住宅から外構、木造ビルまで
建築家たちに聞く国産木材の活かし方

国内の木造建築を取り巻く環境が、法改正をはじめ少しずつ変わり始めている。これからの日本の森そして都市はどのようになるのだろう。森との共生から建築の世界を切り拓くADXの安齋好太郎と、木造の大型公共建築に積極的に取り組むyHa architectsの平瀬有人、平瀬祐子のビジョンを聞いた。




木は、唯一のサステナブルな建材

宮大工に代表される卓越した木工の技、7割を超える高い森林率といった豊かな資源があるにも関わらず、近代以降、日本にはなかなか新しい木造建築のかたちが示されてこなかった。しかし、2000年以降、建築基準法の改正も追い風となって、少しずつ木造建築の盛り上がりが戻りつつある。


▲上から、yHa architectsによる五ケ山クロス ベース(福岡県)と、ADXによるSANU Cabin 山中湖 1st(山梨県)。©︎Takeshi YAMAGISHI, SANU

「戦後は、急速な都市開発が必要だったこともあり、最大公約数的に大衆の利便を優先する設計、鉄骨とコンクリートによる建築が中心となる傾向にありました。でも近年は、身体に働きかける居心地の良さや快適さ、環境への配慮など、建築のあるべき姿を多様に考えていこうという動きが活気付いてきたことで、改めて木造建築が注目されていると思います。同時に、現代的な発想の木造建築はまだまだ発展途上。開発の余地がある分、可能性もたくさん秘めていると思います」(安齋好太郎)。

▲安齋好太郎(あんざい・こうたろう)/ADX代表取締役、ウッドクリエイター。1977年福島県二本松市にて、祖父の代から続く安斎建設工業の3代目として生まれる。自然と共生するサステナブルな建築を目指し、2006年にADXを創業。林業や森づくりといった材木の循環まで視野に含める建築設計を専門とし、木の新しい可能性を追求したダイナミックな建築を手がける。登山がライフワーク。adx.jp

新たな時代の到来を確実に感じていると話すADX代表の安齋好太郎に対し、yHa architectsの平瀬有人も同調する。

「従来の法規では、防火や耐震などに関する制約も多く、木造で大規模な公共物をつくるにはハードルが高かったのですが、2019年の建築基準法改正では、3層以下(高さ16m以下)の木造建築への防耐火の要求が無くなりました。それにより低層であれば積極的に木を取り入れる動きが業界に生まれ、木造建築にまつわる技術開発はものすごいスピードで進んでいるように感じています」。

▲平瀬祐子(ひらせ・ゆうこ)・平瀬有人(ひらせ・ゆうじん)/ともに早稲田大学で建築を学び、スイスでの活動経験を持つ。2007年にyHa architectsを設立後、福岡・東京を拠点に設計活動を行う。主な作品に「天神・因幡町通り地下通路」「御嶽山ビジターセンター やまテラス王滝/さとテラス三岳」「五ケ山クロス ベース」「富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー」など。 yha.jp

大型の公共建築に積極的に木材を取り込もうとチャンレンジし続けるyHa architectsが注目するのは、経年変化を活かした木造建築のあり方だ。

「近代以降は、長期にわたり安定して使えるようにと、構造や素材はメンテンナンスフリーであることが優先されてきました。しかし近年では、素材や加工の特性を知ったうえで何度も修復、修繕を重ねながら、愛着を持って大切に使い続ける建築をつくるという考え方が主流になってきたように感じています」(平瀬祐子)。

工務店の三代目として生まれ、かつて祖父が手がけた建物が空き家や廃墟になっていく姿を目の当たりにしたことにショックを受けたという安齋。自身も森に入り、生きた素材と向き合いながら、より俯瞰した視点から木造建築と向き合わなければいけないと、クリエイターとしての態度を決めた。

▲ADXとSANU(サブスクリプション別荘サービスを運営)は岩手県・釜石で植林活動を行っている。©︎SANU

「鉄骨やコンクリートとは違い、木は自然環境と唯一循環できるサステナブルな素材です。建築をつくるだけでなく、いかにメンテナンスをしながら未来に残していけるか。最終的に役割を終えたときにどのように処理(解体)をするか。こうした確実なビジョンをもって設計を考える姿勢も必要でしょう」(安齋)。




森と建築の間にある距離

木造建築に追い風が吹く一方で、林業の現状はどうだろう。高度経済成長期の木材需拡に対応するために一気に植林を進めた「拡大造林政策の実施」の裏で、1964年の「木材輸入の自由化」、そして73年の「変動相場制の導入」が影響し、輸入材が格安で市場に出回った。

国産材に買い手がつかず、林業、製材業の活力が低下した時期を経つつも、2002年以降には国内の木材利用が上向きになり、自給率も年々増加。かつての政策によって植えられた木々も樹齢70年近くになり、活用のときを待っている。

「木材が建材となり、建築として触れられるようになるまで、どのようなプロセスを経て、そこにはどんな人々が関わっているのか。全体の関係性を俯瞰してみることも大切。食の世界で語られる『Farm to Table』のように、『Forest to Building』といった、つくり手と使い手が一丸となって適正な循環の仕組みを考える文化を育てていきたいです」(安齋)。

▲オンライン上で初対面となったyHa architects平瀬祐子・平瀬有人とADX安齋好太郎。ADXがグランドデザイン、施工を手がけたリノベーションビル・SOIL Nihonbashiにて。

