MEMBERSHIP | アート / テクノロジー
19時間前
新たな領域を切り拓くデザイナー、建築家、アーティスト、サイエンティストらの活動拠点を訪ねる本連載。今回は英国が生んだ世界屈指の振付師、サー・ウェイン・マクレガーのスタジオを取り上げる。日本ではロイヤル・バレエ団の振付師として紹介されることが多いが、その活動は現代舞踊の枠を超えて、ポピュラーカルチャーからテクノロジストやサイエンティストとの協業まで実に多岐にわたっている。
鏡もバーもない真っ白なスタジオで次々とポーズをとるマクレガー。ここで踊るうちにダンサーの運動感覚は最大限に覚醒されるという。Photo by Paul Scala
アバのアバターに狂喜する理由
東ロンドンのストラットフォードを拠点にするサー・ウェイン・マクレガー。巨大なスタジオに一歩足を踏み入ると、ピンと張り詰めた空気が漂うなか、アートを配したミニマルな空間が広がる。さながら現代アートの美術館といった雰囲気だ。
「場所が人に与える影響は計りしれない。この空間は若いクリエイターたちに自信や尊厳、志をもつことの大切さを教えるはずだ」とマクレガーは言う。
スタジオに行くまでの道すがら、ロンドンの地下鉄構内では「アバ・ヴォヤージ」(2022年〜)のポスターをあちこちで目にする。70年代のスウェーデンのポップグループ、アバによるこのコンサートは、若き日のメンバーがデジタル・アバターとしてステージに登場する。観客はVRゴーグルを着けることなく、ともに曲を口ずさみ、アバターに手を振って熱狂する。観客がアバターに没入できるのは、映像の視覚効果はもちろんのこと、アバの振付を担当したマクレガーの力量によるところも大きい。マクレガーはアバのほぼすべての映像を掘り起こし、それを元にメンバー4人の身体的特徴や表情、細部の動きまでも自らのカンパニーのダンサーに完璧に再現させ、アバターをつくり上げた。人間の技術とテクノロジーの融合によって、観客は若きアバとの再会を果たすことができたのだ。