「私は○○主義!」——多様な“イズム”に揺さぶられた夜
NEURON 6 in 神田明神 EDOCCO STUDIO 後編

2025年11月28日、神田明神 EDOCCO STUDIOで開催された6回目となる「NEURON」。そのレポート後編をお届けする。前編の濃い〜面々についてはこちら

カシオ計算機 デザイン開発統轄部 鈴木千裕さん(左)と小關諒人さん

カシオ計算機 デザイン開発統轄部
鈴木千裕さん、小關諒人さん
感覚主義

カシオ計算機 デザイン開発統轄部の鈴木千裕さんと小關諒人さんは2025年10月に発売されたサウナ専用の時計「サ時計」のデザインを担当した。「サ時計」は2024年12月のクラウドファンディング開始後わずか10分で目標金額を達成したという知る人ぞ知る人気プロダクト。ふたりはこのプロジェクトを通して、自分たちが「感覚主義」だと認めたという。

プロダクトデザインを担当した鈴木さんは、形状を考える際、その印象を「効果音」として捉える。「パーン」「シャキーン」「ドゴオオオン」……。製品ごとに異なる効果音があり、サ時計の場合は「もきゅっ」と「ジューシー」だった。耐熱・耐湿でタフでありながら、針はアナログ。ボタンを押すと、かすかに「ジー」という音を立てながら、健気に12分計へと切り替わる。そんな少しコミカルで愛嬌のある存在感が、「もきゅっ」としていて「ジューシー」なデザインとして結実した。

現在、鈴木さんは「もちっ」という効果音をテーマに自主制作を行っている。日常の中にある“もちっとした”形状を集め、理屈ではなく感覚を解放しながら作品をつくる。その姿勢は、まさに感覚主義そのものだ。

会場内ではサ時計や自主制作なども展示。

一方、グラフィックデザインを担当した小關さんが重視しているのは、「物語を伝えること」。サ時計では、「それぞれがサウナを楽しむ世界」というビジョンを、視覚表現としてどう立ち上げるかに向き合った。感覚の要となったのは色使いだ。サウナらしさや温かな空気感を表現するため、オレンジとベージュをブランドカラーに設定し、サ時計の世界観を構築していった。

小關さんもまた、自主制作でイラストを作成し、年に1回発表している。2025年に手がけたのはゴールデンウィークだけのカレンダー。2025年から2036年までの12年分で、その年ごとのゴールデンウィークを、未来予測なども参考にしながら描いたという。ゴールデンウィークだけという、あまりに限定的でユニークなテーマに会場からは爆笑が起こった。

色の参考として多くのイラストをアーカイブするなかで、小關さん自身が惹かれているのは、天気や時間、季節といった情景を感じさせる色だという。自主制作では、これまで使ったことのない色をあえて取り入れることも意識している。

鈴木さんも小關さんも、「なんかいいな」という感覚をまずは自主制作で試し、そこから仕事へと持ち込めないかを常に考えているという。

コニカミノルタ デザイン戦略部 本庄 薫さん

コニカミノルタ デザイン戦略部 本庄 薫さん
編集的ホリズム主義

コニカミノルタ デザイン戦略部の本庄 薫さんは、これまで自らの立場や主義を前面に掲げて語ることはほとんどなかったという。だが今回、AIとの対話をきっかけに、自身のこれまでの歩みを振り返りながら「自分のism」を探ってみた結果、浮かび上がってきたのが「編集的ホリズム主義」だった。

「編集的」とは、情報や関係性を並べ替え、組み替えること。「ホリズム」とは、部分ではなく全体──環境、身体、時間といった文脈を含めて捉える立場を指す。本庄さんは、このふたつを合わせた言葉で自らの姿勢を説明した。

まず青年期に触れてきた書籍や雑誌、アート、音楽、映画などを数多く紹介。それらの背後にはそれぞれ何らかのismがあり、意識しないまま多様な思想を浴びつづけてきた結果、複数のismが知らぬ間に自分の中に蓄積されていったのだという。そして、それらが表に現れるとき、人はそれを「癖」として自覚するのではないか、と語った。

本庄さんが改めて気づいた自身の癖は3つある。ひとつは、世界を「関係と構造」で捉えてしまうこと。もうひとつは、理解は「身体や状況に左右される」と考えてしまうこと。そして3つ目が、「周縁」に目が向いてしまうことだ。これらはそのまま、現在のデザインへの向き合い方につながっていて、「癖が職業病になった」と本庄さんは振り返る。その職業病をあえて言い換えるなら、「構造が見えるまで画面を信じられない病」「『ペルソナはいらない』という言葉を鵜呑みにできない病」「表のストーリーより裏の都合が気になってしまう病」だという。

