コロナ後の新たなライフスタイルを示す
メゾン・エ・オブジェ 2022年9月展 現地レポート

Maison&Objet Paris

毎年2回パリで開催されている世界最高峰のデザインとライフスタイルの国際展示会「メゾン・エ・オブジェ(Maison&Objet)」が9月8日~12日までパリ郊外のパリ・ノール・ヴィルパント見本市会場で開催された。

コロナウイルスが収束を迎えつつある秋晴れのパリの空の下、世界各国66カ所2,200を超えるブランドが展示を行い、約60,000人の来場者を数える新たなライフスタイルの方向性を示す大きなイベントとなった。

9月展のインスピレーションテーマ「メタ・センシブル」

Meta sensible

▲Oltre NFT, Saba ©Hugo Fournier

メゾン・エ・オブジェでは毎回、国際的なコンサルティング会社のネリーロディ社がインスピレーションテーマを提案している。今回はコロナ後の加速するデジタル世界と現実の世界を融合させることにより、さらに強固な世界をつくり上げるという意味合いの「メタ・センシブル(Meta sensible)」がテーマとなった。

メタバースの注目に伴ってファンタジーの世界からインスピレーションを得たブランドは、鮮やかな色合いや曲線美にデジタル世界と現実世界の調和を見出し、この流れが新たなトレンドになろうとしている。

トレンドセッターによる3つのライフスタイル提案

WHAT'S NEW?

インスピレーションテーマのキーワードのひとつ「ピクセルとバブルガム」に沿って展開された特設スペース「ホワッツ・ニュー(WHAT’S NEW?)」では、3人のトレンドセッターによるこれからのライフスタイルトレンドが紹介された。

UTOPIA NOW

▲「UTOPIA NOW」

ひとつ目は、François Delclauxのプロデュースによる「ユートピア・ナウ(UTOPIA NOW)」。ピンクやレインボーといった弾けるポップな色使いが日常生活のエッジを和らげ、デジタルが入り込んだ住まいの空間を心地よくふっくらとしたものへと誘う。

COLOR POWER

▲「COLOR POWER」

ふたつ目はElizabeth Lericheのプロデュースによる「カラー・パワー(COLOR POWER)」。まさに今回のテーマにぴったりな豊かな色使いは人の感覚や感情を刺激し、生活にエネルギーをもたらすという提案。

COLOR POWER

花瓶や皿、グラス、ランプといった身近にあるものを取り上げ、その色使いや丸みを帯びたフォルムとの調和のなかで住空間が守られているように感じることができるという。

KALEIDO-SCOPE

▲「KALEIDO-SCOPE」

3つ目はFrançois Bernardのプロデュースによる「カレイドスコープ(KALEIDO-SCOPE)」。こちらでは160ユーロ(日本円で約23,000円)以下の展示物を同系色で並べることで、互いのオブジェが共鳴し、より魅力的に見える効果を生み出していた。

注目のデザイナーは、イタリアの女性建築家

Cristina Celestino

▲デザイナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたCristina Celestino

メゾン・エ・オブジェでは国際的なデザインと装飾シーンで優れた才能を称える、デザイナー・オブ・ザ・イヤーを選出している。今回はイタリアのデザイン界で傑出した才能を持つCristina Celestinoが選ばれ、展示会場内には彼女が考案したプロジェクト「エキゾチック・パレス(Palais Exotique)」が展開された。

Palais Exotique

▲エキゾチック・パレスは期間中、実際にレストランとしても利用することができた。

Palais Exotique

▲中央にはラウンジエリアがあり、空間を仕切るようにカウンターが設置されている。

ヴェネツィア建築大学(IUAV)にて建築を専攻していたという彼女だが、今回のプロジェクトのテーマはフランスのティールーム。ファッションブランドともコラボレーションをしている彼女は、その繊細な色使いでエキゾチックな美しさを表現していた。

Palais Exotique

ラウンジエリアの左右に設けられた別室では、過去と現在をつなぎ、一時的にでも別の現実に没頭することにより「観察」「会話」「共有」といった感覚の再解釈を促す、プライベートな空間が演出されていた。

オランダの若き才能の発掘

RISING TALENT AWARDS

展示会場内の特設ブースでは、特定の国の若手デザイナーが選出される「ライジング・タレント・アワード(RISING TALENT AWARDS)」の展示が行われ、今回はオランダの若きデザイナーたちの作品が並んだ。そのいくつかを紹介したい。

