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18時間前
大成建設 設計本部で毎年4月に開催される「デザイン会議」。この会議の大きなテーマは自分たちが設計した作品を通じて、設計本部が求める良い建築とは何かを考えること。開催期間中には過去1年間に竣工したプロジェクトを対象に、さまざまな賞が選出される。そのひとつであるU-40賞は、2020年に創設された若手世代(40歳未満)を対象としたアワードだ。本記事では、今年の受賞者である安藤広隆(構造設計)、高岩 遊(建築設計)、そしてデザイン会議のチェアマンである平井浩之(エグゼクティブ・フェロー 副本部長)に、1989年の第1回開催からうむことなく進化しつづける「デザイン会議」について、そして若手から見た次世代の大成建設のビジョンについて、インタビューを行った。
Photos by Koichi Tanoue
良い建築とは何かを全員参加で議論、意識が変わる1週間
──「デザイン会議」の目的や意図について、改めてお聞かせください。
平井 「デザイン会議」という取り組みは1989年に始まりました。若手を中心とした実行委員会が企画・運営し、1,200名近くいる社員が一堂に会して、1週間かけてデザインについて、そしてわが社が考える“良い建築とは何か”議論します。コロナ禍や働き方改革を経てコミュニケーションの機会が減少している傾向があり、この企画をとおして対話をすることで若手の意識が変わったり、設計者が自らの仕事を振り返ると同時に、自律成長につながる貴重な機会となっていますね。
平井浩之(ひらい・ひろゆき)1988年度入社/エグゼクティブ・フェロー 副本部長。
──第37回を迎える今年のデザイン会議のテーマは「One’s」。このテーマに込めた意味を教えてください。
平井 2023年に大成建設のデザインフィロソフィーを大きく一新し、気持ちを新たに再出発するという意味で昨年は「Zero」というテーマを設けました。今年のテーマは「Zero(0)」から次の一歩となる「1」、そして「One=個性」が束になる、というふたつの意味をかけて「One’s」としました。大成建設の強みは何よりも一人ひとりの個性です。それぞれが意思を持って、自由に、かつ自律して働いていることを強調できればという想いを込めています。
──U-40 賞とはどういった賞なのでしょうか。
平井 5年前に始まったU-40賞は、活躍している40歳までの社員に光を当て、プロジェクトだけではなく、仕事に対する姿勢やチームに対する貢献度も含めて個人を包括的に評価します。さらに社員が個性を発揮する活力となればという意図でつくられました。
U-40賞受賞者たちの格闘
──今年は構造設計の安藤広隆さん、建築設計の高岩 遊さんが受賞されました。受賞のご感想と、受賞作品の見どころについて教えてください。
安藤広隆(あんどう・ひろたか)
2009年度入社/シニア・エンジニア。大成建設 設計本部 構造設計第2部。
安藤 私は、構造体を大胆に露出させたスタジアム「エディオンピースウイング広島」の構造設計を担当しました。受賞の知らせには驚きましたが、今回の受賞は、構造体を前面に押し出した私たち構造設計の仕事そのものを評価していただけたと感じ、素直に嬉しく思っています。
「エディオンピースウイング広島」。広島城や本川(旧太田川)が隣接する広島市中心部に誕生した都市型スタジアム。街の新たなランドマークとして、スタジアムのほか公園や商業施設「HiroPa」で構成されている。街に大きくひらかれた開口部は、ピッチから湧き上がる熱気をそのまま街に届け、街の活気をスタジアムへ呼び込む。 Photo by Kenchikusya
東側バックスタンド正面。「平和の翼」をイメージした大屋根は、3本の矢、弦と弓のモチーフで構成。南北135 mにおよぶ大スパンは、張弦梁と、写真右側で山型に立ち上がる2本の柱によって支えられ、開放感と軽やかさを生み出している。 Photo by Nacasa & Partners
このスタジアムは、公園に面した大胆な段床裏(観客席の裏側)や、日本のスタジアムでは最大規模の135mの張弦梁(ちょうげんはり: 大きな梁とケーブルで支える構造)を山型に配置した柱によって支持することで、屋根が浮いたように見えるデザインが特徴です。構造躯体をすべて露出させた設計により、開放的な印象を与える一方で、構造をいかに美しく見せるかにこだわり、工夫を重ねました。
