REPORT | カルチャー / 建築
7時間前

11月から12月にかけて、東京ではいくつかのデザインイベントが開催され、デザインについての考えを巡らせる機会になった。そうしたなか、際立ったのが10月末から11月11日まで都内随所で開催されたCapsule Plaza Tokyoではないだろうか。DESIGNART、alter.、DESIGNTIDE TOKYOなど、いずれも東京から生まれた日本発の企画のなか、Capsule Plaza Tokyoはミラノ発のデザインのプラットフォームCapsule Plazaの東京エディションだ。
Capsule Plazaは編集者でクリエイティブディレクターのアレッシオ・アスカリと建築家のポール・クルネが立ち上げた出版プロダクションであり、デザインにまつわる企画展示を行うプラットフォームでもある。この数年、4月のミラノデザインウィーク中に市内で企画展を開催し、ハイエンドブランドや王道の家具ブランドによる展示が多いなかにあって、一風変わった企画で話題を呼んできた。出版については『Capsule』というタイトルの刊行物を年に一度、刊行する。その活動の根底にあるのは、先進的なデザインの思想を取り上げること。そもそも、アスカリとクルネがこのCapsule Plazaを立ち上げた背景には、1970年に東京で生まれた黒川紀章設計の中銀カプセルタワービルの存在がある。
「1970年代に日本でこれほど先鋭的な建築が実現したことに衝撃を受けました。それ以前、世界の建築家が信望した、規格品を使うことで量産し、同質なものをより多くの人に届けるというモダニズムの思想を解体するような先鋭性がありました」とアスカリは話す。

原宿と表参道の中間にある荒木信雄が設計したStandByでは、インテリアデザイナーのハリー・ヌリエフ率いるクロスビー・スタジオによる、展示作品が街と一体となるようなインスタレーションが行われた。Photo courtesy of Capsule Global
「2020年以降、社会が守りに入り、内向的になっていた時代だったので、メタボリズムの思想にワクワクしました」と続ける。アスカリと建築家のクルネは、突き抜けるような破壊力を感じさせるデザインが生まれにくくなっている時代に、新陳代謝を繰り返し、取り換え可能な建築というメタボリズムの過激な精神にならおうと考えた。そして、実験的な取り組みを社会に見せたいと、Capsule Plazaを立ち上げたのだ。
「建築は都市とともに新陳代謝を重ね、成長していくというメタボリズムの考えは、オランダの建築家、レム・コールハースにも影響を与えました。考えてみると東京は今でも新陳代謝が盛んだと感じます。それでいて、古い建物も丁寧に保存されています。新旧がせめぎあうようなところがあり、それが東京の街に特殊な風景をもたらしている」とアスカリは話す。

スキーマ建築計画が手がけた日本橋浜町のT-HOUSE New Balanceでは、用途に応じてモデュラー什器を取り付けているスキーマ建築計画の建築と互換性のある金工作家、永瀬二郎のアルミのモデュラーチェアなどが展示された。Photo courtesy of Capsule Global
Capsule Plazaのスピンオフ展示を東京で企画したのも、東京のこうした建築に目を向けてほしいからだと言う。アスカリはこの一年、何度か来日し、地方に残るモダニズム建築などのリサーチを重ねた。「展示のコンテンツだけでなく、それらを展示する場所、コンテイナーも一体となった鑑賞体験になるよう、開催場所も吟味しました。そして1カ所にまとめるのではなく、展示を分散させることで、展示空間の建築とそれが建つ地域について改めて考えを巡らせてもらいたかったのです」。
例えば、パリのインテリアデザイナー、ハリー・ヌリエフが率いるクロスビー・スタジオの展示は、原宿と表参道の中間に建つ展示スペース「StandBy」で開催した。StandByは2020年に荒木信雄が設計した、壁も扉もないコンクリート空間だ。囲まれた部屋ではなく、窓もないため、展示そのものが外のにぎやかな街と一続きになるような特殊な環境を持つ。ここで、東京の人たちから不要になった日用品を集め、水槽に保存するように展示していた。東京の街から集めた日用品と空間、そして街が一体となってつながるような体験だった。
StandByから至近距離にあるCIBONEではCapsule Plazaがこれまで企画展示をしてきたデザイナーによる家具などの商品を販売した。CIBONEは、2020年まで青山にあったCIBONE Aoyamaからジャイルビルの地下への移転にともない、スキーマ建築計画が設計するフロアに、旧CIBONE Aoyamaの内装を手がけた中村圭佑率いるDAIKEI MILLSが既存の店舗の建材や什器を“引っ越して”つくられている。さらに同じショップ内のアパレルの空間は二俣公一によるCASE-REALがデザインを担うなど、ひとつのショップに異なる空間が入れ子に配置された混とんとした雰囲気だ。