ATELIER FIG

▲Gijs Wouters(左)とRuben Hoogvliet(右)によるデザインデュオ、ATELIER FIG

最初に紹介するのはATELIER FIG。彼らの作品は、型を使わずに陶器をつくる磁器製のボウルやキャンドルホルダー。フォーム材(スポンジ)を液体粘土に浸し、乾かしてから焼成するという革新的な技法を用いた作品づくりで知られる。

▲フォーム材(スポンジ)の加工工程。

▲仕上げにスプレー塗装を用いることで、さまざまな形や色に応用できるキャンドルホルダー。

Simone Post

▲Simone Post

続いてSimone Postの展示。代表作である円形のカーペットは、オランダの生地メーカーVliscoとの共同製作によるもの。生地の廃材部分を素材として利用したアップサイクルの作品となっている。

Hanna Kooistra

▲Hanna Kooistra

Hanna Kooistraの作品はコーティングされたアバチ材のコーヒーポット。アムステルダム国立美術館にある銀製の模型に着想を得たという。

展示会場に見るクリエイティビティ

展示会場はメゾン(ホーム・インテリア関連)とオブジェ(物)に大きく分類され、7つのホールではギフト、ファッション、キッチン、ホームアクセサリー、クラフト、トレンド、シグニチャーブランドなどのカテゴリーに分かれて展示が行われた。印象的だったものをいくつか紹介したい。

COOK&SHARE(OBJETゾーン)

Waww la table

フランスのキッチンウェアメーカーWaww La Tableが行ったテーブルセッティングコンテストは、その展示方法がとてもユニークだった。

Waww la table

▲注目を集めたWaww La Tableによるテーブル展示

テーブルごとにハンドメイドのみの食器を取り扱ったもの、ヴィンテージ食器のみ、フランスのミシェランシェフによるものなどが展示され、インスタグラムによって投票が行われた。またアプリを通してテーブルを見ると食器が動き出すというインタラクティブな仕掛けも注目を集めていた。

CRAFT Métiers d’art (MAISONゾーン)

CRAFT Métiers d’art

メゾン・エ・オブジェはSAFI(フランス工芸家組合とRXフランスの系列会社)が主催していることもあり、クラフトカテゴリーの展示が充実しているのも特徴のひとつ。

Fanex France

▲フランスFanex France社が出展していた卵型のオルゴール。フランスらしい美しい装飾のなかにさまざまな動物がモチーフとして取り上げられている。

Pierrot Doremusの作品

▲フランスのガラス職人Pierrot Doremusの作品は繊細でシンプルでありながら技術の高さが伺えた。

Stefania Bandinuの作品

▲デザイン賞を多数受賞しているジュエリーデザイナーStefania Bandinuの作品。

SIGNATURE(MAISONゾーン)

Pierre Gonalonsの展示

▲注目を集めるPierre Gonalonsの展示。

インテリアのなかではやはり高級ブランドの展示に注目が集まった。パリを拠点に活動するPierre Gonalonsはデザイナー兼インテリアアーキテクト。23歳にしてデザインスタジオを立ち上げ、古くからある素材とポップカルチャーを融合させた作品は国際的な有名ブランドとのコラボレーションも多い。

Pierre Gonalonsの展示

▲ヴェネツィアにあるガラス工房とコラボレーションしたランプ。

レトロ調の布をあしらった椅子とヴィンテージ風デザインのランプが展示された温かみのある展示構成は、まさに今回のインスピレーションテーマにぴったりのように感じられた。

SIEGER

▲SIEGERの展示ブース

ドイツのテーブルウェアメーカーSIEGERもシグニチャーブランドカテゴリーで出展。デザイナーであるMichael Siegerは建築事務所を主宰するかたわら、80年代からプロダクトを製作している。このメーカーの特徴は100%ハンドメイドの軽くしっかりとしたつくりの食器。

SIEGER
SIEGER

▲SIEGERの食器はひとつの製作に4~6週間かかる。

今回の展示では「楽園」をイメージした組み換え可能な6種類のテーブルセッティングや、楽園に住む架空の動物をイメージしたタンブラーなどを展示。豊かな色合いとそのコントラストが食欲を誘い、楽しみに満ちたテーブルセットとなっていた。

PROJECTS(MAISONゾーン)

LIGHT TREND

PROJECTSエリア内では、照明デザイナーの石井リーサ明理と石井幹子による「ライト・トレンド(LIGHT TREND)」と題した、光をテーマとしたインスタレーションが行われ、日本からエアウィーブ、オカムラ、スタンレー電気などが参加。ワークスペース、ホスピタリティ、アート、リテールの4つに分けられた空間には、除菌効果のある照明、ソーラーパネルを用いたソーラーアテンダント、リサイクル資源を利用したベッド、3Dプリンターでつくられたテーブルなどが紹介された。