当初「大きな張弦梁が観客の視界に入り邪魔になるのでは」といった懸念もありました。ところが実際に試合中のスタジアムを訪れてみると、張弦梁は建物に自然に溶け込んでおり、ほとんど視界に入ってこなかったんです。観客が集中して観戦できている様子を見てほっとしました。多くの方に利用されるなかで、スタジアムがゆっくりと街の風景に馴染んできていることを実感しています。
──高岩さんは、「青森市総合体育館」と「Daiwa秋葉原ビル」、ふたつのプロジェクトが評価されました。
高岩 遊(たかいわ・ゆう)
2014年度入社/プロジェクト・アーキテクト。設計本部 建築設計第7部。
高岩 受賞の知らせを聞いたときは、正直「自分が?」という驚きの気持ちが強かったです。どちらのプロジェクトも、コロナ禍や物価高騰といった逆境のなかで進み、困難も多くありました。そうした経験を経て評価いただけたことは、大きなご褒美だと感じています。
「青森市総合体育館」。青森市の中心部に近い旧国鉄の操車場跡地に建つ、アリーナ、キッズルーム、交流の場「ヨリドマ」からなる環境型スポーツ施設。「健康・交流・防災」をキーワードに利用者が季節を問わずスポーツや交流を楽しむことができる。 Photo by GRAFILM
このふたつは規模も用途も異なりますが、どちらもエンジニアリングとデザインの高度な結びつきで成り立っているという共通点があります。「青森市総合体育館」では、メインとサブアリーナの間に「ヨリドマ」という幅20mの半屋外スペースを設けました。さらに青森の冬の厳しい気候をシミュレーションし、風向きや風圧をコントロールする板壁「かっちょ」を設け、雪が吹き込みにくくなるように設計。四季を通じて市民の“居場所”となり得る空間を生み出しました。
「ヨリドマ」 Photo by Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office.
青森で昔から防雪堀として利用されてきた「かっちょ」を外装に転用した国内初の試み。開口率約10%の防雪板が冬は吹雪を遮り、夏は折り畳んで風を通し、半屋外の「ヨリドマ」にやわらかな木漏れ日を届ける。Photo by Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office.
また、木のトラスが印象的なヨリドマの天井は、木と鉄を組み合わせた「ハイブリッド木構造」を採用し、構造的に強固でありながら、木の温かみを生かしています。建物の内と外をつなぐ屋根付き通路「コミセ」の木仕上は、シンプルなディテールとパラメトリックデザインの組み合わせで実現しています。意匠、構造、環境と3つの要素を高いレベルで融合できたプロジェクトです。
「Daiwa秋葉原ビル」。東京・秋葉原に建つ、地下1階、地上12階建てのテナントビル。コンセプトである「Cutting Edge」を体現する、斜めに切り取られたようなガラスファサードが街の景色を鋭く映し出している。 Photo by Aifoto
一方の「Daiwa秋葉原ビル」は、投資用テナントビルとして、限られた容積と高さ制限のなかでいかに収益性と魅力的なデザインを両立させるかがテーマでした。「TASMO」という当社の独自技術による構造形式を採用することで、競合他社より一層多く床を確保し、また路面階が商業施設として活用される可能性を見据え、柱の立面を斜めにして街にひらかれた空間を創出しながら、柱の揺れに追従する構造合理性も実現しました。この斜めのデザインを内部空間にも展開し、内と外のデザインに統一感を持たせています。結果として、オープン前に全テナントの入居が決まり、デザインが事業の成果にも確かな影響を与え得ることを実感しました。
──今回受賞されたプロジェクトを経て、建築に対する考え方に変化はありましたか?
安藤 これまで主に工場やオフィスビルを手がけてきましたが、「エディオンピースウイング広島」は、今まで設計してきたなかで最も多くの人に使われる建物でした。実際に試合でスタジアムが埋まっているのを見たときに、建築の力を強く感じましたし、その嬉しさを味わうことができました。
高岩 「青森市総合体育館」が完成したときは、「本当に人が来てくれるのかな」と不安もありましたが、いざオープンしてみると、市の人口25万人に対して、昨年だけで27万人が来場しました。「ヨリドマ」ではイベントが日々行われ、屋内キッズエリアも子どもたちであふれています。想像以上に多くの方に利用されている様子を見て手応えを感じるとともに改善点や次回に生かしたいアイデアがいろいろと浮かんできました。
U-40賞が未来に渡すもの
──平井さんから見て、安藤さんと高岩さんが評価されたポイントはどのような点でしょうか?
