アレクサンドラ・カスーバ《スペクトラル・パッセージ》1975年
2023年ハウス・デア・クンスト・ミュンヘンにて再構成、2025年M+の空間に合わせて再構成
《Dream Rooms: Environments by Women Artists 1950s–Now》展示風景、2025年
© Estate of Aleksandra Kasuba, Photo: Dan Leung, Image courtesy of M+, Hong Kong

香港・西九龍文化区のM+にて、展覧会「Dream Rooms: Environments by Women Artists 1950s–Now」が、2026年1月18日（日）まで開催中。1950年代から現在までのアジア、ヨーロッパ、南北米の女性アーティスト12名による没入体験型インスタレーション12点を紹介する。

ナンダ・ヴィーゴ《環境クロノトピコ・ヴィヴィビレ》1967年
2023年ハウス・デア・クンスト・ミュンヘンにて再構成
© The heirs of Nanda Vigo, Photo: Agostino Osio – Alto Piano, Courtesy of Haus der Kunst München

「エンバイロメント(環境型作品)」は1950〜60年代に登場し、後にインスタレーション・アートと呼ばれるようになった表現形式。鑑賞者が作品空間に入り込み、感覚・物質・音と相互作用する没入型の体験を特徴とする。芸術・建築・デザインの要素を融合し、現代のデジタル体験の先駆けとなったが、これまで男性作家中心に語られてきた。本展は、この分野における女性作家の貢献を再評価する試みである。

ジュディ・シカゴ《フェザールーム》1966年
2023年ハウス・デア・クンスト・ミュンヘンにて複製、《Inside Other Spaces: Environments by Women Artists 1956–1976》展示風景、ハウス・デア・クンスト・ミュンヘン、2023年
© Chicago Woodman LLC, Judy Chicago,Photo: Agostino Osio – Alto Piano, Courtesy of Haus der Kunst München

本展では、複数の世代の女性アーティストによる作品を、作家や遺族、研究者との協働により可能な限りオリジナルに忠実に再現。ジュディ・シカゴ「フェザールーム」(1966年)は、約136キロの羽毛で満たされた白い空間。曲面の壁と柔らかな光で孤立感と無限性を生み出し、硬質素材中心の彫刻の伝統に挑む。山崎つる子「赤(蚊帳の形)」(1956年)は、日本の蚊帳を模した赤く光る立方体で、鑑賞者の影が発光スクリーン越しに揺れる。1956年に屋外で初展示され、当時の美術体験に変革をもたらした。

山崎つる子《赤(蚊帳の形)》1956年
1985年国立国際美術館(大阪)にて再構成、《Inside Other Spaces: Environments by Women Artists 1956–1976》展示風景、ハウス・デア・クンスト・ミュンヘン、2023年
© Estate of Tsuruko Yamazaki, Photo: Agostino Osio – Alto Piano, Courtesy of Haus der Kunst München

過去の作品が９点再構成されるほか、アジアの女性作家3名による新作委嘱も展示。ピナリー・サンピタック「崩れゆく家」(2017/2025)は、数千個のタイのキッド枕で構成され、鑑賞者が空間を解体・再構築できる。塩田千春「無限の記憶」(2025)は、赤い糸が3体の赤いドレスを包み込む。キムスージャ「呼吸すること」(2025)は、館内の窓やトップライトに拡散フィルムを貼り、自然光で建築空間を虹色に変化させる。

キムスージャ《呼吸すること》2025年
《Dream Rooms: Environments by Women Artists 1950s–Now》展示風景、2025年
© Kimsooja, Photo:Lok Cheng, Image courtesy of M+, Hong Kong

2023年にミュンヘンのハウス・デア・クンストで初演されたプロジェクトのアジア初巡回展。キュレーターのラッセル・ストーラー(M+シニアキュレーター)は「視覚的認識を超えて感覚的・空間的・感情的な気づきを活性化させる」と述べる。多くの作品は展示後に解体され記録も不十分だったため、失われた体験を現代に蘇らせる機会となっている。

塩田千春《インターナル・ライン》2024年
《I to Eye》展示風景、大阪中之島美術館、日本、2024年
© VG Bild-Kunst, Bonn, 2025, and Chiharu Shiota, Courtesy of Chiharu Shiota