YOHAK DESIGN STUDIO 佐々木 拓さん
領域を横断する思考

東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域の授業「インテリアデザイン特論」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーや建築家、クリエイターの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。

YOHAK DESIGN STUDIO 佐々木 拓さん
領域を横断する思考

コクヨのクリエイティブチーム「YOHAK DESIGN STUDIO」において、アートディレクターとしてグラフィックやプロダクトといった領域を横断しつつ、デザインを手がける佐々木 拓さん。企業内でありながら独立したスタジオのように機能する組織の中で、新しいビジュアルアイデンティティの構築からプロダクト開発まで幅広い活動を続けている。東京・千駄ヶ谷のYOHAK DESIGN STUDIOに佐々木さんを訪ねた。

個が立ち、ときに融合する組織

――YOHAK DESIGN STUDIOが生まれた背景について教えていただけますか。

YOHAK DESIGN STUDIOはコクヨ株式会社の経営企画本部に属し、クリエイティブセンター内のクリエイティブ室という組織です。ただ、コクヨ内の組織ではありますが、社外のクライアントワークも多く担っています。組織の構想自体は社内で以前から議論されてきました。企業におけるデザイン組織の動きとしては、事業ごとに最適なデザイナーや営業、開発担当者がチームを組み、効率よくプロジェクトを進めるかたちが合理的な場合もあります。しかし、その体制だけでは、クリエイティブの思想や質を横断的・一貫的に育てていくことが難しい。そこで、「領域を横断するクリエイティブセンター」という構想に向かったんです。

その具体的なかたちを模索するなかで、2017年にスタートしたのがTHINK OF THINGSです。店舗という場を通して、顧客と直接関わりながらクリエイティブを発信する。この取り組みを出発点として、新規事業部門とデザイン部門の中間であり、インハウスデザイン組織とデザイン事務所の中間に位置するような組織の可能性が見えてきました。そうした試行錯誤を経て、YOHAK DESIGN STUDIOの体制が形づくられてきたのです。

――YOHAK DESIGN STUDIOが自らを「デザインコレクティブ」と呼ぶ背景には、どのような考え方があるのでしょうか。

いろんな領域のデザイナーがいるので、個で立ちながら、ときには融合してデザインをするという意味で「コレクティブ」かなと思います。それに組織内のヒエラルキーをなくしていきたいという想いもあります。

2025年10月、コクヨは創業120周年を機にリブランディングを実施。新たなビジュアルアイデンティティでは数多くのバリエーションが展開されている。

更新を続けるビジュアルアイデンティティ

――コクヨの新しいビジュアルアイデンティティでは、斜めのグリッドによるシステムと鮮やかなカラーリングを活かした、とても多くのパターンのグラフィックが印象的です。ここにはどのような狙いが隠されているのでしょうか。

まずバリエーションを多くしているのは、アイデンティティをつくっていくうえで、いろんな表情があったほうがコクヨらしさが表現できると考えたからです。象徴的なひとつのロゴをつくって、それをあらゆるところに展開していくというメガブランド的な考え方もあります。しかし、もう少し有機的でオーガニックなもののほうがコクヨに合っていると思ったんです。

コクヨはさまざまな事業を展開する企業であり、いろいろな活動の集合体である。そういうことを表現するために、多くのバリエーションが生まれるシステムをつくりました。実はグラフィックのパターンの数は定めてないんです。会社は変わっていくものだし、中で働く人も入れ替わっていく。だからグラフィックも更新していきたい。

――佐々木さんのグラフィックでは、文字の造形よりも、配置や構成が重要視されている印象があります。

ディティールで遊ぶのも大事だと思うんですが、もう少し引いた視点で、全体を見てグラフィックをつくる必要があると考えています。以前、フォントの検討からデザインを始めたことがあったのですが、一緒にデザインをしていた同僚の金井あきから、「フォントなんて何でもいいんだから、どれか適当なものでつくってみなよ」と言われて(笑)。そのときに、フォントよりも、もっと大事なことがあるなと考えたのをよく覚えています。

YOHAK DESIGN STUDIOのオフィス。

シンボルを立ち上げる

――YOHAK DESIGN STUDIOがデザインした空間は非常にグラフィカルな印象を受けます。

空間に関しては、YOHAK DESIGN STUDIOの空間チームが担っているのですが、機能的かどうかだけではなくて、象徴をつくる、シンボルを立ち上げるという意識が強いように感じます。きれいに見せるというよりは、空間の中に強い印象を置くという感じです。

また、オフィス空間の設計事例が多くありますが、「いかにオフィスらしくないものにするか」という発想も強い気がします。例えば、私たちが働いているYOHAK DESIGN STUDIOのオフィス。オフィスって外とつながることがあまりないじゃないですか。ここでは外に一回出ないと上階に行けない動線をあえてつくったり、バルコニーのような場所を設けたり、植物がたくさん置かれていたり、外の空気に触れられる状態が随所に意識されています。