平井 U-40賞は、「想像を超える創造」ができる個人に与えられる賞です。安藤さんのスタジアムのプロジェクトは、デザインチームが「こういうふうにやりたい」と言ったことそのままではなく、構造設計側からの提案もあったからこそ実現できた建物です。完成時と実際に使われているときの双方を見に行きましたが、まったく違って見えました。使われることで街に溶け込み、街を変えていった。その変化を、今の年齢で想定して設計に取り組めたというのは、すごいことだと思います。
高岩さんは、過去に行われた社内コンペで惜しくも2位だったことがあります。そのときの課題へのアプローチや、職人さんと切磋琢磨してモックアップを仕上げるクラフトマンシップ精神がとても印象に残っていました。その意識は組織にとっても非常に有益ですし、強い意志を評価しています。おふたりが今の年齢で受賞したことは、さらに下の世代にとっても大きな刺激になります。こうした取り組みを通じて、20〜30年後の大成建設は必ず大きな力を得ているはずです。これからは彼らの個性が大成建設をつくっていく。だからこそ、この賞が持つポテンシャルは本当に大きいと思います。
僕からもおふたりに聞きたいのですが、自由や個性を大切にしながら、組織として力を持つには何が必要だと思いますか。
安藤 弊社の構造設計では、やりたいことをきちんと説明すれば、基本的に「ノー」と言われることは少ないんです。もちろん無謀な提案にはブレーキもかかりますが、それは立ち止まってアイデアを実現するためのより良い手段を探る時間につながります。一定の自由がありつつ、品質もしっかり保つ。このバランスが、大成建設の強みだと感じていますし、その継続こそが組織と個人を成長させていくのではないでしょうか。
高岩 確かにそうですね。例えば、最近社内のデザインレビュー会議が設計プランをより良くするために挑戦的な議論をオープンに交わせる場となっています。一方で、勤務時間短縮のプレッシャーもあり、時間的余裕を持てないこともあります。もっと“心理的・時間的な余裕”があれば、より生き生きとチャレンジできるのではないでしょうか。業務時間の制約下でも、AIなどの技術の活用、業務プロセスの見直しによって、のびのびと設計に集中できる環境を整えられればと思います。
平井 働き方の見直しは大きなテーマですね。高岩さんの言うとおり、AIなどで効率化できれば、一人ひとりの力を底上げできて全体で見れば大きな成果にもつながります。
私たちの世代は、25年前に「上下関係のないフラットな組織」に大きく舵を切った。その文化は今も受け継がれていて、大成建設は世代を超えたコミュニケーションが活発だと思います。若手の提案に対して、上司がそれぞれ異なる意見を言うこともありますが、最終的にどの意見に従うかは設計者自身の判断に任されているのです。
──おふたりは今後、どういった建築を手がけていきたいですか?
安藤 振り返ると、これまでひとつひとつの仕事にしっかり向き合ってきて、ようやくこうして賞をいただけたと感じています。僕は、体育館をつくりたくて構造設計の道に進んだので、いつか体育館づくりに挑戦してみたいですね。
高岩 プロジェクトを重ねるごとに、職人技術や塗装のテクスチャー、建材などディテールに対する関心が強くなってきました。一方で、都市にコミットできる大型開発案件にも携わりたい。異なるスケールの間で何ができるかを常に考えているので、いつか「ヒューマンスケールの感覚を大切にした街づくり」にチャレンジしたいです。
平井 ゼネコン設計の強みは、感性と高度な技術の裏付けの両立だと思うんです。高岩さんが言うようなヒューマンスケールを大規模な再開発に組み合わせられるような総合力こそが、これから建築業界で求められる姿ではないでしょうか。そのためには「個」が成長することが重要です。U-40賞や「デザイン会議」が、その成長のきっかけになっていくことを願っています。(文/深井佐和子)