「樹種や生産地の違いはもちろん、一本ごとに個性があるのが木材。使うたびに新しい発見があり、常に学ぶ姿勢が求められるなか、森林組合などの木材生産・加工事業者との協力は欠かせません。設計段階から相談を重ね、ビジョンを共有しておくと、とても大きな助けになります。公共建築のプロジェクトでは、建材の出荷証明を行政に提出することが義務付けられていることもあり、産地(山)から製材までの流れをしっかり把握している木材生産・加工事業者と設計者との関係性構築は、とても大事なプロセスになっています」(平瀬祐子)。

▲福岡県広域森林組合(福岡南支店)と原木市場・製材加工センターを視察するyHa architects。

▲yHa architectsの最新作「御嶽山ビジターセンター やまテラス王滝」においても、屋根架構には地元産のヒノキやカラマツがふんだんに使われている。©︎Takeshi YAMAGISHI




木造建築を展開する現代的思考

木造建築を取り巻く環境づくりへの意識を忘れないADXとyHa architects。実際の建築プロジェクトで両社はどのような動きを見せているのだろう。 ADX安齋は、2021年から関わるサブスクリプション方式の別荘サービス「SANU 2nd Home」を挙げる。

「自然のなかに『おじゃまして過ごす』という感覚を大切しているので、ありのままの環境をできる限り守ったうえで成り立つデザインにしたい。その想いから、完成後のメンテンスと最終的に解体することまでを意識した設計をSANU CABINで実現しました。環境再生型プログラム『FORESTS FOR FUTURE』の名のもと、生態系への負荷が少ない基礎工法や自然由来の電気エネルギーを採用しています。

▲SANU CABIN外観。©︎SANU

建材には岩手県釜石産のスギ材を使用しています。収益の一部を釡石地方の森林に植林する活動にあてるなど、森林組合と連携して進めることで、建物をつくるほどに循環の思想を重ね、蓄えていけるような仕組みを考えました。国内各地にすでに50棟ほど建てていますが、基本的なデザインは同じとしつつも、ディティールのブラッシュアップを繰り返しています」。

▲森との循環を体現するSANU CABINのデザイン。無垢材が持つ節や色を活かし、最小限のパーツで実現する曲面壁やハニカム構造などを備える。©︎SANU

yHa architectsは、福岡県最大のダムの湖畔に2019年に完成した観光拠点施設「五ケ山クロス ベース」を紹介。

「1階部分にアウドドアショップとカフェが入る建築の上に、目前に広がる脊振山系の山なみ、広大なダムの水面と呼応するように緩やかな弧を描くウッドデッキのルーフテラスを設けました。その側面に地元・福岡県那珂川産のヒノキでルーバーを設置。ヒノキは220度の水蒸気式高温熱処理により、耐久性と安定性を高めたサーモウッドを使用しています」(平瀬有人)。


▲ランドスケープと連続するようにデザインされた五ケ山クロス ベース。訪れる人々にとって身近な空間となるために、天然木(地元・那珂川産ヒノキ)が果たす役割は大きい。©︎Seinosuke Kaneda, Yousuke Harigane

多角的な模索のなかで、両社は今後の木造建築の展望をどのように見据えているのだろう。

「SRCと木造のハイブリッドビル『KITOKI』(東京・兜町)のプロジェクトでは、SRCメガストラクチャーのなかに耐火木造を内包させることで、メンテナンスのしやすさと、コストダウンを狙いました。住宅領域では木造建築のインフラが十分に整っていますが、大型施設で木造を実現する仕組みはまだまだ発展途上です。職人たちとの連携、施工後の維持・管理などを含めたプラットフォームをきちんと整備し、『木造のコモディティ化』を目指すべきだと考えています」(安齋)。


▲10階建てのオフィス兼ビルの「KITOKI」。SRCメガストラクチャーを主構造としつつ、副構造として2層分の木造部を内包することで、脱着や改築などデザインの可変性も実現している。低層界の梁には秋田県産の栗の木を使用。

「安齋さんがおっしゃるように、住宅と同じ思想で木造ビルのデザインを考えられるのは理想的ですね。近年では大手建設会社も積極的に木造ビルに取り組んでいますが、僕らとは少し感覚が違って、どこか遠い存在に感じてしまうのも事実です。

2014年に私たちが設計した『富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー』(佐賀)は、築100年以上の登録有形文化財の旧精米所のなかに鉄板のフレームを挿入しながら補強していく改修プロジェクトでした。古き良き木造のかたちをそのまま踏襲するのではなく、いかに対話を重ねながら新しい未来をつくり出せるか。木造建築の伝統文化が残る日本だからこそ、さまざまな手法、可能性が考えらます」(平瀬有人)。


▲『富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー』。登録有形文化財ゆえに外観や形状の大きな変更ができないなか、元々の土壁を残しつつ、焼杉を使った外壁の修景や黒皮鉄板による構造補強など、時間の堆積を引き継ぐデザインを実現した。©︎Techni Staff

ともに登山が趣味という平瀬有人と安齋好太郎。山と建築を掛け合わせ、将来的には山小屋をつくるのが夢だと語る安齋。平瀬たちも大きく頷きながら、次は一緒に山に登って、森と建築の話をしましょうと意気投合した。(文/猪飼尚司、写真/辻井祥太郎)


この記事は林野庁補助事業による(一社)全国木材組合連合会・全国木材協同組合連合会とAXISの企画広告です。

外構部の木質化の活用事例を紹介するWEBマガジン「Love Kinohei」
love.kinohei.jp