「ボーコンセプトが日本の住空間にフィットする理由」
建築家・クリエイティブディレクター 神谷修平

CANNELLA

変則的な棚の幅が飾るものを引き立てる「CANNELLA 壁面収納」。複数台組み合わせて、空間を有効活用できる。オブジェ類(書籍除く)も含めて、すべてボーコンセプトのアイテム。Photo by Sayuki Inoue

建築家・クリエイティブディレクターの神谷修平は、建築設計だけでなく、プロダクトデザイン、クリエティブディレクション、インテリアに至るまで、領域を深めた空間づくりを展開。日本とデンマークで実績を積んだ経験から、手がける建築・デザインには、ふたつの国の文化と精神が根ざす。そんな神谷が住空間のプロジェクトでクライアントによく勧めるインテリアブランドのひとつが、デンマーク発のボーコンセプトのコレクションである。

その理由を神谷は、シンプルで洗練されたデザインと、形・素材・色の豊富なバリエーションを有し、カスタマイズが可能で、さらに個々のニーズやライフスタイルに合わせた空間を提案してくれる「インテリア デザイン サービス(IDS)」があることだという。同ブランドのコレクションが日本の住空間にフィットする理由について伺った。

ADELAIDEチェア

カミヤアーキテクツのオフィスにて。壁一面にクライアントに提案するための素材見本が並ぶ。神谷が座る椅子は、ボーコンセプトのレザー仕様の「ADELAIDEチェア」。アームレスト付きや、脚部の素材を変えたり、座面をファブリック仕様にすることもできる。Photo by Sayuki Inoue

デンマークでの体験が原点に

神谷は、2016年から2年ほどデンマークに滞在した経験を持つ。デンマークに渡ったきっかけは、近年、建築界に革新をもたらしているBIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)による集合住宅「8ハウス」を実際に体感したいと思ったことだった。箱型の建物をひねって8の字型にした奇抜な形だが、人が回遊して活気あふれる豊かな日常風景が広がっていて、デザイン組織としてのすごみとダイナミックな提案力を感じ、それらは日本の建築に必要な要素だと思った。

一方で、現地に暮らす友人たちの素朴な住まいのインテリアにも注目した。ロウソクの炎が灯された穏やかで静かな空間の中に、親子代々、大切に永く愛用している家具が置かれ、ソファの生地やクッション、ラグには温かみのある色や素材が使われていた。デンマークでは、冬が長く厳しく、日照時間が短いため、室内で快適に過ごす工夫が考えられ、そこから「ヒュッゲ」と呼ばれる、居心地のいい空間と時間を大切にする文化が生まれた。神谷はヒュッゲを構成する暮らしのなかのデザインを学び、帰国後、自身のプロジェクトに活かすようになった。

神谷が手がけた福岡の人形師のギャラリー「傀藝堂(かいげいどう)」。トップライトから自然光を取り込み、地元の川砂利を用いて制作した外壁は、見た目や手触りが五感を刺激する。

愛知県名古屋の和菓子店「ohagi3 FLAGSHIP SAKAE(おはぎさん フラッグシップ サカエ)」。おはぎの形をモチーフに構成したペンダントランプは、日本の伝統的な接手技術で製作した。

神谷は現在、建築設計だけでなく、プロダクトデザイン、クリエティブディレクション、インテリアまで領域を深めて活動している。建物の内部空間も含めてより豊かなものにしたいという思いがあり、そのために積極的に取り入れているのが、ヒュッゲの要素にある自然素材の扱い、クラフツマンシップ、光を大切にする考え方だ。

例えば、木や石のような自然素材や、現地の土や砂利を用いて開発したオリジナル素材を外壁や建材に採用するなど、素材と技術をかけ合わせて文化と伝統と革新が共存する空間を目指す。また、照明計画では、デンマークで体験した静かで安らげる空間を創出することを念頭に置く。蛍光灯やダウンライトは極力使用せず、自然光や暖炉の炎、間接照明の明かりを駆使し、自身でデザインした照明をアクセントに加えることもある。

SQUILLAチェア

北欧デザインらしい、オーガニックなフォルムと存在感のあるアイコニックなデザインの「SQUILLA チェア」。「いつも自宅で映画鑑賞や読書、坐禅を組むときに愛用しています。上質な素材感と身体を包み込む形状から、ワンランク上の体験が味わえ、生活と心に豊かさをもたらしてくれます」と神谷は言う。Photo by Sayuki Inoue

住空間にヒュッゲの精神を取り入れる

近年、住空間のプロジェクトでは、ノルディック(北欧的)デザインの良さを取り入れたインテリアを希望するクライアントが多いという。なかには、仕事で世界中を飛び回って多忙な日々を送り、宿泊先はラグジュアリーホテルのスイートという、インテリアに対する審美眼を持つ人もいる。彼らが住まいに求めるのは、穏やかさと安らぎ、温かさ、上質さ、自然との調和、そして、スタイリッシュなデザインであり、それらの要素がすべて内包されているのが北欧デザインだからである。

