応できないのは、余裕がないということ。そういうときは見えなくなりがちですが、それではいかんと思っています。どうすれば良いデザインができるかより、どうすれば余裕を持てるかを大事にしています。

ーーデザインを学んでいくうえでのアドバイスや、デザインの力を高めるためにアドバイスがあればいただけますか。

それはもう自分を観察しまくるしかないんじゃないでしょうか。人に影響を受けることもあれば、こうなりたいと思ってもなれないこともある。結局自分の良い所も悪い所もすべて受け入れなくてはいけない。嫌だったら抗えばいい。常に自分の内側にある熱い部分やクールな部分、ストイックな部分をうまく利用してね。それと得意、不得意はわかっていてほしいし伝えたほうがいい。かっこつけないで現状はこうだと受け入れる。自分のことをダメだと思う人が多いですよね。僕もそうです。でも、この部分は良いかもというところがあるはずだし、極論すると、なくてもいいんじゃないかな。それを自覚したときにようやく大胆な発想ができるんじゃないでしょうか。

ーー学生時代に、今のデザインに対する考え方へとつながる経験はあったのでしょうか。

高校生のときに大人がつくった社会にうんざりしていて、そういうところから始まっているかもしれないですね。生徒たちを落ち込ませる体制ってなんなんだろうと、教育に対してすごくアンチでした。例えば、小学校で、「絵が描けない」「下手くそ」と言われたら、美術やデザインとそこでおさらばしなくちゃいけなくなって、そこで終わりなんです。一生。その時期に何か否定されたり、レッテルを貼られたりしたら二度と帰ってこれない。そこを変えたいと常に思っています。

だから、われわれの世代が悪い部分をどれだけ次の世代にバトンタッチしないかにかかっていると思います。そういう責任感を感じながらやっています。「悪しき文化はもうここまで!」と。もし、次に行ってしまったら、その次の世代の人が「もうこの仕組みは要らない」と判断して次につなげてほしいですね。(取材・文・写真/東京都立大学 インダストリアルアート学域 宮崎優子、登アイリ、古屋里紗、森涼華、時田琴子、王欣欣)

高田 唯/1980年東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。株式会社Allright取締役。東京造形大学准教授。広告、ロゴ、ブックデザイン、パッケージなど幅広く活動するかたわら、国内外での展示も多数開催している。http://www.allrightgraphics.com