映画「アアルト」ロードショー。監督ヴィルピ・スータリに聞く。

(C)Aalto Family

今年はフィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの生誕125周年にあたる。アアルトの人と作品を描いたドキュメンタリー映画「アアルト」が、今秋全国公開されている。

この映画は、ドラマティックなストーリー展開や、ダイナミックな動きがあるわけではなく、モノクロや、カラーであっても雪景色を中心とした静的な映像が淡々と続いていく。なにしろ映し出されているものが建築やオブジェという動かないものがほとんど。そこに人が登場しても、亡くなった人ばかりという、基本動かないもので構成されている。 
 
それにもかかわらず、ここにはゆったりとした心地よい流れがある。映像だけでなく人の声や音によるサウンドスケープで、有機的な流れを感じさせる映画だ。

アアルトベース 1936年 (C)FI 2020 – Euphoria Film

ルイ・カレ邸(フランス)1959年 (C)FI 2020 – Euphoria Film

フィンランドでは、ユーロになる前の貨幣の50マルッカ紙幣に、アルヴァ・アアルトの肖像画がつかわれていた。そのことからわかるように、彼は一建築家というよりも国民的英雄といえるだろう。図書館、病院、役所、コンサートホールなど、公共建築を数多く設計しているし、学校や幼稚園で使われている家具はアルヴァの最初の妻であるアイノがデザインしたものが多い。またグラスや照明器具、花瓶など、アルヴァとアイノがつくった何かが必ず家にひとつはあるという。

来日したこの映画の監督、ヴィルピ・スータリによると、「国家的な記憶のなかにアアルトは入りこんでいる」という。

「アアルト」の監督。ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)。1967年生まれ。フィンランドのヘルシンキを拠点に、映画監督、プロデューサーとして活躍。ヨーロッパ・フィルム・アカデミー会員。映画「アアルト」は“フィンランド のアカデミー賞”と称されるユッシ賞にて音楽賞、編集賞を受賞した。Photos by Riku Nishimura

彼女によるともっともやりたくなかったのは「アアルトのアカデミックな研究映画をつくること」だったという。「彼らについての研究書はもう山ほどあります。私はすでにアアルトをよく知っている人でも、またそうでない人にもアアルトを知る喜びを伝えたかったのです」と、この映画をつくった意図を語る。

バイミオ チェア 1932年 (C)FI 2020 – Euphoria Film

スータリは、最近のドキュメンタリー映画によくある、過去をよく知る人々を登場させて語らせるという手法を採らず、生前に撮られたフィルム、家族・研究家の何カ国語にも及ぶ証言、現在の建築の映像などを紡ぎ合わせている。アーカイブを探し、探し出した膨大な資料を丹念に構成していくという映画制作は全部で4年の歳月がかかったという。

ヴィーブリの図書館(現ヴィボルグ、ロシア)1935年 (C)FI 2020 – Euphoria Film

「アルヴァ・アアルトは自己中心的で、しかしとてもチャーミングな人物でした。彼の建築には愛とか官能性があると思います。この時代に、建築のために人があるのではなく、人のために建築はあるというアアルトの精神を今一度思い出して欲しいのです(スータリ)」。

また「アアルト」というタイトルが示すように、この映画はアルヴァ・アアルトだけの映画ではない。アイノ・アアルトという人物の映画でもあるのだ。そしてアルヴァが人生晩年を伴にしたエリッサ・アアルトについても描いている。

アイノとアルヴァ・アアルト(C)Aalto Family

新しいアアルトを知る喜びを伝えたかったというこの映画、建築やデザイン、アアルトをまったく知らない人も観て欲しい。100分を超える時間、フィンランドの風景や、訥々と語られるナレーションが流れるスクリーンに見入ってしまい、ゆったりとしたリズムに身をゆだねながらタイムスリップするという不思議な体験ができる。(文/AXIS 辻村亮子)End

映画「アアルト」(AALTO)

監督
ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)
制作
2020年/フィンランド
上映時間
103分
著作権・商標
©️Aalto Family ©️FI2020-Euphoria Film
公開
2023年10月13日からヒューマントラストシネマ有楽町、UP LINK吉祥寺、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
公式HP
aaltofilm.com