「デンマークのインテリアブランド、ボーコンセプトの色・素材の魅力」
プロダクトデザイナー 秋山かおり

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事務所に置かれた「EDEN(エデン)フットスツール」 Photo by Sayuki Inoue

STUDIO BYCOLORの代表であり、デザイナーの秋山かおりは、色や素材の持つ力を効果的に活用した多彩なクリエイションを生み出している。家具や器、アクセサリーといったプロダクトデザインを中心に、素材メーカーのサンプル制作や展示会の会場構成、企業やメーカーの製品や空間のCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)のコンサルティングにも携わる。

長年、色・素材を軸に取り組んできた秋山の自宅と仕事場を訪ね、プロフェッショナルな視点から心地良いインテリア空間を生み出すための提案や、愛用しているボーコンセプトのアイテムの魅力について伺った。

色・素材を軸に活動を展開

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「+STORIES」(2023)。オーケー化成の素材サンプルを制作するプロジェクトに参加。左から、宇宙から見た地球、夕暮れ時のうつろう空の色、水面に舞い落ちた花びらをイメージして情緒豊かな模様を表現し、樹脂素材の新たな可能性を引き出した。

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「NORI PIGMENT」(2023)。オランダのダッチ・デザインウィークに参加し、海苔を構成する藻類の色彩を水で抽出して、素焼きのタイルに着色した実験的な作品を発表して注目を集めた。

秋山は大学卒業後、オフィス家具メーカーに勤め、同社で早くから取り入れていたイタリアのクリノ・カステリが提唱するCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)のデザイン概念を学んだ。デザインをするうえで、色・素材・仕上げの3つの要素を総合的に捉えて設計することが重要だという考え方である。その経験をもとに、自身の事務所STUDIO BYCOLORを設立後、色と素材を軸にプロジェクトを展開し、企業やメーカーのCMFのコンサルティングにも携わっている。

明度を基準に空間デザインを考える

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開口部から光が差し込んで明るい自邸のリビングダイニング。秋山が座る椅子は、ボーコンセプトの「HAMILTON(ハミルトン)チェア」で、右奥は同ブランドのフラワーポット。Photo by Sayuki Inoue

秋山が暮らす家は、建築設計の仕事に携わる夫と共同で設計した畳の間もある和洋折衷のモダンな空間である。そのインテリアの色や素材は秋山が選んだ。空間デザインにおいて、「色相(色味)」よりも先に「明度(色の明るさの度合い)」を決めることが重要だと秋山は考える。

「同じような明度で構成すると、ぼんやりとした単調な空間になってしまいます。自然界の木の葉も、光が当たっているところは明るく、影になっている部分は暗い色をしていますよね。木立の中を歩いていると気持ちが安らぐように、インテリアも明るさと暗さのバランスを考えて、メリハリをもたせることによってナチュラルで心地いい空間をつくることができます」。

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ステンレスのアイランドキッチンの上に飾られているのは、ボーコンセプトの「LUCID(ルーシッド)ガラスフラワーベース」。生花をたしなむ秋山が、深さのある花器の中に剣山を入れて生けた。Photo by Sayuki Inoue

いちばん高い明度は白色で、最も低いのは黒色であることから、秋山はいつも空間デザインを考える際に、まず明暗を考えながらコントラストを決めていくという。この家のインテリアでは、空間が広く感じられるように大きな面の壁と床材を明るく、壁面の一部をキッチン家電の色に合わせて明度を暗くし、その後、素材の持つ風合いや艶などのテクスチャ(触感や質感)のバランスを考えながら、ソファ、畳の緑、椅子、カーテン、シンクの蛇口のような小さな面の濃淡を考えていった。最後に、それぞれの素材が美しく感じられる色相を考えて調整した。

穏やかな色彩が心地良さを生む

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右の椅子がボーコンセプトの「HAMILTONチェア」。椅子の色味や脚の形式は、自身で選んでカスタマイズが可能で、ファブリックやレザーを張ることもできる。Photo by Sayuki Inoue

ボーコンセプトは、ひとつのブランドでアイテムとコレクションのバリエーションがあり、同じ空間でトーンを揃えて明度や素材の変化をつけやすいのが特徴だ。そこでボーコンセプトのコレクションからダイニングチェア、フラワーベース、クッションなどを揃えた。ダイニングで使用しているのは、「HAMILTON(ハミルトン)チェア」のマットなアッシュグレーの回転式ベースタイプである。

「HAMILTONチェアの色は、白い壁とフローリング、窓から差し込む光との調和を考えて、マットなアッシュグレーを選びました。樹脂素材でこうしたニュアンスのある色を出すのはとても難しいのですが、しっとりとした質感でとても美しいと思いました。北欧らしい優しく穏やかな色彩は、日々の生活に安らぎを与えてくれます。ファブリックの張り地ではなく、樹脂タイプにしたのは、ダイニングで使うので子どもがうっかり飲み物をこぼしても、すぐに拭き取れる機能性を考えたからです。オーガニックなフォルムと回転式ベースによって体の動きに自然についてくるフィット感も心地いいです」と秋山はその魅力を語る。

