トンボ鉛筆 ZOOM
「コンテンポラリーデザインペン」の先進性を伝えるフォント

Photo by Toshiyuki Udagawa

1986年に、普遍的なペンのかたちに挑戦して数々のヒットを生んだトンボ鉛筆のブランド「ZOOM」。2023年2月に、新たな世界観とコンセプトを打ち立ててリブランディング。「日本発のコンテンポラリーデザインペン」3種が発売されました。それに伴い、ポスターやカタログ、パッケージのフォントも刷新。採用されたのがAXISフォントです。37年続く商品をリブランディングした背景やAXISフォントを選んだ理由について、株式会社トンボ鉛筆のプロダクトデザイナー國府田(こうだ)和樹さんと、グラフィックデザイナーの金井知広さんに伺いました。

37年の歴史を持つZOOMのリブランディング

株式会社トンボ鉛筆マーケティング本部課長でZOOMのプロダクトデザインを担当した國府田和樹さん(左)と、グラフィックデザインを担当した金井知広さん。2人は、同じ学校の卒業生でもともと友人同士。Photo by Toshiyuki Udagawa

――おふたりのトンボ鉛筆における役割を教えてください。

國府田[株式会社トンボ鉛筆 マーケティング本部課長(クリエイティブデザイングループ担当)デザイナー] 2人とも株式会社トンボ鉛筆のマーケティング本部のクリエイティブデザイングループに所属しているインハウスデザイナーで、僕がプロダクトを、金井がグラフィックを担当しています。

――リブランドしたきっかけは何だったのでしょうか。

國府田 プロジェクトとして発足したのは4年くらい前ですが、私と金井が取り組みはじめたのはその1年くらい前からです。当時、ZOOMはあまり元気がなくて、このままではなくなってしまうのではという危機感が個人的にありました。好きなZOOMを何とかしたい、そのためにはデザイナーの立場から新しいZOOMを提案しなくてはと思い、やるならグラフィックと共に世界観をつくっていきたいというわけで金井に声をかけたんです。

店頭に文具を見に行ったり、ふたりだけが見られるPinterestにイメージ画像を共有するなどして新しいZOOM像をつくり、会社としてZOOMを継続するかどうかの分岐点に来た時に、われわれがやりたいとマーケティング部の本部長に提案しました。

金井(株式会社トンボ鉛筆 マーケティング本部 クリエイティブデザイングループ デザイナー) プロジェクト化する前に國府田と世界観の共有ができていたので、リブランドするにあたってのロゴやブランドカラー、フォントを選ぶ際には迷いがなかったですね。

ZOOM C1
「空白を、ノックする。」
ノック部分が浮いているように見える画期的なデザインの油性ボールペンとシャープペンシル。ボディの素材には文具では珍しくジュラルミンが使われている。「ジュラルミンは着色が非常にしづらい素材。そこにチャレンジし、色にはこだわりました」(國府田さん)。サンドシルバー、フルブラック、グラファイトブルーの3色。7,700円。

ZOOMの世界観に合い、和文タイプの豊富さが決め手となったフォント

――リブランディングにあたり、AXISフォントを選んだ理由は?

金井 新しいZOOMには「日本発のコンテンポラリーデザインペン」というコンセプトを掲げ、日本の美意識を反映した現代的かつ先進的なデザインという世界観が一致していることからAXISフォントを選びました。欧文だけであればいくつか候補があったのですが、AXISフォントは欧文だけでなく和文のフォントのファミリーや組み合わせなど、表現が幅広くあったので、ZOOMの世界観にも合うと思ったんです。

國府田 結果的にはAXISフォントほぼ一択でしたね。今回はマーケティング的に具体的にどういう人間がこのペンを使うかペルソナ(パーソナリティ)をつくり、プロモーションやパブリシティを意識するなど、かなり初期から意図的にブランディングをはかっています。トーン&マナーのひとつとしてもフォントははずせないということで、フォントも初期の段階で決めました。

――具体的にはどういうところでAXISフォントを使っているのですか?

