誕生から20余年
受け継がれるバオ バオ イッセイ ミヤケの美と構造

均一に配置された三角形のピース群が織りなす変幻自在の表情。それらを可能にするシンプルかつアイコニックな構造が、「バオ バオ イッセイ ミヤケ」のバッグにはある。誕生から現在にいたるまで一貫したデザイン、柔と剛が同居する美しさとは?




造形を構成するシステムをデザインする

バオ バオ イッセイ ミヤケ(以下、バオ バオ)が初めて人々の目に触れたのは2000年。プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケのなかで、ブランドの原型となるシリーズが登場したときだった。その後、他シリーズの準備期間を経て、10年の秋冬コレクションより、イッセイ ミヤケが展開するブランドのひとつとして歩みを始める。

建築における脱構築主義にインスピレーションを受けたデザインチームが考案したのは、バッグの最終形としての造形ではなく、形を構成するシステムのほうにあった。

▲バオ バオが提案するバッグの造形の核となるピース群。PVC素材とメッシュ生地を圧着する技術もデザインチームとメーカーが共同で開発したもの。左から38mm四方のユニットによって構成される「プリズム」と、56mm四方のユニットによって構成される「ルーセント」。

直角二等辺三角形のピース4枚で構成するユニットを単位として、それらをつなげていくことで、さまざまな形状やスタイルのバッグアイテムへの展開を可能にする。つくり手がデザインしたシンプルで平らなバッグは、使い手がものを入れて持ち運ぶことで立体的で幾何学的な形へ。「使い手がデザインに参加する」というコンセプトをユニット構造が実現し、偶然が生み出す形を楽しむことができる。

▲左から、カルトン マット クロスボディバッグ(チャコールグレー)、ルーセント トート(シルバー)、プリズム マット トート(ライトグレー)。

構造と併せて重要な要素となる素材に関してもさまざまな検討がなされるなかで、デザインチームは現在もルーセントが採用しているPVC素材をメッシュ生地に圧着する独自の製法にたどり着いた。発色が良く、堅牢度が良いPVCは、ソリッドカラーやメタリック、革シボ調、生地目調などのさまざまなテクスチャーの表現が可能だ。




「45度」の美を叶える製法

基布にメッシュ生地を採用したことにも理由がある。まず、さまざまに形状を変えるバオ バオにおいて、その姿が最も美しく映る瞬間を「ピースが水平垂直45度に傾くとき」であると捉えたデザインチーム。その偶発的な「45度」を生むために、ピースは直角二等辺三角形なのだ。

そして、45度に傾く三角ピースをより美しく表現するためには、できるだけピース間の目地の存在感を無くす必要がある。柔らかく透け感のあるメッシュ生地は、三角ピースがさまざまな角度に傾くことを促し、より幅広いバッグの造形を可能にする素材だった。

▲バッグの基布となるメッシュ生地。バッグとしての強度を保ちつつ軽やかさも実現するための試行錯誤――糸の選定や撚り方・編み方、染めの検討などに当時のデザインチームは特に苦労をしたという。写真はプリズム マット トート(ライトグレー)。

▲プリズム ラージトート(ホワイト)

イッセイ ミヤケの根幹にある「一枚の布」というコンセプト。バオ バオもまた、その思想を体現したブランド、プロダクトである。平面と立体が混ざりあうなかで偶然に生まれる美は、周囲の環境との調和を反映した相対的な存在。それを日本的な美意識に根付いたものであると捉えるデザインチームは、脈々と受け継がれるデザインコンセプトのもと、独自の開発アプローチを重ねながら新たな可能性を模索し続ける。

▲形状や素材のみならず、光が生む陰影もまたバオ バオが持つ無限の表情を引き出す存在。

写真/五十嵐絢也