【対談】アート・デザインの持つ力を伝える、
武蔵野美術大学のイメージビジュアル広告
ーー田部井美奈 × 加藤賢策

▲武蔵野美術大学のイメージビジュアルを手がけた田部井美奈(左)と加藤賢策。

デザイン誌「AXIS」では、2013年から武蔵野美術大学のイメージビジュアル広告が表3と呼ばれるページ(裏表紙のウラ面)に掲載されている。これまで多彩なデザイナーが独自の視点と発想を駆使して、大学のメッセージを伝えてきた。今回、vol.193からvol.216のイメージビジュアル広告を手がけた田部井美奈と、4月30日に発売されたvol.217から新たに担当する加藤賢策に、それぞれの作品のコンセプトやそこに込めた想いを聞いた。

第一線で活躍するデザイナーが手がける

2013年から「AXIS」での掲載がスタートした、武蔵野美術大学のイメージビジュアル広告は、美大を目指す若い世代に向けたもの。アート・デザインへの興味が喚起され、前向きな希望を持ってもらえたらという想いのもと制作されている。

▲13年度から現在まで「AXIS」に掲載された、武蔵野美術大学のイメージビジュアルの一部。
上段左の3つは大黒大悟により制作された13〜15年度のイメージビジュアル。
上段右のふたつは長嶋りかこが手がけた16〜17年度のイメージビジュアル。

コンセプトは、「アート・デザインの持つ力」を、言葉を用いずにビジュアルのみで伝えること。第一線で活躍するデザイナーと大学が共にテーマや方向性を話し合いながら、年度ごとに数点制作し、「AXIS」をはじめ、校内や駅など大学の周辺施設に掲示するほか、大学案内といった広報活動にも活用している。

さらなる可能性を感じさせる、田部井の作品

田部井美奈は、武蔵野美術大学短期大学の生活デザイン科を1999年に卒業した。服部一成の事務所を経て、2014年に独立。現在はアートディレクター・グラフィックデザイナーとして広告や書籍、雑誌、CI、パッケージなど、幅広く活躍している。

これまで手がけた18〜21年度(「AXIS」vol.193〜216に掲載)のイメージビジュアルは、アート・デザインにはまだまだ可能性があると感じられる、未来に希望を与える作品となった。

▲田部井が手がけた18年度(左)と19年度のイメージビジュアル。

田部井は、4種類のイメージビジュアルを制作。18年度は「越える」、19年度は「目」というテーマのもと、いずれも鮮やかな色彩とシンプルな形で明るさとインパクトを与えるデザインを考えた。

「『越える』のときには、自分の今いる世界を越える、自分が見て知っている環境を越える、壁を越えるなど、多様な捉え方ができるように、棒を使って、その空間から外の世界へ飛び越えていくイメージの構図を考えました。『目』をテーマにした翌年は、自分がこの大学に入ったばかりの頃を思い出して制作しました。絵が上手な人、デザインのセンスがいい人がたくさんいて、私自身、ショックを受けたんですね。でも、そこから逃げずに現実を直視し、受け止めて、いろいろなことを吸収する力を鍛えることが大事だと思い立ち、それを象徴するものとして目をモチーフにしたアイデアが浮かび上がりました」と、田部井は語る。

▲20年度(左)と21年度の田部井のイメージビジュアル。

▲21年度の制作風景  動画:https://www.youtube.com/watch?v=R9eIHeuZPEY/

20年度と21年度のイメージビジュアルでは、田部井が18年に開催した個展「光と図形」で立体造形を撮影して、普段、コンピュータ上で操作するのと異なり、自分では制御できない光や影に向き合い、グラフィックデザインの新たな可能性を模索した実験的な作品を発展させた。

20年度のときには、光や影に加えて、揺らぎのある氷や炎、風をデザインに取り込む試みを行った。21年度のビジュアルを考えているときには、新型コロナウイルスのパンデミックによって多くの人が不安を抱き、視野が狭まる傾向にあった。そこで部屋をイメージして、ふと見上げれば外の世界が感じられ、その先に明るい未来が見えてくる空間を創出した。「今自分がいる場所で、ほんの少し視点を変えて見ることの大切さ」を伝えたいと考えたという。

大学で学んだことをテーマにした、加藤の作品

22年度(「AXIS」vol.217掲載)からイメージビジュアルを担当する加藤賢策は、ラボラトリーズの代表であり、アートディレクター・デザイナーとしてグラフィック、書籍、ウェブサイト、サインなどを手がける。近作は、青森・八戸市美術館のシンボルマークとロゴデザイン、2年前から「AXIS」のエディトリアルデザインの一部にも携わっている。