金井 店頭のポスターなど、あらゆるアプリケーションやパッケージ、小さな文字の注意書きにも使用しています。そして一番多く使用しているのがカタログで、コピーをはじめほぼ全面的に使っています。今までのZOOMではビジュアルでの統一がされていなかったので、ブランドカラーやフォントまで一貫性を持った世界観を打ち出しているのが、今回のリブランディングの強みのひとつです。


Photos by Toshiyuki Udagawa

――どんなペルソナを想定したのでしょうか。

國府田 30代男女ふたりの人格を設定しています。家族構成や職業といったプロフィールはもちろん、趣味や利用アプリ、読んでいる雑誌、好きなファッションブランドや音楽、性格や仕事への姿勢まで細かく設定しています。われわれも同世代なので、パーソナリティを考える作業は楽しかったですね。

デジタル社会における、手書きペンのあり方とは?

――デジタルが主流になりつつある世の中で、手書きペンの位置づけとは?

國府田 ZOOMが最初に登場した1986年は、OA機器が一般のオフィスにも入ってきた頃です。今後、手書きはより創造的な方向に向かうだろうということで、ZOOMは「創造筆記」というコンセプトでスタイリングを重視して起ち上げられました。

その方向性は正しかったと今感じています。僕もそうですが、モノづくりをする人間の作業でいえば約9割はパソコンを使っている。だけど、いちばん最初の造形のコンセプトや方向性を打ち出すフェーズにおいては、やっぱりペンがいちばん使いやすい。頭の中にあるあいまいなものを具現化しながら、1本の線を決めていくタイミングは大事な時間になるので、そういうところに寄り添えたら作り手としてはうれしいですね。

ZOOM L1
「いくつもの深さを持つ、透明。」
照明やアングルによって透明にも不透明にもみえるボディが魅力のキャップ式水性ゲルインクボールペン。天冠は微かに波打ち、銀色の中軸には、高透明素材DURABIO™がオーバーレイされている。カラーはシルバー、フルブラック、グラファイトブルーのトラッド3色とトレンドカラー3色。インクは黒とブルーブラックがあり、C1との互換性もある。4,400円。

3月に六本木のギャラリー『21_21』で「With a Pen 1本のペン、1本の線。そして世界は創られる。By ZOOM」というイベントを開いたのですが、予想以上にペルソナで想定したようなデザインや建築に携わる人が来てくれました。

21_21 DESIGN SIGHTに展示された、ZOOM CIのイメージスケッチ

――文具について、どのような未来を思い描いていますか?

國府田 若い人を中心に、ブランドものではなくても、自分が好きなものだったら手に取ってくれるという傾向が強まっていて、デザイナーとしてはおもしろい方向にいっていると感じます。もともと文具は多数向けのデザインが大半で、嫌われないことが重要な要素でしたが、ターゲットが狭まることにより、デザインの善し悪しが売り上げに直結している気がします。

ペンや文具は、ひとりで丸ごとデザインを担当できるので、デザイナーの持っている個性や考え方を反映しやすいのもやりがいがあります。デジタル化が進むとともに筆記用具は間違いなく減っていきますが、完全にゼロになることはないでしょう。時代に合った文具のあり方は絶対にあるので、デジタルに抗うのではなく、時代によって変化していけばいいと思っています。

金井 グラフィックにおいても、デザインに対する需要が上がってきたと感じています。筆記具にはデジタルにはない温もりや、個別に“刺さる”ものが存在すると思うので、そういうところで選ばれるペンを発信していきたいですね。

ZOOM L2
「書かなくても触れたくなる。」
逆円錐型のノックとペン先のシャープな形態が美しい油性ボールペンとシャープペンシル。彩度や色相のわずかな違いから選べる「和」を意識した6色の展開で、特にシャープペンシルは、中学生や高校生などのより若い世代の人気を集めている。3,520円。「学生が買うには価格が高いと思っていたのですが、蓋を開けてみれば学生さんにも火が付いているようで、うれしい誤算です」(國府田さん)

――最後にAXISフォントについて抱いていらっしゃるイメージを教えてください。

金井 AXISの雑誌はずっと読んでいましたが、フォントについては今回のリブランディングをきっかけにいろいろと調べました。AXISフォントはなかでも、ひときわ洗練されたモダンなフォントだと思います。

「With a Pen 1本のペン、1本の線。そして世界は創られる。By ZOOM」の会場風景

國府田 実は『21_21』の展示では、僕らのセリフを書いたパネルの部分は温度感が欲しかったので明朝体を使い、それ以外の多くはAXISフォントを使用して対比させました。AXISフォントは良い意味で温度感が“ない”からメッセージがストレートに入っていきやすく、使いやすいですね。End

Photo by Toshiyuki Udagawa

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