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素材の豊富さと、明度の幅が広いことが魅力

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手触りのいいブークレという生地の「BOUCLÉ SINGLE (ブークレシングル)クッション」からマスタード、クリーム、ブラウンの3色を選んだ。右端は、遊び心のあるパターンのある「TUFTED (タフティド)クッション」のクリーム。Photo by Sayuki Inoue

秋山が自ら設計図面を描いてオリジナルで造作したソファには、最近、ボーコンセプトのクッションを加えた。「濃色でコクのある色味の素材感のあるクッションによって、明るく華やかな印象になりました」と喜びを語る。

ボーコンセプトでは、色・素材において時代に左右されない普遍的なものからトレンドを取り入れたものまで、幅広いニーズに応えるラインナップを揃えている。近年はこのクッションのような暖かみのあるアースカラーやニュートラルカラー、ブークレ(輪っか状に加工された編地)や自然素材が注目されているという。秋山は「色、素材、アイテムにおいて明度の選択肢の広さがあることが、ボーコンセプトの最大の魅力だと感じています」と話す。

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ボーコンセプトの「EDENフットスツール」の上に置かれている張り地のサンプル生地は、ボーコンセプトの各店舗とウェブサイトで確認することができ、特徴やお手入れ法も紹介されている。Photo by Sayuki Inoue

事務所で使用している「EDEN(エデン) フットスツール」の張り地は、ボーコンセプトのオリジナル素材のなかから選んだ。「例えば、レザーで明度を例えるとしたら、レザー素材の明度の一番明るい白の領域でいうと、ホワイト、スノーホワイト、バニラホワイト、ライトグレイ、ベージュ、クリームなど、細かく色調が分かれていて明度の幅がとにかく広いんですね。それによって選択肢が広がるので、空間デザインを考えるうえで自由度が高まります。
ボーコンセプトの店舗にあるサンプル生地が大判サイズなのもいいですね。私は店舗でスツールを丸ごとサンプル生地で包み込んで、その印象を見ながら選ばせていただきました。明度の幅が広く、また実寸大で検討できるのは、家具も含めて空間デザインを考える建築家やインテリアデザイナーにとってありがたいことだと思います」。

家具を通して素材の触感を楽しむ

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オリーブグリーンが「YORK(ヨーク)」、ホワイトが「SALTO(サルト)」という名前のレザー素材で、ファブリックの「TUSCANY(トスカニー)」は、スコットランドで生まれたジャカードシェニール織りの丈夫な生地。Photo by Sayuki Inoue

秋山が選んだ「EDENフットスツール」のレザー素材は、いずれも風合いを残した表面加工が施され、日常使いに適した耐久性を備えている。ファブリックの生地は、糸から染めて織って仕立てた丁寧な先染めの製法によるもので、凹凸感のある心地良い手触りと色彩がミックスした個性的な表情が特徴だ。3種類それぞれ異なる張り地にしたのは、多彩な触感を楽しむためだという。

「昔の日本の住まいには、木材と紙でつくられた障子や襖、板張りの廊下、イ草の畳の間があって、日常で多様な素材に触れる機会がありました。けれども、今はスマートフォンやパソコンなど、デジタルツールに触れている時間も長くなり、昔のような空間や生活から離れている人も多いかもしれません。そうしたなかでも手や体が直接触れる家具の素材を通して、日々の生活のなかで触感や温度を感じて楽しむことができると思います。ボーコンセプトでは、こうした張り地のほかに、テーブルの天板には天然木、ガラス、セラミック、ラミネートなど、多彩な質感の素材があって、そのなかから自分の暮らしに合ったものを選んでカスタマイズすることができます」。

インテリアを色・素材から考える

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ボーコンセプトの「VALENCIA (ヴァレンシア)サイドテーブル」の中に、秋山は仕事で使う素材見本を入れて使用している。Photo by Sayuki Inoue

近年、さまざまなものや場所にCMFの専門的な知見が求められることが増え、色や素材による効果や影響に対する注目が高まっているという。「住空間の色や素材を考えるときにも、専門的な知識がないと難しいと思う方もいるかもしれません。みなさん洋服は長年、自分に合うものを考えながら試してきたと思いますが、インテリアは気軽に試したり、頻繁に変えられないですし、人から学ぶ機会もあまりないと思うので悩まれているかもしれませんね。その点では、ボーコンセプトには一緒に考えてくれるインテリアスタイリストさんがいるので心強いと思います」。

