プロダクトデザイナーの藤城成貴が目指す調和するデザイン、永く親しまれるデザイン

▲卵や工業製品の緩衝材に使用されるパルプモールドを用いて、「色の混合率」と「紙の溶解時間」を駆使し、新しい表情をもたらした作品「mix」。カットして好みの高さにするなど、カスタマイズも可能。

プロダクトデザイナーの藤城成貴は、エルメスやカンペール、HAYなど、海外のメーカーとのプロジェクトも多数手がけている。国内でも仕事に結び付くのがなかなか難しい家具やプロダクトの分野において、多方面に活躍しているひとりである。だが、自身は現状に満足せず、常に模索しているという。さまざまな要因が重なって働き方を見直し、昨年、長野県御代田町に拠点を移した。現在までの軌跡、デザインに対する考え、今後手がけてみたいことなどを聞いた。

▲工業用ロープで編まれた、自立するかご「knot」。藤城のオンラインショップでも販売されている。

クリエイションへの興味

藤城のものづくりに対する興味の出発点は、幼稚園時代にさかのぼる。通っていた東京・世田谷のゆかり文化幼稚園での体験が大きかったという。創造性を育む場を目指して考えられた個性的な建物は、建築家の丹下健三が設計を手がけた。そこで日々、歌ったり踊ったり、絵を描いたり、工作したり、自分の体と同じくらいの量の粘土を使って何かをつくったりと、伸び伸びと楽しみながら感性を育んだ。

▲カンペールとのコラボレーションによる「Bag」。生地の断面を合わせて縫製しフラットな面をつくり、ラバーコーティングを吹き付けることで、型で成形したようなプロダクトに仕上げている。

大学は経済学部に進んだが、2年時終了後に1年間、アメリカ・カリフォルニア州バークレーに語学留学し、そこで再びクリエイションへの興味の扉が開かれた。目に留まったのが、街の人々の生活スタイルだった。

「日本では、塀をつくって家の内と外と分けますが、彼らは図書館を自分の書斎のように、カフェをリビングのように、街全体を自分の生活の場と捉えている。その生活スタイルがいいなと思い、そういうことに何らか携わる仕事ができたらと考え、それは建築なのかなと思ったのです」と藤城は言う。そして、留学を終えて帰国後、経済系大学4年時からダブルスクールとして桑沢デザイン研究所夜間部でスペースデザインを学んだ。

▲2012年からIDÉEで販売されている「sierra sofa」。座面から背にかけて「sierra(山脈)」をイメージしてデザインした、ゆったりとしたワイドとホールド感が魅力。

IDÉEのデザインチームに

桑沢に通いながら、IDÉE(イデー)のカフェでアルバイトを始めた。就職活動では、建築や設計の事務所にあたったが、建築の大学を出ていないこともあり、受け入れてくれるところがなかなか見つからなかった。

以前、IDÉEの展覧会でテヨ・レミの「ラグチェア」を見て、家具デザインに興味をもったことと、知人の助言もあり、IDÉEのカフェから家具の管理と配送の仕事に異動の希望を出した。部材を組み立て完成させて注文を受けた家に届ける仕事で、日々、家具に触れるなかで、さらに興味が高まっていったという。

その後、社内で家具デザインのアイデアの募集があり、藤城も参加。そのときに手がけたソファが評価されてデザインチームに加わり、約7年間、店舗やオフィスの特注家具をメインに担当した。

▲モビール「FRAMES」は、2007年にセルフプロダクトでつくり、翌年から国立新美術館のSFT GALLERYや、アメリカのインテリショップ兼ギャラリーtortoise(トータス)で展示販売された。

海外での仕事の広がり

2005年にIDÉEを退社し、shigeki fujishiro designを立ち上げ独立。IID 世田谷ものづくり学校を拠点に活動を始めた。海外のメーカーと仕事をする最初のきっかけになったのが、2007年にセルフプロダクトでつくったモビール「FRAMES」だった。

IDÉEで働く友人に気に入られて、当時、オープンしたばかりの自由が丘店に飾られることに。それを店頭で見た客から欲しいという声が上がり、製品化。「FRAMES」はMoMAのバイヤーの目にも留まり、さらに元IDÉEの上司から誘いを受けてロサンゼルスでモビールの個展を開催。そこから海外の販路が開けた。

