ポーラ ミュージアム アネックス
「松尾高弘 インタラクティブアート展」レポート

自然界の現象や法則性、イマジネーションの美を追求し、インタラクティブな光のインスタレーションを制作するアーティスト、松尾高弘東京での初個展「 LIGHT EMOTION」が、銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開かれている。会場では2つの体験型インスタレーションを発表、1階のショーウィンドウも松尾の作品だ。

▲「 White Rain」 Photos by Nacasa & Partners, Photos provided by Color Kinetics Japan

「 White Rain」は新作のインスタレーション。暗がりの室内に入ると、無数の光の“粒”が雨のように天井から降り注いでくる。ピアノの単音がランダムに鳴り響き、鑑賞者が“光の雨”のなかに進むと、降り注ぐ光がその周りだけ強くなり、音の強さや間隔が変化する。

仕組みは、LEDを縦に配列した照明28本と、その光を反射させるための透明なアクリルポール50本を、天井から吊り下げている。LED照明は、カラーキネティクス・ジャパンと共同でデバイスを開発。長さ2m50cmの透明アクリルバーに白色のチップLEDが収まっており、全LEDを1灯ずつ制御することができるという。

「LEDの光をそのまま使うと強くて繊細な表現が難しい」と語る松尾は、落ちてくる雨粒の重みや“みずみずしさ”をイメージしながら、ランダムに光の強さや明滅をプログラミングした。あえて実際の雨の重さや速さなどを分析したり、模倣しないことで、現実と非現実の中間にある不思議な世界観を生み出している。

「LEDはほかの光源と比べてフラットでピュアな光が特徴。本作品での取り組みによって、光という素材そのものについて考えることができた」と松尾。“エネルギー”として捉えられがちな電気も、双方向性を実現するテクノロジーやアートの要素を取り入れることで、人の気持ちや感情に働きかける“メディア”となり得るという。

▲「 Aquatic Colors」 Photos by Nacasa & Partners, Photos provided by Color Kinetics Japan

もう1つの作品「Aquatic Colors」は、2009年のミラノサローネでキヤノンの「NEOREAL」として展示したもの。鑑賞者がスクリーンに手をかざすと、センサーによってリアルタイムCGのクラゲがふわふわと漂い発光する。

本展では光の透過性をより高めるため、目の細かいオーガンジーを使って、展示室中央に曲面のスクリーンを設置。プロジェクターの映像がスクリーンと展示室の壁の双方に投影されるよう変えている。スクリーンと壁のあいだに立った鑑賞者は、スクリーンに手を伸ばしてクラゲの映像を呼び出すと同時に、自らの影が映像コンテンツの一部として壁に投影されるという不思議な感覚を味わうことになる。

クラゲが発光する映像は、ホタルの光やそよ風のパターンといった規則性とランダム性の中間にある“ゆらぎ”のアルゴリズムを加えることによって、なんとも心地よい明滅を繰り返す。またクラゲが複数重なることで光量が増し、その辺りだけが明るく浮かび上がる。松尾が「映像と照明のあいだを目指した。光による感情豊かな空間を体験してほしい」と語るように、これまでにない光を身体全体で感じることのできる作品だ。

▲「 Aurora」 Photos by Nacasa & Partners, Photos provided by Color Kinetics Japan

なお、1階のショーウィンドウにはオーガンジーの布と自然光、LED照明が織りなす「Aurora」と題した作品がディスプレイされている。天候や時間帯によって変化する自然光と人工の光を組み合わせ、さらにオーガンジーがゆらぐことによって、常に変化しつつも終わりのない、無限の時間を感じさせるオーロラを出現させている。ショーウィンドウの展示は8月18日(木)までだ。(文/今村玲子)


「松尾高弘 インタラクティブアート展 -LIGHT EMOTION-」

会  期:2011年6月5日(日)〜7月10日(日)(会期中無休)
開館時間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)
会  場:ポーラ ミュージアム アネックス
入 場 料:無料




今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。