DAIKEI MILLSが内装を設計したCIBONEでは、ミラノのデザインスタジオNM3、ベルリンのデザインスタジオBLESS、チューリッヒのデザインスタジオ、アルターワイスのアイテムが、混とんとしたCIBONEのショップ内に紛れるように展示され、販売された。Photo © Hideki Makiguchi, courtesy of CIBONE and Capsule Global
2020年の移転時にDAIKEI MILLSの中村圭佑は「異なるテンションのものがひとつのフロアに入り混じるカオスのなかで、偶然の出会いが生まれ、訪れた人がワクワクするような場が求められた」というコメントを出していた。多岐にわたるデザインやアイテムが頻繁に入れ替わるショップは、新陳代謝を繰り返すメタボリズムの思想に通じるが、混とんのなかに紛れ込んだようにNM3やBLESSといったデザイナーの家具が置かれていた。
同じくDAIKEI MILLSの改装によって生まれた亀有駅の高架下の複合施設「SKWAT KAMEARI ART CENTRE」でも展示された。この場所はギャラリースペース、ブックショップ、レコードショップ、カフェ、そしてDAIKEI MILLSの仕事場からなる。改装にあたり、壁を造作して空間を仕切るのではなく、単管パイプを組み上げて本棚にしたり、建築の足場が室内に持ち込まれたりした空間デザインは、西洋の目にずいぶんとラディカルに見えるのだろう。


DAIKEI MILLSが改装を手がけたSKWAT KAMEARI ART CENTREでは、ヘルツォーク&ド・ムーロン建築設計事務所がデザインしたスツールがブックコーナーに設置された。ホンマタカシのビデオ投影やOMA/AMOによる書籍の展示も。Photo courtesy of Capsule Global
東京の極東ともいえ、最寄りの電車の駅から歩くと15分ほどかかり、行きやすいとは言えない立地にもかかわらず、2024年のオープン以来、インターネットや口コミで知った海外からの訪問者が多い。さらに、地域住民も立ち寄るスポットになっている。ここでは、Capsule Plazaとゆかりのある建築設計事務所のヘルツォーク&ド・ムーロン建築設計事務所がデザインしたスツールがブックショップのなかで読書用の椅子として置かれた。また、東京の建築物を長年撮影してきた写真家のホンマタカシのビデオ投影や、都市研究のシンクタンクであるOMA/AMOの都市にまつわる書籍を展示し、東京の街を映像と都市論で探る企画を行った。
東京の街は魅力的でインバウンドの客足は増える一方だが、海外発のアートフェアやデザインフェアは今のところ東京には進出していない。ミラノサローネは11月末にサウジアラビアのリヤドで小規模のフェアを開き、アートバーゼル・マイアミビーチおよびアートバーゼル香港と3年間のパートナーシップを結ぶことも発表した。デザインマイアミでいうと、パリ、ソウル、ロサンゼルス、バーゼル、そして間もなくドバイでも開催が予定されている。アートフェアについても、アートバーゼルはすでに香港、パリ、そしてカタールでの実施を発表した。
国際的なフェアが世界の都市を巡っているのに、デザインマイアミもアートバーゼルも東京では開催されていない。それはギャラリーに対する税制上のデメリットもあると思うが、東京という街は魅力的だけれども、東京にはコレクターが十分にいないからという声も聞こえる。そうしたなかで、Capsule Plazaのように気鋭のミラノのデザインイベントが、東京に熱い視線を送ってくれたことは頼もしい。この冬、東京発のデザインイベントが多く開催されたことで、デザインコレクターが育ち、海外のデザインイベントが東京にも誕生することを願いたい。![]()