――YOHAK DESIGN STUDIOによるプロダクトは空間で主張する“アクセント”のように見えます。

もともとプロダクトだけをデザインしていた頃は、プロダクトデザイナー同士の価値観のなかで「いい」とされるものを基準にしていました。でも空間やグラフィックのデザイナーと一緒に仕事をするようになって、「いいもの」の前提がまったく違うことに気づいたんです。

YOHAK DESIGN STUDIOやTHINK OF THINGSのプロダクトは、空間の案件から生まれるものも多い。この場所にこれがあったらいいよね、という発想が起点になっています。空間に馴染むだけのものは、空間デザインの中ではあまり意味を持たない。むしろ、空間を成立させるための「キーになる存在」であることを意識しています。

THINK OF THINGSでベストセラーとなっている「サークルバスケット」。THINK OF THINGS店内の什器としても使用されている。

――YOHAK DESIGN STUDIOのプロダクト写真は、白背景でモノだけを写したものが多いのですが、何か意図があるのでしょうか。

単純に人が入っている写真が、あまり好きじゃないということもあります。モデルを使えばそれらしい写真は撮れますが、「使い心地がいいですよ」と説明的な写真になってしまいかねません。でも、例えばハサミは使用場面の写真がなくてもハサミだとわかりますよね。そこまで丁寧に説明しなくても理解できる。だとしたら、説明よりもインパクトを優先したい。最初はコクヨの昔の製品を「ただかっこよく見せたい」という想いから、白背景に強い光を当てて撮るようになり、次第に「図鑑的な見せ方」が定着しました。

――色や仕様の決定において、売れ筋よりも実験を優先することはありますか。

かなりあります。商品によっては発注数が数十点程度のものがあり、その都度色を変えています。色を決めるときも、「どの色が売れているか」より、「なんとなく綺麗そうだね」というように、理屈ではなく、感覚で決めることもある。まず出してみて、人気が出たらまたつくる。この軽さが、YOHAK DESIGN STUDIOの“実験場”らしさだと思っています。

体験が思考の起点となる

――分野横断的なプロジェクトが多いと思うのですが、スタートするときはどのようなことから考えはじめるのでしょうか。

プロジェクトごとに進め方はかなり異なります。基本的にはチーム単位で動くことが多く、必ずしも共通のプロセスがあるわけではありません。一方で、グラフィックや空間といった既存の領域にきれいに収まらない、“中間領域”的な依頼を受けることもあります。その場合は、複数のメンバーが横断的に関わりながらプロジェクトを進めていきます。

例えば、「COPY CORNER」のようなプロジェクトでは、最初に議論するのは「どんな体験をつくるのか」という点です。体験の設計を起点にして、そこから必要な空間のあり方や、適したプロダクトのかたちへと発想を広げていく。 つまり、特定の領域を出発点にするというよりも、「体験」を思考の起点にすることが多いのです。

――領域横断型の組織の中で、デザイナー同士や他職種との関わりはどのように行われているのでしょうか。

実は、異なる領域のデザイナー同士の交流はまだ課題だと思っています。プロジェクトごとのチームの中では、ディレクターやデザイナーなど異なる職種が一緒に動きますが、デザイン領域そのものが大きく混ざる機会はそこまで多くはありません。だからこそ、横断することの価値をもっと追求していきたい。組織としても、取り組み方としても、まだできることはあると感じています。その“取り組み方”自体をデザインしていくことができれば面白いですよね。

専攻に縛られず、学びつづける

――プロダクトデザインから領域を広げていった経緯と、その過程で大切にしてきたことを教えてください。

もともとはプロダクトデザインが専門ですが、自分の意図と違う見え方でカタログや写真に掲載されることがあり、「見せ方まで自分でデザインしたい」と思ったことが、グラフィックへ広がるきっかけでした。本格的に取り組みはじめたのは30歳前後です。

領域を横断してきたなかで大切にしているのは、「どんな価値をつくりたいのか」という軸です。手段としてのデザイン領域は変わっても、何を伝えたいのかが一貫していれば、迷うことは少ないと思います。

ここで学生のみなさんに伝えたいのは、専攻に縛られすぎないでほしいということです。専攻があることで、逆に可能性を狭めてしまうこともあります。興味を持ったことがあれば、「できたらいいな」で終わらせず、まず挑戦してみることが大切です。興味がある分野は学びのスピードが大きく加速しますし、そこから自分の軸が見えてくることも多い。そして、もうひとつ大事なのは「学び方を学ぶこと」です。学生のうちに、興味を持ちつづけ、学びつづける姿勢を身につけておけば、卒業してからも成長しつづけることができます。デザインの世界は変化が速いので、その姿勢こそがいちばんの武器になると思います。(取材・文・写真/東京都立大学 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域 市川海来、片山明佳里、小林優芽、小林 亮、西村 乾、野口紗希、宮里珠央)

佐々木 拓/1985年東京生まれ。YOHAK DESIGN STUDIO アートディレクター。2008年多摩美術大学卒業後、コクヨ入社。プロダクト、グラフィック、ブランディング、企画まで幅広く手がける。2022年にJAGDA新人賞を受賞。
https://yohak.kokuyo.com