ボーコンセプトでは、インテリアスタイリストがインテリアコーディネートの無料相談にのる「インテリア デザイン サービス(IDS)」が受けられる。住空間における色や素材による効果や影響を活用し、コーディネートの提案に取り入れることもあるという。例えば、家族の時間を大切にしたいと考える人には、リビングは穏やかで落ち着ける空間になるようにシンメトリーに家具を配置し、コミュニケーションを活性化させる効果のあるオレンジ色のキャメルレザーのソファを取り入れるなど、色彩心理・カラーコンビネーション・レイアウト法も含めて、個々のライフスタイルや空間に合わせて求めるインテリアの実現へと導いていく。

ボーコンセプトの魅力的なコーディネート空間

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ボーコンセプトの「KINGSTON(キングストン) 伸張式ダイニングテーブル」「PRINCETON(プリンストン) ダイニングチェア」「FERMO SIDEBOARD(フェルモ サイドボード)」「LOOM(ルーム)ラグ」などで構成されたダイニングのコーディネーション例

ボーコンセプトでは、インテリアを考えるうえで住まい手に参考にしてもらうために、コーディネーション例を店舗とウェブサイトで紹介している。そのなかから色・素材の視点で魅力的だと感じるインテリア空間を秋山に選んでもらった。ひとつは、ブルーグレーを基調にしたダイニングのコーディネートだ。

「椅子、ラグ、サイドボード、フラワーベースをブルーグレーで統一して、明度のコントラストを細かく計算して構成されていると思います。壁面や床が比較的明るい空間なので、テーブルの天板と脚、椅子の脚の色を暗くしてコントラストを生み出すことで、重すぎない高級感のある雰囲気を演出しています。ボーコンセプトでは、天板、脚、張り地すべてカスタマイズできるので、こうした明度の濃淡を巧みに変えた空間のトータルコーディネートが実現できるのだと思います」とセレクトした理由を話す。

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ボーコンセプトの「BOLZANO(ボルツァーノ) カウチソファ」「MADRID(マドリッド) サイドテーブル」「BOLZANO チェア」「LOOM(ルーム) ラグ」などで構成されたリビングのコーディネーション例

秋山がもうひとつ選んだのは、近年、自然環境への関心の高まりから人気のグリーンを基調にしたリビングのコーディネートだ。「『BOLZANO カウチソファ』のように柔らかいフォルムは近年のトレンドで、それに淡いグリーンのファブリックの素材を合わせているのが素敵ですね。ラグはソファより明度を明るくして、毛足の長い風合いがあるものを選ばれています。右側の『BOLZANO チェア』は、カウチソファよりも明度を高めたベージュに。中央の『MADRID サイドテーブル』の脚の明度を暗くしてアクセントにしています。全体的にやさしく柔らかい印象で、落ち着ける空間だと思います」。

自分らしいインテリアを創造するために

住宅でも事務所でもインテリアを考える際にいちばん大事なことは、「余白」だと秋山は言う。

「特に住宅は長く住む場所ですし、家族の成長や好みの変化を受け止める場所でもあるので、最初から細かく決めすぎずに余白を残しておくことが大事だと思います。何年かそこで生活していくうちに、だんだんその空間に必要なものがわかってくると思うんですね。こういう色を入れたら窓から差し込む光の感じと合うかなとか、こういう素材を取り入れたら空間の雰囲気がもっと和らぐかなとか、どんなアイテムを加えようというだけでなく、どんな色や素材を取り入れようという発想で考えることもおすすめしたいですね。ボーコンセプトはそういう余白の使い方を考えるうえでも、面積の大きいソファやラグなどから、挿し色として使用できるクッションやフラワーベースなどが多種多様な色・素材で展開されているので、コーディネートの相談を通して暮らしながら足して育てていく、そういうインテリアの楽しみ方もあると思います」。

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生活のなかにもっと色や素材を取り入れて楽しんでほしいと秋山は考えている。Photo by Sayuki Inoue

ボーコンセプトの素材サンプルの無料送付サービスや、インテリアスタイリストによる無料コーディネート相談は、店舗でもウェブサイトからも申し込むことができる。一人ひとりのインテリアのために、インテリアを真にパーソナルなものにすることを提案する。そんなボーコンセプトの色、素材、テクスチャの多彩な選択肢のなかから組み合わせて、上質で心地いいインテリア空間を創造してほしい。

秋山かおり(あきやま・かおり)/デザイナー、STUDIO BYCOLOR Inc.代表。2002年千葉大学工学部デザイン工学科を卒業後、オフィス家具メーカーのイトーキに勤務。オランダのデザイン事務所STUDIO Samira Boonで経験を積んだ後、2013年、色や素材の持つ力を効果的に活用するクリエイションを生み出すデザイン事務所STUDIO BYCOLORを設立。iF Design Award Gold(ドイツ)、Design Intelligence Award Top100(中国)、DFAアジアデザイン賞Gold(香港)、グッドデザイン賞(日本)など国内外での受賞多数。グッドデザイン賞審査員、台湾国際学生デザインコンペティション審査員などに携わる。千葉大学工学部デザイン工学科非常勤講師、法政大学デザイン工学部システムデザイン学科兼任講師を務める。