2輪Eコミューターに見る3つの方向性。
KTM、ハスクバーナ、イコマをいち早く分析

依然として完全に終息したわけではない新型コロナウイルスだが、ひと頃に比べれば各国の規制も緩み、経済復興に大きく舵を切っている。リモートワークの普及やロックダウンなどの影響で停滞気味だったパーソナルモビリティ関連の製品開発も再始動しつつある。そこで今回は、来年にかけて市販が予定される国内外の2輪のEVコミューター3製品をピックアップして、その方向性の違いを考えてみた。その3製品とは、オーストリアのKTMの「Eスピード」(仮称)、スウェーデンを拠点とするハスクバーナ「ベクター」、そして日本のイコマによる「タタメルバイク」(写真)だ。

オフロードバイクで知られるKTMはレーシングスポーツのイメージ、農林機器や建設機械分野に強みを持つハスクバーナは質実剛健さ、新興企業のイコマは時代に即した柔軟な発想といった特徴があり、それが製品デザインにも反映されている。

まず、KTMのEスピードは、同社が10年近く温めてきたモデルで、掲載した写真も実は2013年のコンセプトモデルのものである。4.36kWh(キロワットアワー)のバッテリーと約11kW(キロワット)の水冷モーターを搭載し、時速85km強のトップスピードと60kmの航続距離が当時の仕様だったが、今ならば出力や最高速は維持しつつも航続距離を伸ばす方向で進化させてきそうだ。

このコンセプトデザインでは、2分割されたフロントカウルやブラックアウトされたレッグシールドとアンダーボディ、そしてウェッジシェイプを強調するアクセントラインによって、既存のスクーターとは一線を画したスポーティさを打ち出しているが、レーシングスピリットを重視する同社ゆえに、製品版でもこうしたディテールが踏襲され、ほぼ同じような外観を纏って登場してくるものと思われる。

一方でハスクバーナのベクターは、よりオーソドックスでクリーンかつ安定感のあるフォルムを採用し、上半分がブラックアウトされたフロントカウルも視覚的な重心の低さを印象付けている。しかし、単調になりすぎないように丸いLEDヘッドライトやメーターパネルがアクセントとして配され、レッグシールド側面のロゴマーク(スウェーデン王室御用達のマスケット銃製造業だったハスクバーナの出自から、銃口と照準がモチーフ)とシグネチャーカラーの蛍光色ストライプがブランドを強く主張する。

この写真もコンセプトモデルのものだが、世界的な半導体不足の影響で生産化が遅れ、ようやく市販の目処が立ってきたようだ。性能的には、3kWhのバッテリーと4kWのモーターで時速45kmのトップスピードと95kmの航続距離を実現しており、都市部における実用性能が重視されていることがわかる。

ヨーロッパでは、2025年までに2輪EVの市場が100億ドル規模に達するといわれ、2030年までに都市部でのEコミューターの市場シェアも20~30%に拡大すると見られている。そして、同じく2030年までに日本の原付から小型自動二輪に相当する50~125ccクラスの2輪車の50%が、低出力で近距離向けのEコミューターに置き換わると予測されており、Eスピードもベクターも、その新たな市場で存在感を示すための戦略上、重要な製品なのである。

ひとつ種明かしをすると、ハスクバーナは1986年にモーターサイクル部門を売却し、それが2013年にKTMの傘下に入った。したがって、Eスピードとベクターは同じグループ内のプロジェクトであり、ターゲット層の棲み分けによって市場を攻略しようとする意図が見えてくる。また、両製品ともにインドでの製造が予定されており、当然ながら、購買力をつけてきているインド市場も視野に入れたマーケティングが行われるだろう。

3つ目のイコマのタタメルバイクは、先の2つにはない折り畳み構造を最大の特徴とし、緊急時にはモバイル電源として利用できる点もアピールしている。例えば、通勤に利用した場合、駐輪スペースがなくともデスクの下に収納でき、自宅がマンションでも駐輪場を借りずに玄関などで保管・充電が可能だ。また側面パネルは脱着可能であり、ここをカスタマイズすることによって、走る広告として利用したり、何らかの機能性を付加することもできる。

約0.6kWhのバッテリーと600Wのモーターの組み合わせは、Eスピードやベクターと比べれば控えめだが、原付1種の規格に収まることを前提としており、最高時速は40km、航続距離は50kmが想定最大値として設定されている。

拡大する2輪EV市場を考えたとき、タタメルバイクも大きな可能性を持つ製品といえ、ぜひ国内だけでなく海外展開も含めたビジネスへと成長していって欲しいと思う。End