石井リーサ明理

▲照明デザイナーの石井リーサ明理。

インスタレーションではコロナ後のライフスタイルを見直す「フォンダメンタル(funda・mental)」 というコンセプトのもと、光の最新技術を用いて生活の質の向上に寄与するライティングの可能性が提案された。

FUTURE ON STAGE

FUTURE ON STAGE

さらに今回はデザイン、ライフスタイルの領域で未来を切り開く「フューチャー・オン・ステージ(FUTURE ON STAGE)」というプログラムも立ち上げられた。ここではアウトドアやペット関連といった、これまでメゾン・エ・オブジェでは扱ってこなかったフランス製の新商品を取り扱う企業に焦点を当てている。

pierreplumeの展示。

▲リサイクルされた生地を使用した、大理石のように見える新素材。

特に注目を集めたのが新素材を扱ったpierreplumeの展示。一見、ストーン調や大理石のように見える素材はリサイクルされた生地を使用したもの。壁紙に用いることができる軟らかく保温性に優れた素材として、新しい創造性が提示された。

メゾン・エ・オブジェは、インテリアに留まらずキッチンウェアや小物、ギフト関係に至るまで、新たな可能性に触れてクリエティビティを再発見する出会いの場である。また、実際にデザイナーと対面で話を聞けるというのも魅力のひとつと言えるだろう。

パリ・デザイン・ウィーク

PARIS DESIGN WEEK

メゾン・エ・オブジェの開催に合わせてパリ市内では、9月8日~17日の日程で「パリ・デザイン・ウィーク(PARIS DESIGN WEEK)」が開催された。オペラ・コンコルド・エトワール地区、マレ・パレロワイヤル・バスティーユ地区、左岸地区の3つのエリアとパリ・デザイン・ウィーク・ファクトリーでは、世界各国の家具メーカー、ショップ、ギャラリーを中心に、過去最多の400以上のイベントが行われた。

パリ・デザイン・ウィークは街中で行われるため一般客も来場しやすく、気軽にギャラリーを訪れることができる、まさにパリの芸術の秋を彩る大きなイベントとして知られている。

▲パリ・デザイン・ウィーク・ファクトリーのメイン会場のひとつEspace Commines。

パリ・デザイン・ウィーク・ファクトリーのメイン会場であるエスパス・コミンヌ(Espace Commines)ではデザインディレクターのEmily Marantによって選出された24人のデザイナーのプロダクトが展示された。展示内容はテーブルや椅子などオリジナル家具が多く、素材の創意工夫に挑んだ若きデザイナーたちの、トレンドを意識した色鮮やかな色調が特徴的だった。

▲Alice Pegnaのアート作品。

パリ出身のAlice Pegnaの作品は、スパゲッティを接着してつくったアクセサリー。人生と人体の儚さを表現しているという。こうしたアート作品の展示もパリ・デザイン・ウィークの注目の的だ。

▲パリ・デザイン・ウィーク・ファクトリーのメイン会場のひとつGalerie Joseph。

パリ・デザイン・ウィーク・ファクトリーのもうひとつのメイン会場、ギャラリー・ジョセフ(Galerie Joseph)では600平方メートルの敷地内に多国籍な若きデザイナーの作品が集った。

Adelie Ducasseの照明はカラフルなセラミックでできたパーツを入れ替えてパズルのように組み立てることができる。

左岸地区は普段は落ち着いた雰囲気の住宅街というイメージだが、このエリアには世界的な家具メーカーのショールームがひしめき合い、パリ・デザイン・ウィークの時期には多くの関係者が足を運ぶ。

新作発表の場となるショールームは展示内容もさることながら、その時のトレンドを知ることができる絶好の機会ともなる。


Cassina

▲Cassinaの展示会場

イタリアを代表する家具メーカー、Cassinaの展示会場には多くの来場者が訪れていた。

今回のメゾン・エ・オブジェとパリ・デザイン・ウィークでは、世界がコロナウイルス収束後へ向かうなか、来場者の増加や数シーズン出展を見合わせていたメーカーが戻ってくるなどポジティブな内容が印象に残った。混迷を抜け出す人々のクリエイティビティというエネルギーと今後のトレンドを示唆し、新たなライフスタイルの方向性を示す内容となった。End