最後に示されたのが、「編集的ホリズム主義」の三ヶ条だ。第一に、「情報はそのままでは現場に響かない」。身体や状況、温度感に合わせて、構造やインタラクションを編集しなおす必要があるという。第二に、「“いちばんやばい人(弱者)”を基準に設定する」。これは結果的に事故やストレスを減らすという、実務から得た感覚に基づくものだ。そして第三に、「新しい技術は“手と頭が軽くなるか”で評価する」。機能の有無ではなく、「あの現場の、あの人の手と頭が本当に軽くなるか」を問いつづける姿勢である。

こうしてAIに導かれるように語ってきたが、最後に本庄さんは、「本当は『私は◯◯主義ではなく、中庸なのだ』と言いたかったのかもしれない」と付け加え、会場の笑いを誘った。

TOTO デザイン本部 彭 博聞さん

TOTO デザイン本部 彭 博聞さん
私はお金があったら全部使う主義!

TOTO デザイン本部 彭 博聞(ホウ ハクブン)さんの主義は明快だ。「私はお金があったら全部使う主義!」。周囲からも「とにかく金づかいが荒い!」と言われている。では、何に使っているのか! 高価なギターや、イギリスの高級ブランドの数々……。憧れのミュージシャンのように、かっこよくなりたいという想いが背景にある。単なる浪費と捉えられがちだが、彭さん自身はそれを、異文化理解や自らのセンスを磨くための「センスメイキング」だと考えている。

最近はクライミングにはまっていて、さまざまギアを購入している。妙義山の上級者ルートにも挑んだが、その緊張感がたまらないという。なぜそんなにお金と時間を使って登りたいのか? 「辿り着けない地に辿り着く。その願望に動かされ、その過程で自身の能力向上に楽しさを感じるから」だ。

「確かに爆買いしているけれど、それをただの物欲でかたづけたくない。なんとかこのピッチで正当化したい」と笑い交えつつ、まとめに入った。マーケティングのジョブ理論や心理学の目的論にあるように、人間の行為の裏側には必ず目的がある。つまり、彭さんの“爆買い”にも明確な目的があるのだ。

最後に「AIも名言が言えるようになった」と前置きし、ChatGPTによる言葉で締め括った。

「節約は頭を鍛える。浪費は感覚を鍛える」。

吉田幸司さん講評
明確な目的を設定せず、ただ遊ぶこと。そこに創造の源がある

登壇者によるピッチ大会終了後、ゲストの吉田幸司さんが講評を行った。冒頭、「昔、地下芸人の構成作家のようなことを趣味でやっていたのですが、そのときのことを思い出しました」と語ったが、この一言は、「真面目にふざけろ」を裏テーマとし、即興性や実験性を含んだNEURONの場の雰囲気を的確に言い表していた。

吉田さんは、哲学はAIに回収されにくい分野だと考えているが、同様にデザインも身体性や感覚に根ざした部分は、AIに置き換えにくいのではないかと指摘する。とりわけ今回のピッチからは、そうした感覚的な要素の重要性が強く感じられたという。

また、自らも落語を演じることがある吉田さんだが、落語の世界では、いくら師匠の型をなぞっても成立せず、「その人が演じるからこそ」生まれる表現があると語る。その感覚はデザインにも通じるものであり、“その人だから”立ち上がる要素が、やがて主義や姿勢として形を成していくのではないかと指摘した。

さらに吉田さんは、「デザイン」という言葉自体が、これからの最先端の実践と必ずしも噛み合わなくなってきているのではないか、と問題提起した。語源であるラテン語の「designare」は、策略する、計略するといった意味を持つが、現在のデザインの実態は、その枠に収まりきらなくなっている。であれば、概念そのものを更新していくことも必要なのではないか、という考えを示した。

最後に吉田さんは、「こういう“遊び”の空間はとてもいい」と語った。明確な目的を設定せず、ただ遊ぶこと。そのなかにこそ、創造の源があるのではないかと述べ、講評を締めくくった。

ピッチ大会終了後は懇親会。発表の余韻を引き継ぐように語り合う人、初対面同士で言葉を交わす人。目的を定めすぎないこの時間そのものが、NEURONのもうひとつの場となっていた。

次回ニューロンは2026年5月に開催予定だ。

今回参加いただいた企業の皆さん。

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