パリに誕生したデザインイベントMATTER and SHAPE 2026
ファッション・ウィークに合わせて開催される意味とは

バイオ由来の素材の詩的な表現と社会的な視点の交差点として、エコロジカルな美学を提案するベルギーのALEORギャラリー。建築事務所BENTOによる赤い菌糸体(マイセリウム)でつくられたシェルフTrametesを初公開。生きた素材の可能性を探り、デザイン・建築・生命について問いかける。©MickaëlLlorca

パリのファッション・ウィークに合わせ、デザインとクリエイティブ産業の交差点となる見本市「MATTER and SHAPE」が、3月6日から9日までチュイルリー公園で開催された。3回目を迎えた同イベントは、ファッションとデザインの境界を横断する新たなプラットフォームとして、その存在感を着実に高めている。

主催は、30年以上のトレードフェアの実績を誇るフランス企業WSN。毎年パリ・ファッション・ウィークには8,000人を超えるバイヤーが世界各地から集結する。こうしたネットワークを背景に、同社は同一会場で開催されるファッションアクセサリーのクリエイター向け国際見本市「Premiere Classe」と連動させ、リテーラーの観点からファッションとデザインの距離が縮まる契機となることを期待している。MATTER and SHAPEの代表を務めるマティユ・ピネ(Matthieu Pinet)、クリエイティブディレクターのダン・ソーリー(Dan Thawley)、そして戦略コンサルティング会社P:Sを中心とするチームが運営を担う。会場となる仮設パビリオンは、ロンドンとニューヨークを拠点に活動する建築スタジオJA Projectsが設計した。

香りを芸術表現として再定義するプラットフォームOLFACTORY SIGNALSは、言語としての香りを探求し、発見・感情・物語を生み出すツールとして提示した。©MickaëlLlorca

ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した香港の美術館M+の設計プロセスから生まれた「Hong Kong Stool」。アジアの伝統的な木製門や木工技術に着想を得た構造で、一本の木ネジで全体を固定するパズルのような構造が特徴。竹の質感を思わせる加工が施され、アナログとデジタルの境界を探るデザインでもある。今回、ウォルナットとアッシュ材を組み合わせた限定シリーズ「Droite et Gauche」を展示・販売した。©MickaëlLlorca

MATTER and SHAPE代表のマティユ・ピネ(右)とクリエイティブディレクターのダン・ソーリー(左)。©LarsBronseth

70組が参加した2026年のハイライト

2026年の展示では、世界のクリエイティブ産業から70組の出展者が参加した。そのうち約8割が初出展であり、さらに大半がフランス国外からのメーカーやクリエイターで占められるなど、国際色の強いラインナップであり続ける。

今年のテーマは「スケール」。来場者に対し、遊び心を伴いながら、物事の本質はどこにあるのかと問いかけるような内容だった。その際、五感を誘発したり、嗅覚を通じて空間体験を拡張させたり、あるいは期間限定レストラン「Balbosté」ではスケールというテーマを反映したメニューが提供された。例えば、ひとつのデザートをサイズ違いで用意し、それらを一皿にまとめることで、視覚的に印象的なプレゼンテーションを行ったりした。さらに、家具やクラフト、都市環境をめぐる専門家によるトークセッション、出展者のプロダクトを販売するショップ、パリ市内各所でのサテライト展示など、会場の外へと広がるプログラムも用意された。

日本からは、障害を超えて異彩を放つ作家とともに新しい文化を創造する企業ヘラルボニー、西陣織の老舗HOSOO、ジュエリーブランドSHIHARA、ライフスタイルブランドVEDA、デザインスタジオwe+の5組が出展した。

2回目の参加となるwe+の林登志也と安藤北斗は、MATTER and SHAPEについて、「海外に向けたスタジオのPRやイメージづくりと、新しい案件につなげていくための場として、学ぶことが多い」と語る。海外初出展のVEDA代表・北尾大地は、「石という永続的かつ個体差のある素材を通して、日本古来の美のあり方を提示することに挑戦した」と話し、ブランドの思想や方向性を発信するための投資の場としての意義を強調した。