北欧のインテリアブランドのなかでも、神谷がデンマーク発のボーコンセプトのコレクションをクライアントに積極的に提案する理由をこう語る。「シンプルでミニマムな北欧モダニズムのデザインを受け継ぎながら、時代やスタイルの変化を柔軟に取り入れ、現代のライフスタイルに合うものを提供しているところに魅力を感じています」。

KUTAフロアランプ

シンプルでミニマムなデザインの「KUTA フロアランプ」は、空間に洗練された印象をもたらす。シェードは、シルバーのメタルやブラック・ワームグレーのファブリックもあり、色や素材、質感の違いによって表情が変わる。

神谷がボーコンセプトのコレクションのなかで、住まい手に最もよく提案するアイテムのひとつが「KUTA フロアランプ」だ。「強い光で一点を照らすのではなく、広く面で光を届けるのと、シェードが筒状になっているので、上からも天井に向かって柔らかい光が放たれるのがいい。部屋の照明をすべて消して、この光だけで過ごしてみることをお勧めします。デンマーク人たちがロウソクの炎だけで団らんするように、このフロアランプひとつだけでも、ヒュッゲの豊かな空間・時間を味わえると思います」。

日本の住空間と北欧の家具・インテリアは、親和性が高いことでも知られる。日本と北欧は、古くから互いにデザインの影響を受け合ってきた歴史があり、北欧のもののなかに日本らしさを、またその逆を見ることができ、それが親しみやすさや馴染みやすさにつながっている。

fabricサンプル

ボーコンセプトの各店舗には、張り地やラグの素材見本のコーナーもある。張り地には、自然からインスパイアされたようなノルディックな色彩のファブリックや、上質で手触りがいいレザーも揃う。Photo by Sayuki Inoue

個々のニーズに対応する選択肢の幅

神谷は、ボーコンセプトのコレクションの「多様性」にも注目している。「住まい手が住空間に求めるものは一人ひとり異なるので、多様なニーズに応える選択肢の幅があることは、提案する側の建築家やデザイナーにとっても、選ぶ側の住まい手にも魅力だと思います」。

ボーコンセプトでは、200種類以上のアイテムを揃える。形・素材・色のバリエーションの豊富さに加えて、例えばソファやチェアは、脚部の素材や色、質感、アームレストの有無、ダイニングテーブルのサイズや伸長式、ウォールシステムの構成など、数万通り以上の多彩な組み合わせが考えられる。神谷は言う。「多様な選択肢があることは、物件ごとに違ったデザインコンセプトを際立たせたいデザイナーや、部屋数の多い住空間を構想されているお客さまに特に効果的だと思います。僕の場合は、空間ごとにひとつ、主役となるアイテムを設定してそれを軸に色や素材を選び、空間の大きさに合わせてテーブルや棚をカスタマイズしていきます。それによって空間ごとに個性が際立ち、変化を生み出すことができます。例えば、レザー仕様の『ADELAIDE チェア』は、素材をファブリックにしてアームレストを付ければ食事用の椅子としてダイニングルームにも合う。体を優しく包み込むようなオーガニックなフォルムが空間に安心感を与えます。多様な選択肢が用意されているからこそ、そうした組み合わせに思いを巡らすことができるのは、住空間をデザインする醍醐味のひとつでしょう」。

店舗とウェブサイトでは、自らの理想とする空間をつくるための参考例として、コーディネートしたインテリアを紹介している。デザインスタイルは、重厚感のあるホテルライクな「メトロポリタン」と、やさしいフォルムと色彩の「スカンジナビアン」(写真)の2タイプがある。

metropolitan_style

ボーコンセプトの店舗とウェブサイトでは、コーディネートされた多彩なインテリアを紹介している。写真のデザインスタイルは、「メトロポリタン」。全体的に深みのある色彩を取り入れ、シックでエレガントなインテリアを提案。

scandinavian_style

写真のデザインスタイルは、「スカンジナビアン」。時代のトレンドやスタイルを取り入れながら、淡い色合いや柔らかい曲線のアイテムで構成している。

人同士の対話によって空間をつくる

神谷が住空間のプロジェクトでボーコンセプトのコレクションを中心としたインテリアデザインを提案するときは、同社の「インテリア デザイン サービス(IDS)」を積極的に活用する。