そんな加藤は、人生の半分以上の時間を武蔵野美術大学で過ごしてきた。2000年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、同大学の大学院に進み、研究室の助手を経て、現在は非常勤講師を務める。10年ほど前から、大学の広報媒体「mauleaf(マウリーフ)」「MAUREKA(マウリカ)」 – 武蔵野美術大学の学生・卒業生・教員の作品紹介サイトのデザインも担っている。

「AXIS」vol.217に掲載されている、加藤が手がけた22年度のイメージビジュアル。右中央は人間の脳を模していて、その形は「Musashino Art University」という文字で構成されている。

イメージビジュアルの制作にあたり、加藤は自身の学生時代を振り返ったという。「武蔵野美術大学に入ってよかったなと思うのは、感覚を使って世界を見ることを学んだことです。感覚というと、目や耳、五感、肌感覚と多様にありますが、もう少し広い意味での、さまざまなことに気づいて受け取る力です。例えば、この大学にはアートとデザインのふたつの領域の学科があって、いずれも近年は手を動かすものづくりだけではなく、もう少し幅広く考えることが求められています。そういうときに感覚をどう使うかがとても大事です。逆さまにしたり、ひねったり、ぐるぐる回したり。いろいろ工夫しながら感覚を使えるようになれば、さまざまな世界を楽しめると思います」。

今回のイメージビジュアルでは、その「感覚」をわかりやすくイメージさせるものとして、人間の感覚器官である目や鼻、耳、口などをモチーフに、それらが活発に動くモーショングラフィックスを考えた。

クリエイションの可能性はさらに広がっていく

加藤の動きのあるイメージビジュアルに対して、田部井はこう話す。「平面の静止画のグラフィックに、私がうつろいゆく光や影を取り入れ、加藤さんが動く表現にしたというのも、時代の変化のひとつの現れかなと思います。時代とともに共にメディアや表現が変わっていくなかで、クリエイションの可能性はさらに広がっていくと感じています。ジャンルの壁がなくなりつつあって職域も広がり、グラフィックデザイナーのできることもますます増えてきています。若い世代の方たちも、そういう目まぐるしく変わる時代のなかで、変化を怖がらず、受け入れて、楽しんでほしい。私自身も、常に意欲的でありたいと思っています」。

おもしろいと思うところに行く、おもしろいと思ったことをやる

若い世代に対して、加藤も思いを語る。「そこに到達するために、段階を踏まないといけないと思うことは、意味がないと思っているんです。例えば、最終的にデザイナーとしてフリーでやっていきたいと思っている場合、まずどこかの事務所に入って、自分がこのくらいまでできるようなったら独立しようと考えても、その「このくらい」は、自分が決めることなので判断が難しく、永遠に終わりがこないような気がします。だったら、そういったステップを踏まずに、自分で始めてしまったほうが近道だったりすることもある。すでに何かを成し遂げているように見える人たちも、ただ、おもしろがってやっているうちに今に至っていて、段階を踏むことなど考えていないと思うんですね。つまり、おもしろいと思うところに行く、おもしろいと思ったことをやる。それが、自分がやりたいことに到達するいちばんの近道だと思います」。

武蔵野美術大学のイメージビジュアルは、これからアート・デザインを学ぶ若い世代だけでなく、現在、アート・デザインに携わっている人も、そこからさまざまなメッセージを感受できるだろう。新しくスタートした加藤のイメージビジュアルは、今後、顔のデザインを多彩に変えて展開していく予定だ。興味をもった人は、ぜひ「AXIS」の表3(裏表紙のウラ面)を開いてみてほしい。

▶︎デザイン誌「AXIS」
https://www.axisinc.co.jp/service/society/

▶︎武蔵野美術大学のイメージビジュアルアーカイブ
https://www.musabi.ac.jp/outline/pr/publication/archive/

【プロフィール】
田部井 美奈(たべい・みな)/アートディレクター、グラフィックデザイナー。1977年埼玉県生まれ。E&Y、LOMO販売代理店、服部一成の事務所を経て、2014年に独立。広告、CI、パッケージ、書籍、雑誌などの仕事を中心に活躍。09年よりユニットKvinaの活動も行っている。19年に「光と図形」告知ポスター・展示ポスター・作品集がADC賞受賞。東京造形大学特任教員、女子美術大学非常勤講師。
https://minatabei.com

加藤賢策(かとう・けんさく)/アートディレクター、グラフィックデザイナー。株式会社ラボラトリーズ代表。1975年埼玉県生まれ。02年武蔵野美術大学大学院視覚伝達デザインコース修了。アート、建築、ファッション、音楽、人文など多岐にわたる分野のグラフィック、エディトリアル、サイン計画、VI計画、ウェブサイトのデザインなどを手がける。武蔵野美術大学非常勤講師。
https://www.labor-atories.com

写真/辻井 祥太郎