一方、パリにショールームを構えるイタリアの照明ブランドGiopato & Coombesは、「メーカー、職人、デザイナーが1カ所に集まる点が魅力で、ショールームだけではキャッチしにくい将来的なクライアントと出会う機会である」とコメントしている。

we+は、微細藻類の多様な色に着目したリサーチプロジェクト「SO-Colored」を展示。藻類パウダーと天然由来樹脂を組み合わせた素材からオブジェを制作し、持続可能な新しい色の可能性を模索する。本プロジェクトはwe+とAlgal Bioの共同開発で実現した。©MickaëlLlorca

海外初出展のVEDAは、大理石と御影石を用いた新作オブジェのコレクション「SHAPED BY PERCEPTION」を発表。日本の美意識を再解釈しながら、「美しさは他者の評価ではなく自身の知覚によって形づくられる」という考えを表現。職人による手仕事と天然石の個体差を生かし、揺らぎや不完全さを含む美のあり方を提示した。©VEDA

Giopato CoombesがデザインしたScarabeiは「自然な成長」という原理に基づき、同じ形の反復ではなく、わずかに変化しながら広がる照明器具シリーズ。土型で鋳造されたドーム状のアルミニウムが集まり、環境のなかで拡張・収縮するような集合体をつくる。遠くからは立体的な地形のように見え、近づくと土の質感をもつ細かな表情が現れる。光と影が曲面を浮かび上がらせ、知覚を変化させるような体験を創出する。©Giopato Coombes

ファッションの世界が捉えるデザインシーン

MATTER and SHAPEの特徴は、ファッションの世界で培った独自のキュレーションにある。素材や工芸、インテリア・装飾デザイン、家具、フード、フレグランスといった領域を横断し、ユニークピースからエディション作品にいたるまで、生産規模にとらわれない幅広い提案を受け入れる。実績のある企業から新進のクリエイターまでが同じ舞台に並ぶ点も、このイベントの特色だ。

さらに出展者は、有名企業であっても、一般的な見本市のようにブース位置や展示内容を自由に決めることはできない。主催チームとの対話を通じて展示構成を練り上げ、会場全体のストーリーに参加するかたちでキュレーションが進められる。結果として、イベントはトレードショーとしてのBtoB機能を持ちながら、ギャラリーのようなBtoC体験も併せ持つ独特の場を実現している。

代表のマティユ・ピネはこう語る。「MATTER and SHAPEは、10年前にエッジの効いた商品を扱うオンラインショップとしてすでに存在していました。しかし、パンデミックを経験し、デジタルは人と人が直接出会う場の代わりにはならないと確信したのです」。

その言葉どおり、作品や商品の選定だけでなく、サステナビリティや生産プロセスの透明性など、現代の消費市場をめぐる課題を踏まえながら、展示の方法や空間のあり方を模索し続けている。主催者によれば、2027年にMATTER and SHAPEの海外展開も予定されている。開催都市は近日中に発表される見込みだ。パリで始まったこのプラットフォームが、グローバルなデザインシーンへどのような影響をもたらしていくのか、次の動向が注目される。End

フランスのインダストリアルデザイン事務所Unknown, Untitledによるエラストマーとガラスという対照的な素材の特性ーー透明と不透明、光沢とマット、硬さとしなやかさーーの関係性を追求するプロジェクトRubber&Glass。展示はハイブリッドな椅子、ローテーブル、照明で構成された。©MickaëlLlorca

創業から現在にいたるまでのテキスタイルに使用されるパターンやモチーフのアーカイブを紹介したマリメッコ。
©MickaëlLlorca

会場内のショップ。什器は麻を混ぜたブロックで構成されており、会期終了後は別のプロジェクトで活用される見込みだ。©Celia Spenard-Ko