▲強度や耐久性に優れた3本脚のスツール「eiffel」。

ヨーロッパでの仕事は、パリのセレクトショップmerci(メルシー)が最初だった。同店のディレクターが来日した際に、東京・青山のCIBONEで藤城がデザインしたスツール「eiffel(エッフェル)」を見て販売したいという申し出があり、それを機にヨーロッパのほかのメーカーとの仕事も増えていった。

merciのディレクターは、エルメスとも引き合わせてくれた。「革のオブジェクトを自作して、パリに行ったときにそのディレクターに見ていただきました。エルメスでつくれたらと思いを話したら、すぐに連絡してくだったのです」。そして、製造工程で出る端材や傷のついた素材を用いてクリエイターとものづくりをするエルメスの「petit h(プティ アッシュ)」のプロジェクトへの参加を果たし、数年後にはエルメスジャポンとの仕事も叶い、銀座店のショーウィンドーのデザインを手がけることになった。

▲「rivet lamp」(Sサイズ)。素材は耐熱性や絶縁性に優れたバルカナイズドファイバーで、シェードとソケットの構造部が一枚の紙から構成されている。オンラインショップで販売。

▲「rivet lamp」(Lサイズ)。

▲「rivet lamp」(Lサイズ)。

30年間、売れ続けるものを目指して

今や国内外で広く活躍している藤城だが、今後もインテリアアクセサリーやバッグなどのファッションアイテム、そして、椅子のデザインにももっと取り組んでいきたいと意欲を語る。

そんな藤城がいつもデザインをするうえで大事にしているのは、「調和」だ。「現代のこの物があふれた空間のなかに、またさらに何かを入れるというときに、調和は重要な要素だと感じています」と話す。調和するデザイン、そして、永く親しまれるデザインを目指す。

▲2020年にクヴァドラ主宰のクリエイターとのデザインプロジェクト「Knit! by Kvadrat」で制作した作品「Bumpy Basket」。クヴァドラの生地に「knot」で使用したロープを編み込んでいる。

「90年代、2000年代と、いろいろな時代を経ても、それでもなお残っていくものは、やはりいいものだと思うんですね。以前は、50年間売れ続けるものをつくるのが目標と言っていたのですが、実際は10年でも難しいと感じていたので、自分が死ぬ頃までにと考えて今は30年間が目標になりました。奇抜なものでも、少しずつ売れ続けていくものもありますし、シンプルなものがいいというわけではない。どういうものが永く残るのか、わからないから本当に難しいですね」。

▲インスタグラムのバスケット(カゴ)のデザインプロジェクト「BASKETCLUB」にアップした藤城の作品。各国から20名ほどのクリエイターが参加し、世界中のメーカーから反響があるという。

つくり続けて発信すること

2021年春、長野県御代田町に移住した。長年、活動の拠点にしていたIID 世田谷ものづくり学校が閉館すること、コロナ禍以降、どこでも仕事ができると感じたことや子どものことを考え、東京以外の場所でもいいと考えた。御代田町という場所に決めた理由は、友人の別荘があって以前から何度か遊びに行っていい場所だと思っていたことと、近年、友人のクリエイターたちが移住したことも後押しになった。

最近では、2009年にデザインした「rivet lamp(リベットランプ)」のLサイズを制作して自身のオンラインショップで販売を開始し、2018年に竹尾の「takeo paper show 2018」で発表したペーパーモールドは、その後もトライアルを続けているほか、インスタグラムのデザインプロジェクト「BASKETCLUB」などにも参加。人の縁を大事にしながら、常にアイデアをめぐらせ、手を動かし、つくり続けて発信する。その情熱が作品からも伝わり人々を魅了し、世界に受け入れられる理由なのかもしれない。

近作は、岐阜県美濃地方の土の可能性を広く発信するMINO SOIL(ミノソイル)に参加した作品で、4月19日から東京・表参道で展覧会が開催される予定だ。詳細は下記にて。End


藤城成貴(ふじしろ・しげき)/プロダクトデザイナー。1974年東京生まれ。和光大学経済学部卒業後、桑沢デザイン研究所夜間部を卒業。1998年よりIDÉEに入社し、定番商品および特注家具のデザインを担当。2005年に退社後、shigeki fujishiro designを設立。インテリアプロダクト、家具、展示インスタレーションなど幅広く活動する。HAY、エルメスやアディダスとのコラボレーションなども行い、国際的な注目を集めている。アイデアや機能を伝えるためのシンプルでスマート、普遍性を持ったデザインを手がけている。

MINO SOIL Exhibition vol.02「Transfigurations of Clay (Becoming Form)」

会期
2022年4月19日(火)〜29日(金)(closed 24日)※予約不要
会場
Karimoku Commons Gallery
内容
2021年6月に開催されたスタジオ・ムンバイとの展示に続く第2弾。藤城をはじめとする国内外7組のデザイナーが、美濃の陶磁器産業を支えてきた土や、 古くから使われている技術から発想を得て生み出したものを展示する。
詳細
https://minosoil.jp/ja/