IDSは、単に家具を構成してスタイリングするのではなく、個々のニーズやライフスタイルに合わせたインテリアを提案してくれるサービスである。部屋の形状や広さ、窓の位置、光の入り方といったハードの部分から、空間の活用の仕方や過ごし方のようなソフトの部分まで、同社の経験豊富なインテリアスタイリストが潜在ニーズをすくい上げ、図面をもとに3Dでインテリアプランのシミュレーションを行ってくれる。人同士が対話を重ねて深い関係を築くことが、住空間づくりの根幹を成す部分だと神谷は感じている。

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空間に合った床材や壁材などの素材サンプルを並べて、クライアント、IDSのインテリアスタイリストと議論を重ねる。

CANNELLA 壁面収納

「CANNELLA 壁面収納」は、色・素材、横幅や高さの違うタイプがさまざまあり、「LUGANO 壁面キャビネット」を組み合わせるなど、空間の広さやライフスタイルに合わせてアレンジできる。オブジェ(書籍除く)は、すべてボーコンセプトのアイテム。Photo by Sayuki Inoue

「ボーコンセプトのIDSを利用した場合は、僕も一緒に参加してインテリアスタイリストと住まい手の3人で対話を重ね、住まい手が望む空間を共につくり上げていきます。僕も住空間のプロジェクトでは、事前に住まい手に簡単なヒアリングを行いますが、IDSはその分野の専門的な知見を持っている方が、より丁寧に詳細に個々の思いをすくい上げ、人とインテリアと空間の関係性を考えながら提案してくれます。どういうふうにその場を使いたいのか、リラックスしたいのか、楽しみたいのか、人を呼びたいのかなど。そういう人同士の対話を通じて空間をつくっていくことがとても大事で、それが豊かな空間を創造することにつながります。僕は住空間のプロジェクトでは、単に建物や空間をある決まったスタイルでデザインするのではなく、住まい手の望むライフスタイルをかたちにしていくことが重要だと考えています」。

MADRIDダイニングテーブル

日本ではダイニングテーブルというと、天板が四角いタイプを選びがちだが、神谷は丸いフォルムの「MADRID ダイニングテーブル」を勧める。その理由に、天板のエッジのデザインがシャープで空間が広く見える効果を挙げる。

CUPERTINO デスク

ワークプレイスに神谷が勧めるのは、「CUPERTINO デスク」。スタイリッシュなデザインに加え、収納スペースが多く機能性にも優れているので、リモートワークにも対応でき、住空間にもフィットするところが魅力だという。

空間の新しい可能性を拓く

近年、人々のライフスタイルに求める価値観がますます多様化するなかで、ボーコンセプトのコレクションと「インテリア デザイン サービス(IDS)」は、住空間の可能性を広げていくものとなると神谷は考える。

「僕はどんなプロジェクトでも、それが家とか、オフィスといったように機能を限定して設計しません。家の中を働く場所にするならば、ワークプレイスのような家にするし、オフィスの中でスタッフ間のコミュニケーションを高めたいという目的がある場合は、家のように温かみのあるオフィスにする。ボーコンセプトには、用途や場所を選ばず、その境界線を超えて活用できるアイテムがあり、さらに住まい手に寄り添うIDSのようなサービスがある。こうした特徴が、豊かさの本質を追求した多彩な空間を創造したいと考える人たちを大いにサポートしてくれるのではないでしょうか。そのことを建築家やデザイナーにも、広く知っていただきたいですね」。ボーコンセプトでは、多様性という時代と呼応するコレクションやサービスを提供し、豊かさの本質を追求したライフスタイルをつくる楽しみを住まい手や、建築家・デザイナーに提案する。

ボーコンセプトのインテリアでトータルコーディネートされた空間は、店舗で実際に体感できる。国内には23店舗(直営店18店舗)あり、「インテリア デザイン サービス(IDS)」は店舗とウェブサイトいずれからも相談が可能だ。

神谷修平(かみや・しゅうへい)/建築家、クリエイティブディレクター1982年愛知県生まれ。2007年早稲田大学大学院理工学研究科博士前記課程修了。07〜16年隈研吾建築都市設計事務所でチーフアーキテクトとして公共建築から海外プロジェクトまで担当。16〜17年デンマークのBIGでシニアアーキテクトとして従事、同時期に文化庁新進芸術家海外研修制度研究員として北欧デザイン・文化・都市を研究。17年東京・青山に株式会社カミヤアーキテクツを設立。「建築設計により世界に感動をゆり起こす」をビジョンに、伝統と地域の価値を掘り起こし、シンプルかつクリエイティブなソルューションを提供する。企画・建築設計・クリエイティブディレクション・インテリアまで幅広く手がける。主な作品に、「九段ハウス」「OHAGI3 FLAGSHIP CAFE」「HARIO Satellites」「葉山 加地邸」「傀藝堂(かいげいどう)」など。JIA日本建築協会優秀建築選、日本建築学会作品選集、日本空間デザイン賞金賞など受賞多数。